2012年02月25日
世界征服彼女 レビュー
今現在『World Wide Love』をプレイ中なので(『ネブプラス』も予約済),そっちをクリアしてから書くべきかは迷ったところであったが,ファンディスクも単体でレビューを書いたほうがよいという結論に至り分けることにした。
本作は幼馴染の夢子が,天才科学者としてスーパーロボットを作り上げ,世界征服に乗り出したことで起こるドタバタ劇である。この設定から大体わかる通り,徹頭徹尾幼馴染(夢子)ゲーであると言って差し支えない。が,他のヒロインの存在価値が無いというわけではなく,むしろすべてのシナリオが主人公と夢子,そして攻略ヒロインの三角関係で推移する。そして,攻略されたヒロインと夢子の関係性の違いによって,個別ルートの内容が微妙に違ってくるという点が,本作で最もおもしろい点と言えるだろう。実際のところ,主人公と夢子の強固な幼馴染関係に,第三者がいかに食い込んでいったかという話でもあり,物語の筋はどのルートでも大きな違いはない。あくまで微妙に違うだけなので,一見して単調であり,3人目に取り掛った頃には少々だれてくるのも否定しがたい。しかし一方で,この微妙な違いこそ語るべきところなのではないかと思う。最後の選択肢の場面を考えるに,展開を似せたのはわざとであろう。これについてはどうしてもネタバレとなるため,後で詳述する。
本作は,内容の要約をしてもレビューにはならないということでばっさり1行で説明してしまったが,非常に基礎設定がしっかりしている。そのため,これだけぶっとんだ設定であるにもかかわらず,物語の進行にほとんど不自然さがない。特に幼馴染ヒロインにとっては必須であり中核となる要素である,夢子と主人公の過去についてはかなり綿密に設定され,その作中での説明にも配慮が見られる。夢子が科学者になった理由(無論主人公が大きくかかわっている)や,夢子と主人公が親しくなった理由など,幼馴染ヒロインとしてのアドバンテージをフルに活用しており,夢子というメインヒロインを魅力豊かなものにしている。ここでこけていたら本作はどうしようもない駄作になっていただろうが,設定を作り込むことで,ありきたりになりかねない「幼馴染」という要素をむしろ突飛な特徴に作り替えてしまった。これだけ強烈な幼馴染ヒロインが作品全体をしょって立つエロゲというと,多分『マブラヴ』くらいしかない。
とまあ,ギャグゲーかキャラゲーという感じで,私の友人が楽しそうにプレイしていたのをtwitterで横目で眺めていて購入を決めたわけだが,やってみると案外と語れるシナリオということに気づいてしまった。ただし,本作はギャグゲー・キャラゲーとしても割りと優秀であり,特にギャグについてはなんだろう,Navelの伝統なんだろうか,あごバリア・王雀孫の系統でキレを見せている。東ノ助氏には今後も期待が持てる。パロディは比較的少なめ。ただし,聖地巡礼でも狙っているのか,舞台となる小田原市ネタは非常に多い。すでに聖地巡礼を果たした方は何人かいるが,背景については現地まんまである。また,冒頭に書いた通り夢子の作った世界征服兵器がスーパーロボットであるため,スーパーヒーロータイム系のお約束ネタは満載に詰め込まれている。ただし,某キャラが右翼系ヒロインという斬新な設定であるため(公式のキャラ紹介では「旧時代系大和撫子」とぼかしてある),ごく一部ではあるが「ワロタwww……わろた……」的なものはいくつかあった(街宣車ネタとか)。
キャラゲーとしてはハズレがなく,見事に全員かわいい。キャラの立ってない子はいない。個人的な話をすると,普段の属性から言えば菜子になるのだが,本作ではどうしても夢子が一番かわいかったとしか言いようがない。シナリオの都合上,愛着がわかないわけにはいかず,そうして言動を見ていると本作の作りこみ具合に改めて気づくと同時にまた愛着がわくのである。何より,声優の籐野らんが怖いくらいはまり役で,この人うまいなと再確認した。
