2012年06月06日
書評『入門 世界システム分析』ウォーラーステイン著,山下範久訳,藤原書店
世界システム論(分析)について,ウォーラーステイン本人が書いた入門書の翻訳。翻訳したのも山下範久という第一人者である。ただし,決して基本的な知識の話をしているわけではなく,具体的な史実がどうこうという話をしているわけではない。ではどこらへんが入門編なのかというと,ウォーラーステインが何をどう考えた結果,世界システム分析という考えに至ったのかという点について,懇切丁寧に説明している。そこで,ウォーラーステインの出発点が,文系諸学問というと主語が大きいかもしれないが,社会科学の学問的行き詰まりへの関心から,世界システム分析に至ったことがわかる。ウォーラーステイン自身の経歴を見てもわかることだが,実は歴史学を基盤としているわけではないのだ。むしろ逆で,現代の学問の手法的行き詰まりからさかのぼっていって史的分析にたどり着いたのである。
だから話として続くのは史実の再検証ではなく,抽象的な,理論的に世界のシステムがどう変わっていったかという話であり,理論的にはこうなるという話や,ゆえに現実世界はこう分析できる,という総括的な話が多い。ややこしい・細かい話をばっさりと省いているという意味では,確かに入門書然としている。が,そうした事情により歴史畑の人間にはなかなかハードルが高い。むしろ政治学や経済学に明るい者のほうが,「この方面から歴史を切ってくとこうなるのか」という理解ができて読むのが早いかもしれないし,楽しめるように思う。
では,歴史畑の人間にとって入門書として機能してないか,というとそうではない。じっくりと読んでいけば,結果的に世界システム分析についてはきっちりと十全に説明がなされている。「世界経済」「世界帝国」「垂直的分業」「国債分業体制」「近代世界システム(=資本主義的世界経済)」あたりの基礎的な概念は,読み通せば理解できるようになっているだろう。
そういうわけで,とてもおもしろい良書ではあるのだけれど,誰に勧めてよいかはとても悩みどころである。しいて言えば自分のような,歴史畑から世界システム分析には興味を持っているのだけれど,そういえばウォーラーステイン本人の研究自体は詳しくないなーという人を対象とするのが一番勧めやすいのかもしれない。ブックガイド含めて250ページしか無い割に,読むのはけっこう根気が必要であった。今見たらamazonのレビューでも「誰に勧めて良いかわからない入門書」的なレビューが多かったので,やっぱりそうなんだろう。これも他の方のレビューにあったが,先に講談社選書メチエの『ウォーラーステイン』(リンク先amazon)を読んでおいたほうが,理解はしやすい。私からもこちらを推薦しておく。
入門・世界システム分析
著者:イマニュエル ウォーラーステイン
販売元:藤原書店
(2006-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
だから話として続くのは史実の再検証ではなく,抽象的な,理論的に世界のシステムがどう変わっていったかという話であり,理論的にはこうなるという話や,ゆえに現実世界はこう分析できる,という総括的な話が多い。ややこしい・細かい話をばっさりと省いているという意味では,確かに入門書然としている。が,そうした事情により歴史畑の人間にはなかなかハードルが高い。むしろ政治学や経済学に明るい者のほうが,「この方面から歴史を切ってくとこうなるのか」という理解ができて読むのが早いかもしれないし,楽しめるように思う。
では,歴史畑の人間にとって入門書として機能してないか,というとそうではない。じっくりと読んでいけば,結果的に世界システム分析についてはきっちりと十全に説明がなされている。「世界経済」「世界帝国」「垂直的分業」「国債分業体制」「近代世界システム(=資本主義的世界経済)」あたりの基礎的な概念は,読み通せば理解できるようになっているだろう。
そういうわけで,とてもおもしろい良書ではあるのだけれど,誰に勧めてよいかはとても悩みどころである。しいて言えば自分のような,歴史畑から世界システム分析には興味を持っているのだけれど,そういえばウォーラーステイン本人の研究自体は詳しくないなーという人を対象とするのが一番勧めやすいのかもしれない。ブックガイド含めて250ページしか無い割に,読むのはけっこう根気が必要であった。今見たらamazonのレビューでも「誰に勧めて良いかわからない入門書」的なレビューが多かったので,やっぱりそうなんだろう。これも他の方のレビューにあったが,先に講談社選書メチエの『ウォーラーステイン』(リンク先amazon)を読んでおいたほうが,理解はしやすい。私からもこちらを推薦しておく。
入門・世界システム分析
著者:イマニュエル ウォーラーステイン
販売元:藤原書店
(2006-10)
販売元:Amazon.co.jp
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Posted by dg_law at 17:00│Comments(0)