2012年10月18日

アメリカの画家のほうは関係ない

クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像国立新美術館のリヒテンシュタイン公国展に行ってきた。リヒテンシュタインはヨーロッパ有数の(というよりも世界有数の)小国として有名で,名前の通り君主制が残っている数少ない国でもある。それも王国ではなく公国なのだから,いかにも古き良きドイツの残滓という感じがする。ところで,今回のこの顔,宣伝などにも最も使われている顔だが,この少女は実はリヒテンシュタイン家とは何の関係もないルーベンスの娘である。彼女がビラなどで「ようこそ,わが宮殿へ」なんて言っているものだからすっかり勘違いしてしまっていた。

元はオーストリア(ハプスブルク)に仕えた貴族で,神聖ローマ帝国が死亡してから数えてもかなり経った1719年になってようやく領土の主権が認められた。もっとも,それ以前からハプスブルク家の重臣の家系ではあり,美術品収集でも有名であったらしい。リヒテンシュタイン公国が誕生した後も彼らの居住地はウィーンであり,現在でも市内に2つの宮殿が残っている。所蔵品の多くもそのうちの夏の離宮に長らく展示されていたのだが,アンシュルスによるナチスの接収や第二次世界大戦の戦禍を避けるべく公国の首都ファドゥーツの宮殿に移された。戦後,ウィーンに戻そうとするが今度は冷戦が勃発,そのうちに公爵家の財政も危うくなり,延々と延期されて21世紀,2004年になってようやく収蔵品は夏の離宮へのカムバックを果たし,ウィーン市民に再公開される運びとなった。今回の巡回展も,このように収蔵品がようやく落ち着いたために可能になったのであろうし,またこれからの運営費のお布施を募りに来たようなものであろう。これであれば喜んでお布施したい。

展示としてはバロック美術中心。絵画だけでなく彫刻や工芸品も多く来ていた。今回の野心的な展示と言うべきか,新美術館らしい展示は宮殿の可能な限りの再現で,内装は相当にがんばっていたと言える。まさか天井画を持ってきて本当に天井に展示するとは思わなかった。首は疲れたが雰囲気の出る良い演出であった。調度品も趣味の良いものが多く,さすがは歴史ある貴族の家系だと思ったのだが,一点,染付を金装飾でゴテゴテに飾るのは趣味が悪い。これで器の側も伊万里でゴテゴテだとか,そこまで行かなくとも文様が動植物だけとかならまだ許せるが,思いっきり山水画が書いてある染付の壺をキラキラ系で装飾されては,一言「悪趣味」とでもいいたくなる。まあ,そういうのがはやったのが18世紀くらいのヨーロッパだよあきらめろと言われたら,私もあきらめるしかない。

絵画はバロックを中心に,ルネサンスから19世紀のアカデミー絵画・ビーダーマイヤーまで。ルネサンスのものは一点ラファエロのものが来ていたもののそう大したものはない。バロックはさすがに充実しており,宣伝文句に使うだけあって特にルーベンスはすごかった。しかし,私的に最もおもしろかったのは19世紀のゾーンである。そもそもビーダーマイヤーというくくりを使う事自体にも少し驚いたが,数は少ないものの良い物がそろっていた。その中でも,やはりフランチェスコ・アイエツは抜群にうまい。イタリアのアカデミー(ロマン主義)の大家といえば彼であろう。こういうのとても良いと思うので,誰か19世紀の非自然主義・非印象派のアカデミー・ロマン主義縛りで企画展やってくれないですかね。

というわけで盛りだくさん,約130点の展覧会で,見るのに軽く2時間はかかる。じっくり見れば2時間半〜3時間かかるかもしれない。割とお勧めできる展覧会である。

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