音楽や演出には文句がないし,絵については西又御大ですんで。なんで脱がすと魅力なくなるんだろうなとか,相変わらず私服のデザインぶっ飛んでるよなとかは思うけど,立ち絵に関してはとてつもなくかわいい。もう彼女はひたすら立ち絵のバリエーション作ってればいいと思う。総じて私の本作の評価はかなり高い。85点近くはつけられるだろう。
以下ネタバレ。『マブラヴ』も(致命的な)ネタバレ有り。割りと長いが,本作は単なるキャラゲーと見られてあまり語られないきらいがある。そこで,かなり単純なところから論点を書きだしてみたつもりであり,その結果長くなったということは一応書いておく。
本作は幼馴染の夢子が,天才科学者としてスーパーロボットを作り上げ,世界征服に乗り出したことで起こるドタバタ劇である。この設定から大体わかる通り,徹頭徹尾幼馴染(夢子)ゲーであると言って差し支えない。が,他のヒロインの存在価値が無いというわけではなく,むしろすべてのシナリオが主人公と夢子,そして攻略ヒロインの三角関係で推移する。そして,攻略されたヒロインと夢子の関係性の違いによって,個別ルートの内容が微妙に違ってくるという点が,本作で最もおもしろい点と言えるだろう。実際のところ,主人公と夢子の強固な幼馴染関係に,第三者がいかに食い込んでいったかという話でもあり,物語の筋はどのルートでも大きな違いはない。あくまで微妙に違うだけなので,一見して単調であり,3人目に取り掛った頃には少々だれてくるのも否定しがたい。しかし一方で,この微妙な違いこそ語るべきところなのではないかと思う。最後の選択肢の場面を考えるに,展開を似せたのはわざとであろう。これについてはどうしてもネタバレとなるため,後で詳述する。
本作は,内容の要約をしてもレビューにはならないということでばっさり1行で説明してしまったが,非常に基礎設定がしっかりしている。そのため,これだけぶっとんだ設定であるにもかかわらず,物語の進行にほとんど不自然さがない。特に幼馴染ヒロインにとっては必須であり中核となる要素である,夢子と主人公の過去についてはかなり綿密に設定され,その作中での説明にも配慮が見られる。夢子が科学者になった理由(無論主人公が大きくかかわっている)や,夢子と主人公が親しくなった理由など,幼馴染ヒロインとしてのアドバンテージをフルに活用しており,夢子というメインヒロインを魅力豊かなものにしている。ここでこけていたら本作はどうしようもない駄作になっていただろうが,設定を作り込むことで,ありきたりになりかねない「幼馴染」という要素をむしろ突飛な特徴に作り替えてしまった。これだけ強烈な幼馴染ヒロインが作品全体をしょって立つエロゲというと,多分『マブラヴ』くらいしかない。
とまあ,ギャグゲーかキャラゲーという感じで,私の友人が楽しそうにプレイしていたのをtwitterで横目で眺めていて購入を決めたわけだが,やってみると案外と語れるシナリオということに気づいてしまった。ただし,本作はギャグゲー・キャラゲーとしても割りと優秀であり,特にギャグについてはなんだろう,Navelの伝統なんだろうか,あごバリア・王雀孫の系統でキレを見せている。東ノ助氏には今後も期待が持てる。パロディは比較的少なめ。ただし,聖地巡礼でも狙っているのか,舞台となる小田原市ネタは非常に多い。すでに聖地巡礼を果たした方は何人かいるが,背景については現地まんまである。また,冒頭に書いた通り夢子の作った世界征服兵器がスーパーロボットであるため,スーパーヒーロータイム系のお約束ネタは満載に詰め込まれている。ただし,某キャラが右翼系ヒロインという斬新な設定であるため(公式のキャラ紹介では「旧時代系大和撫子」とぼかしてある),ごく一部ではあるが「ワロタwww……わろた……」的なものはいくつかあった(街宣車ネタとか)。
