2012年10月10日

ホテル・ルワンダ

ようやく見た,という感じがする。本作はルワンダ虐殺における実話をもとにした映画である。アフリカ版「シンドラーのリスト」という説明が一番しっくり来るか。

こう言ってはなんだが,虐殺・ジェノサイド自体は現代史で全く珍しくない現象である,悲しいことに。この映画に対して言えることはいろいろとあるだろう。単純にジェノサイドのひどさだけではない。民族差別の虚しさを挙げてもよい。しかもルワンダの場合,帝国主義の都合がツチ族とフツ族の対立を生んだのだから,その根は元からあったわけではない。その分悲劇性は高かろう。資源のない小国に対する国際社会の無関心もある。とりわけこの点はルワンダ虐殺の特有点であり,事態を決定的に悪化させた原因である。作中でも中盤に強調される。

ここから知ることができること,考えることができることも多かろう。何か行動を開始する人もいるかもしれないし,とりあえず知ることが大事だと言う人もいるだろう。これらを安い一般解だと言うつもりは全くない。しかし,私が本作から感じたのは,絶望的な無力感だった。私が本作で一番うちのめされたシーンは,国連がいよいよルワンダを見捨てて撤退し,外国人居留者だけがとぼとぼとホテルから出ていくシーンである。その際,必死で虐殺発生の事実を報道しようとしていたジャーナリストは,雨の中ホテルマンに傘を差し出されて「(こうやって逃げ帰るのに)傘なんて差さされても恥ずかしいだけだ」と言う。同じグループのジャーナリストは,その前の晩に「この報道がされれば国際支援が届くはず」という主人公に対し,「(先進国の)人々はニュースで見ても「怖いね。」と言うだけで,またディナーに戻ってしまうだろう」と返事をしていた。残念ながらその通りである。

先進国の人間として言い訳しておこう。支援をするのだって安くはないのである。特に軍事介入を伴う場合は,自国民の生命がかかっている。このあたり,PKOという観点では微妙な働きしかできていない我が国の国民としてはやや心苦しい(とはいえ私は自衛隊の戦争参加を支持しているわけではない)。ともあれ,ルワンダ内戦の前年のソマリア内戦で,アメリカは実際に手痛い被害をこうむっている。だからこそルワンダでは及び腰であった。しかし,前世紀から先進国だったお前らにはそういう義務があるだろうと言われれば,まあ否定はできまい。特にルワンダには前述のような,帝国主義の明白な爪痕が存在する。しかし,それで自国民の支持が得られるかというとまた話は別で,政府にも国内の都合があり,さらに言えば金だけで解決する問題と生命がかかる問題では重みも違う。また,変に介入すれば内政干渉を疑われ,戦後処理を間違えれば泥沼化する可能性もある。そうやすやすと道義的責任だけで通る話でもない。ましてや,英仏ベルギー以外の国際社会は無関心にもなるだろう。


結局のところ,私は「歴史とは特殊な事例の積み重ねであって,普遍的教訓で簡単に片付けられるものではない」としてこの悲劇を消費することしかできなかった。完全に無責任な立場から意見を言うことが許されるのならば,このような悲劇を作ったのはやはり国連の身勝手な撤退であった。あそこで何かしらの介入があれば,主人公ポール達はあれほどの苦痛を味わうことはなかっただろう。少なくとも,あのシーンで自らの無力感にうちひしがれないような,枯れた人間ではないし,今後もそうなるつもりはない。

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この記事へのコメント
『ホテル・ルワンダ』は本当に重いですよね……。

じっさい,この虐殺の中で,首相を警護していたベルギー兵10人が首相もろとも殺されるなんていうアレな状況も発生してますからね。要人警護で全滅するとかどんだけ修羅場なんだと……。ボスニアではスレブレニツァ陥落に際してオランダ兵に戦死者が出ていますし。

PKOは諸手を挙げて支持するのですが,「人道的介入」となるとやはり二の足を踏んでしまいますよね。そういう意味でこないだのリビヤとかミロシェヴィチ政権時のコソヴォみたいな「空爆」というのは,実効性は薄いかもしれないけども先進国の将兵を無駄死にさせず「おれたちは手を拱いて見てたわけじゃないぞ」という満足感も得られるお得なオプションなのかもしれないですね。
Posted by mukke at 2012年10月13日 08:07
あそこでベルギー軍が撤退しなければ……ということは,映画を見た多くの人が考えたことだと思います。が,ベルギー軍ばかり責めても解決しないので困ってしまうという。

うまいこと虐殺を防ぎつつ可能な限り介入し過ぎないのが理想は理想なんですが,それができれば苦労はないですね。
その意味で,空爆についての意見はおもしろい。ちょっとそういう考え方は無かったもので。
Posted by DG-Law at 2012年10月14日 23:51