2013年03月09日
受験世界史悪問・難問・奇問集 ver.2013 その２（慶應大・早稲田大）
１８．慶應大 文学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ ラ＝テーヌ文化を発展させたインド＝ヨーロッパ語系の（B）人〜〜
＜解答解説＞答えは「ケルト人」だが，ラ＝テーヌ文化は受験世界史範囲外。多くの受験生ならケルト人かゲルマン人かくらいまでは絞れると思う。
１９．慶應大 経済学部
＜種別＞悪問・出題ミス
＜問題＞１ 問３ 清教徒革命以降のイギリスとアイルランドの関係について次の１〜４の文章の中から，誤りを含むものを１つ選びなさい。
１．共和政樹立後，クロムウェルは王党派の強いアイルランドを征服し，土地を奪われたアイルランド農民は，その後イギリス人不在地主の下で小作人化し，困窮していった。
２．1840年代のアイルランドでは，ジャガイモ飢饉に加えて，穀物法成立によってイギリス人不在地主による収奪が強化されたため，大量の移民が発生し人口は大幅に減少した。
３．20世紀初頭にはシン＝フェイン党が結成された。第一次世界大戦によってアイルランド自治法の実施が延期された後，彼らを中心にイースター蜂起が起こった。
４．第一次世界大戦後，イギリスは，プロテスタントの多いアルスター地方の一部を除いて自治権を認め，1920年代にアイルランド自由国が成立した。
＜解答解説＞１と４は正しい。２は事実として完全に誤りである。よって正解は２でいいと思うが，問題は３。シン＝フェイン党の成立は1905年なので前段は正文。しかし，1916年のイースター蜂起の主導はシン＝フェイン党ではなくIRB（アイルランド共和主義同盟）である。鎮圧後のイギリスが「主導はシン＝フェイン党」と決めつけて抑え込みにかかったが，むしろシン＝フェイン党は同情を受けて戦後の選挙で大勝し，この党が独立の主体となっていった点にイースター蜂起の歴史的意義がある。よってこの誤りは本質的にまずい。しかし，実は多くの教科書もこの点で怪しい書き方をしているので，一方的に慶大を責めるのは酷ではある。この点多くの予備校はスルーしたが，駿台からは指摘があった。わざと悪問を出すことはあっても史実はミスしない慶大が，この種の出題ミスをやらかすのは珍しい。
２０．慶應大 経済学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞３ 問10 下線部Aに関して，次の地図はアメリカを中心とする西側陣営とソ連を中心とする東側陣営を，それぞれ軍事同盟条約や援助などによる影響力をもとに区分したものである。東西両陣営の範囲が地図のような状況になったのは，下の年表のどの時点か。年表中の空欄１〜６からもっとも適切なものを選びなさい。
１ → トルーマン＝ドクトリン発表 → ２ → NATO結成 → ３ → 朝鮮戦争勃発 → ４ → ジュネーヴ休戦協定締結 → ５ → ソ連のフルシチョフ訪米 → ６
（地図については解答解説にて言及）
＜解答解説＞地図を見ると，ベトナムが北緯17度線で分かれていることから1975年以前，1954年以後ということがわかる。これでジュネーヴ休戦協定（インドシナ戦争終結でベトナムが南北分断）より前の１〜４は全滅。あとはイラクが西側という点から1958年のイラク革命前，もしくはキューバが西側から1959年１月のキューバ革命前の世界地図ということになり，フルシチョフ訪米は1959年９月なので６はない。よって解答は５と絞れる。
しかし，地図をよく見るとソ連がCISに分裂している，ユーゴスラヴィアが分裂しているなど一部国境線が現代世界のものとなっており，一方で東西ドイツ・南北ベトナムはちゃんと分かれているなど，こんな世界地図になった歴史はどこにもない。致命的なのがユーゴスラヴィアで，ユーゴのうちスロヴェニア・クロアチア・ボスニア＝ヘルツェゴヴィナ・モンテネグロ・コソヴォは第三世界なのにセルビアとマケドニアが東側というどこの架空戦記ですかそれな状態になっている。これは問題不成立とすべきだろう。悪問というよりは，笑かしてくれた方向では今年の最優秀賞である。繰り返すが，慶大がこういう致命的なミスをやらかすことは少ないのだが，今年の経済学部はひどい。担当者が大きく変わったのだろうか。