キャラゲーとしてはハズレがなく,見事に全員かわいい。キャラの立ってない子はいない。個人的な話をすると,普段の属性から言えば菜子になるのだが,本作ではどうしても夢子が一番かわいかったとしか言いようがない。シナリオの都合上,愛着がわかないわけにはいかず,そうして言動を見ていると本作の作りこみ具合に改めて気づくと同時にまた愛着がわくのである。何より,声優の籐野らんが怖いくらいはまり役で,この人うまいなと再確認した。
音楽や演出には文句がないし,絵については西又御大ですんで。なんで脱がすと魅力なくなるんだろうなとか,相変わらず私服のデザインぶっ飛んでるよなとかは思うけど,立ち絵に関してはとてつもなくかわいい。もう彼女はひたすら立ち絵のバリエーション作ってればいいと思う。総じて私の本作の評価はかなり高い。85点近くはつけられるだろう。
以下ネタバレ。『マブラヴ』も(致命的な)ネタバレ有り。割りと長いが,本作は単なるキャラゲーと見られてあまり語られないきらいがある。そこで,かなり単純なところから論点を書きだしてみたつもりであり,その結果長くなったということは一応書いておく。
とまあ,特に他作品と比較することなく評価することが可能なのだが,あえて比較するとすれば前出の『マブラヴ』だろう。幼馴染ヒロインが中核で,他ヒロインを攻略しようとすると障壁になるところはまんま同じである。そして,言葉にすれば簡単にそうに見えるこの舞台装置を創り上げるために,突拍子がないとしか言えないほどめんどくさい世界設定を構築した点でも,また同様である。一方で,夢子は各ルートの最後の最後で物理的に立ちはだかるのに対し,純夏は眼に見えない形での干渉であった。ついでに言うと,夢子はなんだかんだで折れてくれるが,純夏は武(主人公)と付き合えるまで永久ループであるから,しつこさとしては純夏のほうが上かもしれない。この違いは,『マブラヴ』はある意味セカイ系の範疇に含みうるのに対し,本作はこのような構造の作品であるにもかかわらず,セカイ系には橋にも棒にも引っかからないという点でも確認できる。『セカジョ』は,「君と僕と世界」にならぬよう,そうなりそうな話は適当に逸らしている節がある。夢子のシナリオでさえも完全には没入しきらない。
(この段落は駄文なので読み飛ばしてもらってかまわない。さて,Kanon問題に対する誤解が『CrossChannel』等を生んだとするなら,本作を生んだのは「主人公が他のヒロインと付き合いだした時に,幼馴染ヒロインがあっさりと納得する不自然さ」ではないだろうか,とは思った。これはこれで,エロゲ界に巣食うパラノイアの一種であろう。この鎖があまりにも強すぎるからこそ,その反動としての『マブラヴ』も本作も,わざわざ幼馴染を”ちゃんと”攻略するために,このバカみたいな設定を組み上げざるをえなかったのではないか。逆説的に,こうした作品で真ん中に立つのはおおよそ幼馴染か妹のいずれかであって,幼少期のフラグだとか積み上げてきた時間の長さだとかいったものの恐ろしさを痛感するのであった。いやまあ,それ以外のヒロインだったら,電波オチか前世オチにしかならなさそうなのだけれど。)
個別ルート評。評価というか解説になってしまった。しかも,実際のところ本作は語りが非常に丁寧なので,プレイ済の人には解説するまでもない内容なのである。しかし,前述の通り,本作の味噌はヒロインと夢子の関係によって個別ルートの展開が全く異なるということであり,この点はどうしてもまとめておかねばレビューとしての体裁が成り立たない。以下,もう少しだけこの文章にお付き合い願いたい。
