2012年10月07日

映画版『天使と悪魔』

原作を読んだので,映画版もと見てみた。原作はおもしろかったが,『ダ・ヴィンチ・コード』の映画版の出来からして不安であり(そういえばこちらはレビューを書き損ねている),しかしあえて事前に評判を聞かずにレンタルして見た。結果としては及第点ギリギリという感じである。正確に言えば,「見せてほしいものはちゃんと映像化してくれた」からとりあえず点はあげられるというのがまず先にあるから及第点なのであって,物語としては改変によりひどく薄っぺらくなっている。破綻していると言われても,強固には反論できまい。

原作の忠実な再現などは最初から望むべくもなく,『ダ・ヴィンチ・コード』よりも長いストーリーを,『ダ・ヴィンチ・コード』でさえ失敗したわずか2時間半で収めようというほうが無理がある。だから改変・省略があるのは仕方がないが,あまりにも多くのエピソードをカットしたため,かなり重要な要素までもが消えてしまい,物語の根幹部分でさえも改変されてしまっている。とりわけ悪役の背景事情をばっさりカットで,本作の大テーマである「宗教と科学の対立と調和」は映画版では無いも同然である。それでも出来が良ければ「別の物語」として評価可能なのだが,中途半端に原作に拠ったがために,単純に破綻しただけになってしまった。こうした改変をするならさらに大鉈を振るっても良かった。たとえば,ヒロイン(ヴィットリア・ヴェトラ)は重要度がかなり下がっており,物語上必要ではなくなっている。

しかし,良かった点もある。「見せてほしいものはちゃんと映像化してくれた」わけで,舞台となったローマの教会・芸術作品の再現度は非常に高く,「観光名所で次々と惨劇が起こる」という本作の映像上の肝に関しては不満なく,文字通り「映像化」してもらえた。加えて言って,最後の最後の(ネタバレ注意)反物質が爆発するシーンを天地創造になぞらえた映像として撮ったのはすばらしい。あのシーンは逆に原作が淡白すぎた。ついでに改変も褒められるところは褒めておこう。4人目の枢機卿が助かって教皇になるという展開は,大選皇枢機卿が教皇になるという展開よりもすっきりしていて良い。また,原作とは時系列が入れ替わっているため,ラングドンがダ・ヴィンチ・コードの事件によりすでに有名人であるということを下敷きにした改変も良かった点として挙げられる。これにより序盤が自然な形で相当カットできている。あわせてCERNを舞台としたシーンを作らなかったのも良いカットだった。これをやっていたら3時間でも尺が足りない。(ネタバレ終わり)


映像がすばらしく,その点では原作読者も楽しめるし,原作のテーマ性を知らないほうが楽しめる気もする。見終わった直後にはtwitterで「見なくていい」とか言ってしまったが,冷静に考えると,意外と他人に勧めやすい映画であるのかな,と思った。


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