2012年12月15日
書評:『蝉丸Pのつれづれ仏教講座』蝉丸P,エンターブレイン
知っている人は知っている,ネット界のリア住こと蝉丸Pによる仏教講座。構成は大きく分けて4つ。現代日本の仏教・宗教に関する一般の方が疑問に考えていそうなことに対する解答あれこれ(第1章),現代日本の仏僧の生活の様子(第2章前半),海外の仏教事情(第2章後半),仏教史(第3章)。これを大きく2つに分けると第1章と第2章の前半が「現代僧侶FAQ」,第2章後半と第3章はそこから漏れた話という形になる。
本書執筆の動機が「ネット檀家から同じ質問を何度もされるため」ということなので,前半に関しては本当にその通りの問答集になっている。逆に言って,後半は蝉丸Pが積極的な理由で書きたかったところで,彼の問題意識が前面に出た文章である。とりわけ,”ピュアブッディズム(ロマン派仏教)”に対する懐疑は何度も提示されていた。約430ページという大著であり,内容はとてつもなく濃い。「わかりやすく解説」だし,「ネタっぽく見える」からと気軽に読み始めると挫折することが容易に想像できる本となっている。前半の「現代僧侶FAQ」はまだ気楽に読めるのだが,第2章後半あたりからとても掘り下げた話がざくざくと出てくる。無論のことながら考えてそういう構成にしたのだろう。
文章自体は読みやすく可読性は高いのだが,一方で,ネットスラングとオタク用語は躊躇なく使用されており,一応解説・捕捉は入るものの多分に”解説自体がネタ”になっているため,おおよそ機能していない。そもそも親ネット・親オタクでなければ本書を手に取ることはないと思うし,事実amazonなどのレビューを読んでもそこに苦言を呈しているものはあまり見かけない。が,可読性とは別方向に,たとえがやや強引だったり逆にわかりにくかったりして,そこまで無理してオタク性を出さなくてもいいのではと感じる箇所は多々あった。これは特に前半,FAQのパートで強く見られた。
前半はFAQなだけあって,動画の形でよりわかりやすく説明されているものが多い。既存のネット檀家の一同ならば「この説明ニコニコ動画で読んだ」ということが多かったであろう。一方,後半は目新しい話も多く,私自身後半のほうが楽しんで読めた。本書で一番おもしろいのは「海外の仏教事情」の部分ではないだろうか。新たに得られた知識もさることながら,ピュアブッディズムへの懐疑という著者の問題意識が強く伝わってきて,読み応えがあった。第3章の仏教史に関してもよくできているのだが,2箇所ほど誤りがあるので指摘しておく。私が持っているのは初版なので,今はもう直っているかもしれないが,ぐぐっても正誤表が見当たらなかったので。
p.267:「アーリア人がインダス文明を滅ぼし」と書いてあるが,現在この説はあまり支持されていない。アーリア人のインド進出は紀元前1500年頃から始まっているが,インダス文明は紀元前1800年頃までに自然現象(洪水や旱魃)を原因として滅亡済,というほうが有力。
p.336:「5世紀にイスラーム教の開祖ムハンマドが昇天してから……」とあるが,言うまでもなくムハンマドの昇天は630年頃,つまり7世紀のこと。まあ蝉丸Pが知らないはずがないので,指がキーボード2つ分ずれていて,校正も誰も気が付かなかったんだろう。
蝉丸Pのつれづれ仏教講座
著者:蝉丸P
販売元:エンターブレイン
(2012-06-15)
販売元:Amazon.co.jp
本書執筆の動機が「ネット檀家から同じ質問を何度もされるため」ということなので,前半に関しては本当にその通りの問答集になっている。逆に言って,後半は蝉丸Pが積極的な理由で書きたかったところで,彼の問題意識が前面に出た文章である。とりわけ,”ピュアブッディズム(ロマン派仏教)”に対する懐疑は何度も提示されていた。約430ページという大著であり,内容はとてつもなく濃い。「わかりやすく解説」だし,「ネタっぽく見える」からと気軽に読み始めると挫折することが容易に想像できる本となっている。前半の「現代僧侶FAQ」はまだ気楽に読めるのだが,第2章後半あたりからとても掘り下げた話がざくざくと出てくる。無論のことながら考えてそういう構成にしたのだろう。
文章自体は読みやすく可読性は高いのだが,一方で,ネットスラングとオタク用語は躊躇なく使用されており,一応解説・捕捉は入るものの多分に”解説自体がネタ”になっているため,おおよそ機能していない。そもそも親ネット・親オタクでなければ本書を手に取ることはないと思うし,事実amazonなどのレビューを読んでもそこに苦言を呈しているものはあまり見かけない。が,可読性とは別方向に,たとえがやや強引だったり逆にわかりにくかったりして,そこまで無理してオタク性を出さなくてもいいのではと感じる箇所は多々あった。これは特に前半,FAQのパートで強く見られた。
前半はFAQなだけあって,動画の形でよりわかりやすく説明されているものが多い。既存のネット檀家の一同ならば「この説明ニコニコ動画で読んだ」ということが多かったであろう。一方,後半は目新しい話も多く,私自身後半のほうが楽しんで読めた。本書で一番おもしろいのは「海外の仏教事情」の部分ではないだろうか。新たに得られた知識もさることながら,ピュアブッディズムへの懐疑という著者の問題意識が強く伝わってきて,読み応えがあった。第3章の仏教史に関してもよくできているのだが,2箇所ほど誤りがあるので指摘しておく。私が持っているのは初版なので,今はもう直っているかもしれないが,ぐぐっても正誤表が見当たらなかったので。
p.267:「アーリア人がインダス文明を滅ぼし」と書いてあるが,現在この説はあまり支持されていない。アーリア人のインド進出は紀元前1500年頃から始まっているが,インダス文明は紀元前1800年頃までに自然現象(洪水や旱魃)を原因として滅亡済,というほうが有力。
p.336:「5世紀にイスラーム教の開祖ムハンマドが昇天してから……」とあるが,言うまでもなくムハンマドの昇天は630年頃,つまり7世紀のこと。まあ蝉丸Pが知らないはずがないので,指がキーボード2つ分ずれていて,校正も誰も気が付かなかったんだろう。
蝉丸Pのつれづれ仏教講座著者:蝉丸P
販売元:エンターブレイン
(2012-06-15)
販売元:Amazon.co.jp
Posted by dg_law at 20:09│Comments(0)