・桜子:夢子と主人公共通の,数少ない旧知の友人であり,しかも前の学校(中学的な学校)でフラグが立っていた,という存在。そして,桜子は夢子のことをよく知っていたからこそ遠慮していた。夢子もそのことを知っていたから,全ルートで唯一夢子があっさりと譲った,ということが言える。桜子での夢子は,征人の桜子に対する愛を試しただけで,八つ当たりで世界征服に乗り出したわけではない。さらに言えば,そういう存在だったからこそ,様々なシナリオの終盤で,いちはやく夢子の世界征服に乗り出した理由を察するなど,おいしいところで活躍している。
というように作品全体から見ると彼女の存在は非常に重要なのだが,問題は彼女自身のキャラ立ちがいまいちだったという……文句なくかわいいのだが,かわいいでとどまったようなところはあるのかな,と。某友人の言葉を借りると「足りんかったんや……猫キチだけでは……」。シナリオも綱吉の一件だけでは押しが弱く,桜子関連はもうちょっとなんとかなっただろうというところがある。それはそれとして,声優さんが某中村先生(の生き別れの双子)であり,アイマス民としてはどうしても某キャラや中の人(の生き別れの双子)とのギャップが激しく,そっちが原因でしばしば爆笑してしまった。桜子と声優さんには大変申し訳なく……条件反射的なものなので許していただきたい。
・椿子:百合っ子で,ギャグ要素で終わるのかと思いきやそうでもなかったという。百合っ子だからこそ,最後の選択肢が生きたとは言えるだろう。桜子に続いて,比較的夢子が納得してあきらめることができた。シナリオ全体としてはすごくわかりやすいトラウマ解消系ではあるのだが,これが一番感動したシナリオであるというのは自らの単純さを自覚せざるを得ない。が,間違いなく良いシナリオである。そして,バッキーのトラウマ解消経験をへたからこそ,征人は夢子を説得することができた。主人公が,自分の負い目をぬぐって夢子を自分から説得できたのは,夢子本人のシナリオとこのシナリオだけだ。バッキーのトラウマや百合要素は,当人のシナリオを良くするためだけに用いられたわけではないのである。
・亜子:旧時代系大和撫子。というか右翼系ヒロイン。本作に非常に強いインパクトを残していった。ギャグとしては最も利用されたヒロインではないだろうか。しかし,右翼的であることは除いても,彼女のような強いヒロインを立てたのは,やはり夢子と正面から殴り合えるヒロインが一人は必要だったということにほかならない。ついでに言えば,「夢子が八つ当たりに世界征服するなどという(非道な)行為は許せない」という強い正義感を持ったキャラでもないとこのシナリオは成り立たなかった。夢子と亜子,二人とも立場や性格が邪魔して,ぶつかり合える同性の友人などいなかったのだ。本作のキャラ付けは無駄も隙もない。しかし,あの竹刀のCGはもうちょっとなんとかならんかったのか>西又先生。亜子様がすごく間抜けに見えるので……
なお,彼女のシナリオは個別ルートに入ると,ウィンドウの表示からカタカナが消えて漢字になる。さらに,各章のタイトルが『源氏物語』の章立てと同じ名前になる。より正確に言えば,作中時間の元日の章が「桐壺」になり,そこからは少し飛ばす章もありつつも(玉鬘十帖などは大幅にカット),『源氏』に沿ってタイトルが並んでいる。これはおもしろい工夫なのだが,そのせいで初Hシーンが「若菜」,夢子とのバトルシーンが「夕霧」,エピローグ手前が「御法」になってしまい,それぞれ少々縁起が悪い。一方,バッドエンドにあたる夢子を選んだ場合はエピローグ手前が「幻」,エピローグが「雲隠れ」になるので,ある意味正しい。正規エンドのエピローグは,宇治十帖をすっ飛ばして「夢の浮橋」になる。
菜子:さて,お気づきの方もいると思うが,これは夢子が許せなかった順である。残酷な言い方をすれば,夢子から見れば菜子は泥棒猫でしかない。ゆえに最も許せなかった。本作で繰り返し語られる通り,結局のところ夢子にとっての世界征服とは征人に正面から向き合えない(できなかった)八つ当たりでしか無い。しかし,桜子・椿子・亜子の三人は何かしらの縁があるから,八つ当たりにしても後ろめたさがあった。それが,菜子に対してはないのである。巨大ロボットが登場して,正面から殴り合えることがわかって一番喜んだのは,実は夢子ではないだろうか。世界ではなく,本人に八つ当たりできるのだから。このルートのバッドエンドだけ,ヒロインは征人の元を去る。