２１．慶應大 経済学部（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問14 （２）次の地図の１〜５の領域はc（編註：サイクス・ピコ協定）の５つの各領域を示している。第一次世界大戦後のこの地域における各国の勢力範囲は，この資料の規定に近いものとなったが，１つの領域については規定とは異なる処理が行われた。その領域の番号を地図中の１〜５から選びなさい。（強調は編集者）
参考：Wikipediaのサイクス・ピコ協定の地図
１：フランスの直接統治予定域
２：フランスの勢力範囲
３：国際管理地域（パレスチナ）
４：イギリスの勢力範囲
５：イギリスの直接統治予定域
＜解答解説＞おそらく大学側の想定する解答としては，パレスチナが実際には国際管理地域ではなく，イギリスの委任統治領になったことを指して３を想定しているのだろう。が，そもそもサイクス・ピコ協定の勢力範囲と実際の英仏の勢力範囲は似て非なるものであって，問題文が詭弁である。百歩譲って２・４・５についてはおおよそ同じ形と見なしても，１はダメだ。サイクス・ピコ協定及びセーヴル条約では東アナトリアの南部がフランスの勢力圏だが，ローザンヌ条約ではトルコ領に戻っている。これを「似ている」と見なすのは少々苦しい。
２２．慶應大 経済学部（４つめ）
＜種別＞奇問
＜問題＞３ 問15 （３）オバマ米大統領によるアメリカの基本的対外政策の転換について述べた次の文章中の(a)〜(c)に入る適切な語句を記述しなさい。
オバマ米大統領は〜（中略）〜その年のノーベル平和賞の受賞理由の１つにもなった「(a)のない世界」の実現をめざすこと，トルコ国会での演説で「(b)との和解」をめざすことを宣言した。さらに同年９月の国連総会の演説では，前政権の（c）主義から国際協調主義への転換を宣言した。
＜解答解説＞これは政経の問題であって世界史としては無茶ぶりだろう。まだ「歴史」になっていないのだから，世界史ではない。難易度的にもきつい。(a)の「核」は類推できるだろうが，(b)の「イスラーム世界」・(c)の「単独行動（主義）」は，言われてみると確かにそれしかないのだが，試験会場で思いつくのは困難だろう。果たしてこれらは”一般常識”と言える範囲なのかどうか。
［番外編］早稲田大 国際教学部
＜問題＞２ 以下の文章を読み，各設問に答えなさい。
Joseph Chamberlain, Speech to the West Birmingham Relief Association, January 22, 1894
（リンク先pdfのpp.6-7ページが該当の文章）
＜コメント＞問題文が英語の長文である。実はこれ，世界史では大きな傾向の変化だが，日本史では毎年英文が出ていた。なので教科をまたげば予想され得た問題である。また，英文自体はジョゼフ＝チェンバレンが西バーミンガム救済協会で行った演説という極めてマイナーな史料ではあるが，実は問題文を読まなくても８問中７問は解答可能。残り１問にしても，「ジョゼフ＝チェンバレンならアフリカだろう」という簡潔な連想で解答可能である。
演説の内容は社会帝国主義（帝国主義の利益により国内の社会政策を行う）を擁護したもので，アフリカでの植民地開拓が労働者の利益になることを主張している。また，社会帝国主義はマイナーな歴史用語だが，この内容を知らなくても・読み取れなくても解答に差し支えない。……あれ，なんのために英文にしたんだ。もっとも，国際教学部を受けるような連中はこの英文程度さらさらと読めたとは思うが。また，わざわざ全文訳した予備校（早稲田予備校）があるので，そちらのpdfも貼っておく。
２３．早稲田大 法学部
＜種別＞誤植？
