2012年10月14日

白衣性恋愛症候群リセラピー レビュー

工画堂の作った百合ゲー……のはずなんだが,フタを開けてみるとなんというかカオスであった。なお,百合ゲーであることは間違いないのでその点は大丈夫である。

タイトルからも分かる通り,舞台は病院。主人公及び攻略ヒロインの過半数は同じ看護師である。残りのヒロインもすべて患者であり,完全に病院の内部で完結している。物語は主人公が新人看護師として病院で働き始めるところから始まるが,その後の決して短いとはいえない共通ルートは,百合ゲー的いちゃいちゃというよりも「使えない新人の成長物語」兼「看護師の仕事紹介」がその大半を占めている。主人公の沢井かおりは新人ゆえにしかたがないとはいえ,あまりにも看護師として未熟であるため,序盤は割りと叱られっぱなしである。その姿は多くの人が通ってきたであろう世間一般の職場の新人の姿を彷彿とさせられ,社会人ゲーマーにはなかなか心に鈍痛を与えられた人も多かったに違いない。

それにしても本作の主人公は看護師知識が乏しく,よく国家試験通ったなと思わないでもなく,そりゃこんだけ叱られるわなとは思った。これが多くのプレーヤーは医療知識に乏しかろうから,シンクロさせるための配慮としてこうなったのだとしたら,正直余計なお世話であった。せっかく辞典を実装していて,ある程度詳しい説明はそちらに任せているのだし,もう少しでいいから沢井かおりが最初からできる子でも良かったように思う。あまりにも叱られすぎてプレイ中にややフラストレーションが溜まったところがあったのは否定出来ない。医療現場の描写としてはとてもおもしろく,さすがにライターさん自身が現役看護師というだけはある。

一方で,社会人(労働者)が主人公・ヒロインの作品自体が少ないこともあり,こうした職場組織がADVで再現されるとこうなるのか,という点自体がかなり新鮮な体験であった。新人がいて,1年上の先輩がいて,若手のまとめ役がいて,主任(リーダー)がいる。私事ではあるが,私の実生活がまさに若手のまとめ役(やすこ)のポジションではあって,割りと共感するところは多かった。もっとも,私はあんなに叱れてないが(基本甘やかし主義なので)。

後半になると,ルート分岐の兼ね合いもあってかやや百合的な雰囲気になるが,一方で病院や主人公にまつわる謎にも切り込んでいく形になり,こちらも割りと物語が急展開する。ルートによってはファンタジー的な要素も入り,カオスに磨きがかかっていく。ここまで展開が急激だと場面ごとに雰囲気が違いすぎ,一つの物語の筋として崩壊していそうなものなのだが,本作では不思議とそれが少ない。まあ,まったく無かったわけではなくて,仕事でミスしてわんわん泣いてた次のシーンではけろっと別の患者さんといちゃついてたりするので,おいお前さっきまでのシリアスはどこいった!という。いずれにせよ,百合+医療物+社会人物にさらに様々な要素をつっこんだ闇鍋状態というのが良くも悪くも本作の姿である。個々の味も悪くないし妙な調和も感じるのだが,カオスには違いない。エンディングもぶっ飛んだものが多い。本作を「怪作」と評し,エロゲーの領域でやっていたらもっと話題作になっていたかも,と言っていた人がいたが,割りと同感である。

百合物としてどうかという話をすると,まず本作は女性同性愛が一般的な社会として描かれており,そこら辺の葛藤は全くない。当然のものとされているため,悩むだとかそれ以前の話として異性愛と比較する描写自体がまるで存在しない。描写の質・量としては,共通ルートでは前述のように別の要素に押されてやや少なめ,後半は多いものの物語自体のカオスさと百合要素を,プレーヤーの側がうまく切り分けられるかどうか。具体的な描写としては,18禁ではないので必然的に下着姿,キスシーン多めになっている。攻略ヒロインの年齢層は,過半数が看護師ということもあって高め。「三十路との百合なんて見たくない」という方には決しておすすめできないゲームである。楽しんでクリアした側としては,それがおもしろいゲームなのよ,とは言っておく。

プレイ時間としては20時間ほど。共通ルートがその半分以上を占めると思う。個別ルートは,ルート別で大きく分量が異なることを注記しておく。本作はPSP版からPC版への移植を兼ねたリメイクであるが,元からヒロインであった3人(なぎさ・はつみ・さゆり)は分量が多く,かつかなり多めにシナリオが追加されている。一方,新規ヒロインの3人(やすこ・あみ・まゆき)は分量が少なく,上記3人の半分もない。攻略順としては,物語の中核にかかわってくるまゆき,及び他の全員をクリアしていないとそもそもルートに入れないはつみの2人を最後に回すべき,という以外は自由である。個人的には,さゆりのシナリオが一番出来が良かった。点数としては75点強。


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