それゆえに,このシナリオだけ完全に夢子が悪役であり,熱血巨大ロボバトル物になるのである。そのためには,菜子は転校生でなくてはならず,さらに夢子と接点が生じづらい無口な子でなければならず,さらに巨大ロボットに乗る必要がある。結果としてできたのが国防隊員という設定であろう。恋に破(敗)れた夢子の逃亡先でありかつ咲上三式の制作者としての夢子の父親・祖父といい,本作の設定は複数の役割を兼ねてつくられているがゆえに,物語の厚みの割に設定がスマートだ。
夢子:幼少期に頼れる存在が主人公しかいなかった,というのはよくあるパターンだが,そこから主人公しか頼れなかった理由が「頭良すぎて浮いてたから」とし,さらに「主人公に頼って社会性を保ってきたため,今でもコミュニケーションが苦手」で主人公に依存傾向がある,とするところまで設定したのはよく踏み込んだと思う。夢子は長じても,征人への依存をやめる気はなかった。なぜなら,彼女はその天分の才を思う存分発揮し,社会性なんぞなくても十分に己のアイデンティティを確立できたからである。一方,征人は逆であった。夢子の面倒を見ることで彼のコミュニケーション能力はしぼんでいき,結果として夢子だけが彼の世界になりかけていた。しかし,閉じていく危機感を覚えたところが征人と夢子の違いである。この危機に対する抵抗が,中学時代の桜子へのフラグ立てであり,作品序盤の”夢子断ち”であった。どちらもうまくはいかなかったが。
ゆえに,他のヒロインのシナリオはこれまで見てきたように,必然的に夢子を独り立ちさせるシナリオになる。逆に夢子のシナリオはどうなるのか?といえば,全面降伏するシナリオだった,としか言いようがない。彼女ほど重くてめんどくさいヒロインも,広いエロゲ界といえどなかなかいまい。幼馴染同士だからといって,そのまま付き合えるわけではないのが,夢子の一番めんどくさいところだ。彼女と付き合うには,彼女の不健全さをまるごと受け入れる必要がある。それには大変な覚悟がいるが,征人は逆に中途半端に社会に開いていたがゆえに,夢子の才能に押しつぶされ,全面的に彼女を受け入れることを恐れていた。このすれ違いは非常にうまい。さて,その上で一つ注文をつけると,2周する必要はなかったように思う。要は征人が決心すれば良かったわけで,それに2周使う意味はあっただろうか。適当に選択肢でなんとかなったように思うのだが。
最後に,夢子の魅力の何割かは,籐野らんの熱演にあると思う。彼女がうまいことは言うまでもないが,本作の夢子は(『みずいろ』の日和と並んで)はまり役としかいいようがなく,泣き声も緊張してプルプル震える声も,喜びあふれた声も,見事に表現されていた。籐野らん女史に感謝を捧げつつ,このレビューの締めとする。
(この段落は駄文なので読み飛ばしてもらってかまわない。さて,Kanon問題に対する誤解が『CrossChannel』等を生んだとするなら,本作を生んだのは「主人公が他のヒロインと付き合いだした時に,幼馴染ヒロインがあっさりと納得する不自然さ」ではないだろうか,とは思った。これはこれで,エロゲ界に巣食うパラノイアの一種であろう。この鎖があまりにも強すぎるからこそ,その反動としての『マブラヴ』も本作も,わざわざ幼馴染を”ちゃんと”攻略するために,このバカみたいな設定を組み上げざるをえなかったのではないか。逆説的に,こうした作品で真ん中に立つのはおおよそ幼馴染か妹のいずれかであって,幼少期のフラグだとか積み上げてきた時間の長さだとかいったものの恐ろしさを痛感するのであった。いやまあ,それ以外のヒロインだったら,電波オチか前世オチにしかならなさそうなのだけれど。)