＜問題＞１ 設問５ 下線dに関して，中国史上，禅譲の最初の実例は，前漢にかわって新を樹立した王莽であるが，王莽の政治に関して誤っている記述はどれか。（強調は編集者，選択肢は省略）
＜解答解説＞王莽の漢字は，莽の字の真ん中は”大”ではなく”犬”のほうが適切とされる。パソコンであれば文字化けの危険性があるから仕方ないが，紙に出力したものだからそういう事情ではないはずである。少なくとも高校世界史の教科書や資料集は”犬”で統一されているはずである。もっとも私は中国史が専門ではないので，専門の方の意見を聞いてみなければなんとも言えない。
２４．早稲田大 法学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞１ 設問７ 宋代以降，君主権が強大化し，禅譲形式は廃れて，異民族による征服と漢人王朝の放伐による王朝交替が行われる。このような政権交代に関する記述で誤っているものはどれか。
� 〃醒阿聾綽犬侶�国を助けた代償に燕雲十六州を獲得し，後晋を滅ぼして華北に支配領域を拡大し，国号を遼と定めた。
�◆ゞ發倭廚鳩襪鵑芭砲鯡任椶靴燭�，宋は同盟中に金と結んだ約束を守らなかったので，開封が攻め落とされ，金に滅ぼされた。
�� 大都に遷都して国号を元と定めたフビライは，臨安を占領し，南宋を滅ぼした。
�ぁ〕�自成が明を滅ぼすと，山海関を守備していた呉三桂は清に投降し，清軍を関内に導き入れた。ヌルハチの率いる清軍は，李自成の乱を平定して北京を占拠した。
＜解答解説＞�い療�時の清朝皇帝はヌルハチではなく順治帝なのでこれが明確に誤りで，おそらく大学の想定した正答もこれ。しかし，�，蓮こ里�に契丹は後晋を滅ぼし，その後一瞬華北を占拠したが，短期間で北方に追い返されて後漢が成立しているから，これは危うい日本語。�△睇當未蓮屐彬盟廖匹�金に滅ぼされた」と書くところだろう。単に”宋”としか書いてないから南宋との連続性が曖昧で，継続したと考えるなら”宋”を滅ぼしたのは金ではなく元になる。��も臨安陥落は1276年だが南宋滅亡は1279年の崖山の戦いとされているため，臨安陥落が即滅亡ではないことを踏まえるとこの表現は危うい。結果的に全選択肢が微妙に危うい。そんな細かいところでいちゃもんをつけなくても，と思うかもしれないが，早慶上智は実際にこうしたところで誤文を作ることもあるから，危ういのである。
２５．早稲田大 文学部
＜種別＞誤植
＜問題＞３ D 15世紀初め，朝鮮王朝では太宗のとき明の制度を取り入れ，高宗のとき朱子学を国学とした。（強調は編集者）
＜解答解説＞朝鮮王朝はほぼ最初からずっと朱子学が国学であり，太祖李成桂がこれを定めている。無論の事ながら，末期の国王高宗（在位1863〜1907）ではない。この高宗はハーグ密使事件で有名である。なお即日で当局から訂正の発表があった。また，解答に影響はないもないため，記録するに留め批判対象とはしない。むしろこうした類のミスは誰にでも起きるため，素直に発表した分評価できる。
２６．早稲田大 文学部（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞４ 設問２ 下線部２（＝黄宗羲は，明が滅びた理由として，過度の中央集権の弊害を挙げ封建制の部分的復活を主張したこと）について正しい解説はどれか。
イ この見解は，中央政府の強引な政策が藩王による三藩の乱を引き起こしたことへの反省から出た。
ロ この見解は，漢の武帝が呉楚七国の乱を鎮圧して施行した郡国制の成功例に触発されて出た。
ハ この見解は，モンゴルや満州族などと境を接する辺境には藩鎮を置いて対峙させるとの発想による。
ニ この見解は，北宋が周辺の部族長を契丹王や西夏王に冊封することで恒久平和を維持したことによる。
