2012年07月07日

書評:『三国志 演義から正史へ、そして史実へ』渡邊義浩著,中公新書

三国志の研究者,渡邊義浩氏の新書。テーマはサブタイトルの通り。まず,いわゆる「正史」が史実のように扱われている現状を突き,正史もまた陳寿による偏向がある点を説く。その上で,(現代歴史学がわかっている)史実と正史,そして『演義』の違いを比較していく。その目的は『演義』の文学性の強調である。正史を史実と誤認するのと裏返しに,しばしば創作性が批判されている『演義』ではあるが,質の悪いものであれば現代まで生き残っていない。本書では『演義』成立の過程を説明し,最終的に出来上がった清代の毛宗崗本の特徴を述べている。

毛宗崗本の特徴は三人の人物に焦点を当てており,曹操・関羽・諸葛亮がその3人である。本書もこの3人+『演義』の被害者:呉+袁家を軸に章立てして,魏呉蜀の正史と史実,そして『演義』の違いを並び立てていく。曹操がいかに『演義』で批判され,逆に「正史」では称揚されているか,という知られた話もあれば,研究者らしくつっこんだ話もある。なくてもよいが,多少儒教や,その後の中国史に関する知識があると,より深く楽しめるかもしれない。関羽がなぜ神となったかとか,諸葛亮と劉備が実は「水魚の交わり」ではなかったのではないか,等の語りはなかなか特徴的。

本書の最後には,渡邊義浩氏の研究のメインテーマである「名士論」についての話と,それに関連して九品中正が中国史における豪族の貴族化を促したという話が出てくる。後者の話は,高校世界史で触れるが説明されない部分なので,高校世界史をやったことがある人ならさらにおもしろいかもしれない。前者の「名士論」は,著者がその著作で,論文から一般書に至るまで折にふれて語る概念だが,本書は新書で紙面も短いため,相当端折って書かれている。ややずれるが,私は割りと名士論に好意的な立場である。なんでもかんでも説明できるとは思わないし,氏の考えにはやりすぎの部分もあるものの,ああした地方豪族と君主のせめぎあい自体は世界史上ある程度普遍的な現象であるし,三国志の多くの事象をうまく説明できていると思うし,何よりその後の九品中正と貴族化の流れを綺麗に説明できる。

そういうわけで,物語としての三国志は好きだけど,研究としての三国志の入門ってどんなのかなーとか考えてる人は是非に。堅苦しくなく,入門から踏み込む気のない人でも,楽に読めると思う。


三国志―演義から正史、そして史実へ (中公新書)三国志―演義から正史、そして史実へ (中公新書)
著者:渡邉 義浩
販売元:中央公論新社
(2011-03)
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