個別ルート評。評価というか解説になってしまった。しかも,実際のところ本作は語りが非常に丁寧なので,プレイ済の人には解説するまでもない内容なのである。しかし,前述の通り,本作の味噌はヒロインと夢子の関係によって個別ルートの展開が全く異なるということであり,この点はどうしてもまとめておかねばレビューとしての体裁が成り立たない。以下,もう少しだけこの文章にお付き合い願いたい。
・桜子:夢子と主人公共通の,数少ない旧知の友人であり,しかも前の学校(中学的な学校)でフラグが立っていた,という存在。そして,桜子は夢子のことをよく知っていたからこそ遠慮していた。夢子もそのことを知っていたから,全ルートで唯一夢子があっさりと譲った,ということが言える。桜子での夢子は,征人の桜子に対する愛を試しただけで,八つ当たりで世界征服に乗り出したわけではない。さらに言えば,そういう存在だったからこそ,様々なシナリオの終盤で,いちはやく夢子の世界征服に乗り出した理由を察するなど,おいしいところで活躍している。
というように作品全体から見ると彼女の存在は非常に重要なのだが,問題は彼女自身のキャラ立ちがいまいちだったという……文句なくかわいいのだが,かわいいでとどまったようなところはあるのかな,と。某友人の言葉を借りると「足りんかったんや……猫キチだけでは……」。シナリオも綱吉の一件だけでは押しが弱く,桜子関連はもうちょっとなんとかなっただろうというところがある。それはそれとして,声優さんが某中村先生(の生き別れの双子)であり,アイマス民としてはどうしても某キャラや中の人(の生き別れの双子)とのギャップが激しく,そっちが原因でしばしば爆笑してしまった。桜子と声優さんには大変申し訳なく……条件反射的なものなので許していただきたい。
・椿子:百合っ子で,ギャグ要素で終わるのかと思いきやそうでもなかったという。百合っ子だからこそ,最後の選択肢が生きたとは言えるだろう。桜子に続いて,比較的夢子が納得してあきらめることができた。シナリオ全体としてはすごくわかりやすいトラウマ解消系ではあるのだが,これが一番感動したシナリオであるというのは自らの単純さを自覚せざるを得ない。が,間違いなく良いシナリオである。そして,バッキーのトラウマ解消経験をへたからこそ,征人は夢子を説得することができた。主人公が,自分の負い目をぬぐって夢子を自分から説得できたのは,夢子本人のシナリオとこのシナリオだけだ。バッキーのトラウマや百合要素は,当人のシナリオを良くするためだけに用いられたわけではないのである。
・亜子:旧時代系大和撫子。というか右翼系ヒロイン。本作に非常に強いインパクトを残していった。ギャグとしては最も利用されたヒロインではないだろうか。しかし,右翼的であることは除いても,彼女のような強いヒロインを立てたのは,やはり夢子と正面から殴り合えるヒロインが一人は必要だったということにほかならない。ついでに言えば,「夢子が八つ当たりに世界征服するなどという(非道な)行為は許せない」という強い正義感を持ったキャラでもないとこのシナリオは成り立たなかった。夢子と亜子,二人とも立場や性格が邪魔して,ぶつかり合える同性の友人などいなかったのだ。本作のキャラ付けは無駄も隙もない。しかし,あの竹刀のCGはもうちょっとなんとかならんかったのか>西又先生。亜子様がすごく間抜けに見えるので……
なお,彼女のシナリオは個別ルートに入ると,ウィンドウの表示からカタカナが消えて漢字になる。さらに,各章のタイトルが『源氏物語』の章立てと同じ名前になる。より正確に言えば,作中時間の元日の章が「桐壺」になり,そこからは少し飛ばす章もありつつも(玉鬘十帖などは大幅にカット),『源氏』に沿ってタイトルが並んでいる。これはおもしろい工夫なのだが,そのせいで初Hシーンが「若菜」,夢子とのバトルシーンが「夕霧」,エピローグ手前が「御法」になってしまい,それぞれ少々縁起が悪い。一方,バッドエンドにあたる夢子を選んだ場合はエピローグ手前が「幻」,エピローグが「雲隠れ」になるので,ある意味正しい。正規エンドのエピローグは,宇治十帖をすっ飛ばして「夢の浮橋」になる。
