2012年11月23日

WORLD END ECONOMiCA Episode.2 レビュー

前作,Epi.1のレビューはこちら。Epi.3で完結する作品で,Epi.2はつなぎに徹した作りになっていた。そのため,この作品単体で,ネタバレ無しで語るのは苦しいし,ネタバレ込でも書けることは少ない。短く思ったことでもまとめておこうかと思う。プレイ時間は5〜6時間ほど。

以下,Epi.1プレイ済orネタバレ上等の方は。Epi.2のネタバレは伏字にしてるのでそこはご安心を。

Epi.1の悲劇的結末から約4年。夢とともに心身を砕かれた主人公も大きく変わってしまった。不幸中の幸いか,彼の場合は良い成長の糧となっていた。生意気なところが抜け,落ち着いた物言いのできる大人に。傷ついたからこそ他人をいたわえるように。それでいて,熱さは失わず。経済の世界で成り上がり,「前人未到の地」を見ることをあきらめた彼は,別の夢を抱いていく。

世界の側も少しずつ変化を見せていた。経済と金融の最先端として発展した月面都市は,実際には野放図に伸びるがん細胞のごとく秩序を失っていき,地球の歴史をなぞるかのごとく貧富の差の拡大とバブル経済が蔓延していた。このあたりは,私自身まったく予想していなかった変化であった。主人公の側の変化は,挫折したまま立ち直れていないかいい大人になっているかの二択だろうとは思っていたし,実際に後者であった。しかし,世界の側が,しかもこれほど悪い予兆を感じさせる方向へ変化しているだろうとは思ってもみなかった。

Epi.2の物語は,具体的なネタバレをしない範囲で言えば,主人公が本格的に立ち直り,この悪しき予兆を見せる月面世界と再びかかわっていく導入的な話である。Epi.1ほど経済的な話は出ず,テーマ設定も大きくは別のものが掲げられている。だからこそ,この非経済分野でのテーマがとんでもなく熱い。後述するが,このテーマが出現していく過程の描写が極めて見事で,圧倒される文章であった。この部分は口を極めて賞賛したい。このテーマ設定にもかかわることだが,月面都市が完全に近未来であるにもかかわらず,登場する小物が一々時代がかっていて,ある種のスチームパンク的な雰囲気をかもしていたのも,Epi.1にはなかったEpi.2の特徴である。

ただし,Epi.2は完全につなぎに徹したつくりになっているため,終わったタイミングではなんら伏線を回収できていない。ぶっちゃけて言えばハガナは全くと言っていいほど出てこない。同時に,主人公の恋愛関連も進展はあったが当然決着がついていない。さらに,本作でも経済的ギミックは出てくるが,そのギミックの発動はEpi.3に持ち越され,上述した「熱いテーマ」に関しても,結論はEpi.3に持ち越される。正確に言えばEpi.2のラストでポイント・オブ・ノーリターンは超えてしまっていて,主人公もそのことに気づいているのだが,超えてしまってから気づいたのでさてどうしよう,というまま終わりを迎える。ものすごく熱い展開が続いたところで突然,「あれ……エンディング……?」となってしまったので,ちょっと人に勧めるのにはひるんでいる。でもマブラヴオルタやレイニー止めのごとく,一緒に待ってくれる人は欲しいなぁ,とか。プレイ時間は5〜6時間。Epi.1とあわせても15時間はかからない。


以下はEpi.2のネタバレ。白くした上で大きく改行しておくが,未プレイで読んでしまったら申し訳ない。









どこで鳥肌が立ったかって,月面都市の気温が10度下がったところと,"God and Justice"の紋章を見たところ。前者からいこう。バブルとは加熱するものである。「熱狂」とは文字通りであり,人は浮かれてその悪しき部分は見て見ぬふりをしてやり過ごす。Epi.2も前半は怒涛の展開で,エレノアに会ってからしばらくはクリスに連れられて熱狂する月面都市の綺麗な部分を見ながら過ぎていく。ゲーム全体が短いからか,どこかに序盤の貧乏な民衆の姿を脳裏に残しながら。そこで,エレノアの正体や目的が割れてから,この都市の負の側面が一挙に立ち上ってくる。そこで,この発表である。読者の頭を冷やすには十分すぎる衝撃であった。物語が熱くなるに連れ,月面都市は冷めていく。美しい背景の画像が変わらないまま,文章だけが冷えていくから,余計に寒々しさが際立ち,恐怖する。この対比の仕掛けはとても良かった。

後者について。展開が世界恐慌やリーマン・ショックをなぞっているのは明白だったが,エレノア一行の懐古趣味はそこの伏線だったのか,と。ポイントはその引き金に手をかけているのは自分ということと,その引き金を引かなければ正義は達成されないということだ(Justice has not been done!)。Justiceには「裁く」という意味合いがある。裁くのは神であり,人ではない。前人未到の地を諦めた青年には,神になる手段がもたらされた。しかし,その裁きはかの大洪水のごとく,世界に破滅をももたらす。それでも正義はなされるべきか?前述のように,実はもう引き返せないところまで来てしまっているのだが,これをEpi.3がどう解答するのか,非常に楽しみである。


この記事へのトラックバックURL