菜子:さて,お気づきの方もいると思うが,これは夢子が許せなかった順である。残酷な言い方をすれば,夢子から見れば菜子は泥棒猫でしかない。ゆえに最も許せなかった。本作で繰り返し語られる通り,結局のところ夢子にとっての世界征服とは征人に正面から向き合えない(できなかった)八つ当たりでしか無い。しかし,桜子・椿子・亜子の三人は何かしらの縁があるから,八つ当たりにしても後ろめたさがあった。それが,菜子に対してはないのである。巨大ロボットが登場して,正面から殴り合えることがわかって一番喜んだのは,実は夢子ではないだろうか。世界ではなく,本人に八つ当たりできるのだから。このルートのバッドエンドだけ,ヒロインは征人の元を去る。
それゆえに,このシナリオだけ完全に夢子が悪役であり,熱血巨大ロボバトル物になるのである。そのためには,菜子は転校生でなくてはならず,さらに夢子と接点が生じづらい無口な子でなければならず,さらに巨大ロボットに乗る必要がある。結果としてできたのが国防隊員という設定であろう。恋に破(敗)れた夢子の逃亡先でありかつ咲上三式の制作者としての夢子の父親・祖父といい,本作の設定は複数の役割を兼ねてつくられているがゆえに,物語の厚みの割に設定がスマートだ。
夢子:幼少期に頼れる存在が主人公しかいなかった,というのはよくあるパターンだが,そこから主人公しか頼れなかった理由が「頭良すぎて浮いてたから」とし,さらに「主人公に頼って社会性を保ってきたため,今でもコミュニケーションが苦手」で主人公に依存傾向がある,とするところまで設定したのはよく踏み込んだと思う。夢子は長じても,征人への依存をやめる気はなかった。なぜなら,彼女はその天分の才を思う存分発揮し,社会性なんぞなくても十分に己のアイデンティティを確立できたからである。一方,征人は逆であった。夢子の面倒を見ることで彼のコミュニケーション能力はしぼんでいき,結果として夢子だけが彼の世界になりかけていた。しかし,閉じていく危機感を覚えたところが征人と夢子の違いである。この危機に対する抵抗が,中学時代の桜子へのフラグ立てであり,作品序盤の”夢子断ち”であった。どちらもうまくはいかなかったが。
ゆえに,他のヒロインのシナリオはこれまで見てきたように,必然的に夢子を独り立ちさせるシナリオになる。逆に夢子のシナリオはどうなるのか?といえば,全面降伏するシナリオだった,としか言いようがない。彼女ほど重くてめんどくさいヒロインも,広いエロゲ界といえどなかなかいまい。幼馴染同士だからといって,そのまま付き合えるわけではないのが,夢子の一番めんどくさいところだ。彼女と付き合うには,彼女の不健全さをまるごと受け入れる必要がある。それには大変な覚悟がいるが,征人は逆に中途半端に社会に開いていたがゆえに,夢子の才能に押しつぶされ,全面的に彼女を受け入れることを恐れていた。このすれ違いは非常にうまい。さて,その上で一つ注文をつけると,2周する必要はなかったように思う。要は征人が決心すれば良かったわけで,それに2周使う意味はあっただろうか。適当に選択肢でなんとかなったように思うのだが。
最後に,夢子の魅力の何割かは,籐野らんの熱演にあると思う。彼女がうまいことは言うまでもないが,本作の夢子は(『みずいろ』の日和と並んで)はまり役としかいいようがなく,泣き声も緊張してプルプル震える声も,喜びあふれた声も,見事に表現されていた。籐野らん女史に感謝を捧げつつ,このレビューの締めとする。
Posted by dg_law at 01:45│Comments(0)│