＜解答解説＞黄宗羲の『明夷待訪録』が出典となっている問題だが，『明夷待訪録』を読んでいる受験生が日本に何人いるやら。そもそも黄宗羲自体が難関大学以外では出ないマイナーな人物である。こうした場合には該当書の概要を知っていれば解答できるか，消去法で解答できるように作問するものだが，この問題はそうなっておらず，明確に解くには読んでいるしかないというひどい問題。ロはでたらめなので誤答とわかるものの，一般的な受験生が判断できるのはここまでだろう。かろうじて黄宗羲が明末清初の人物であることを知っていれば，三藩の乱の影響下で書かれた著書とは考えづらいとしてイは誤答，とまで類推できるかもしれない。事実，『明夷待訪録』が書かれたのは三藩の乱以前のことだが，黄宗羲自身は三藩の乱鎮圧後に亡くなっている。ニは「恒久平和」が胡散臭い上に，契丹王は自称であって冊封ではなかろう，ということに気づけば最後にハが残る。
ということで正解はハだが，正直に言ってハ自体も相当胡散臭い内容で，私自身『明夷待訪録』の和訳を読むまで確信を持ってこれが正答とは判断できなかった。はっきり言ってしまうと藩鎮は唐末五代の中国分裂の象徴であり，あの異民族侵入と戦乱の時代を知って入ればとてもじゃないがこんな発想は出てこない。その後の北宋や清朝の成功を見ても中央集権制が正解である。私の中で黄宗羲の株が暴落した原因となった問題。
２７．早稲田大 文学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 設問４ 服属，唐の官職，刺史，都督の語を使用した30字以内の文章をAに入れなさい。（編註：太字は原文ママ）
歴代の中国王朝は，直接統治とする州県のほか， A 自治を許す唐の羈縻州や〜〜
＜解答解説＞単純に羈縻政策を30字で説明させる問題ならただの標準的な良問だが，「刺史，都督」という高校世界史範囲外の用語を指定しているがために難問化した。ともに三国志には出てくる官職で，職務内容もさして変わっていないため，読んでいれば「地方長官や軍の高官」ということはわかるのだが，そこまで三国志に詳しい受験生ばかりでもあるまい。解答は「都護府の監督下で服属民族の首長に刺史や都督等の唐の官職を与え（自治）」でちょうど30字になる。
文学部は毎年おとなしかったのだが，今年は３つも出てしまった。誤植はしょうがないとして，中国史の２つは言い訳できないものである。どうしちゃったの。ついでに言うと，今年は早慶上智全大学で三国志からの出題があった。今年ってそんなに三国志イヤーでしたっけ？
２８．早稲田大 人間科学部
＜種別＞悪問
＜問題＞２ �ァ＼椎�トルコ革命に関する説明として誤りを含むものはどれか。
（ア）スルタンの専制に反対して結成された「統一と進歩のための委員会」がおこした革命である。
（イ）「青年トルコ」が組織した内閣はやがて独裁化し，ドイツ・オーストリアとともに第一次世界大戦を戦った。
（ウ）ロシアとの開戦を口実に，アブデュル＝ハミト２世が停止したミドハト憲法を復活させた。
（エ）青年トルコ革命は，日本の対ロシア戦争の勝利やイランの立憲革命などが影響したといわれる。
（オ）青年トルコ革命は，カリフ制を廃止し，信仰の自由や女性の地位向上などの改革を推進した。
＜解答解説＞誤文が２つあるように見えるが，おそらく大学の想定した正解は（オ）の側である。（ウ）のどこか正文なの？と思った人は鋭い。（ウ）は読点の打ち方が間違っておりこのままだと誤文と取られても全く言い訳できない。正文にするなら「ロシアとの開戦を口実にアブデュル＝ハミト２世が停止したミドハト憲法を，（青年トルコ政府は）復活させた。」としなければならない。早稲田は毎年読点のミスがどこかしらの学部で出てくるが，こだわりがない先生方が多いのだろうか。
２９．早稲田大 人間科学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞５ 1860年のイタリア統一は，（E）の「青年イタリア」の流れをくむ下からのナショナリズムと，サルデーニャ首相カヴールを中心とする，穏健な立憲主義による上からの統一機運の妥協によって成立した。
(E)a ガリバルディ b サモリ＝トゥーレ c マッツィーニ d サヴィニー
＜解答解説＞aのガリバルディかcのマッツィーニか絞れず，国語的な問題になる。というか国語的に考えても解答が出ない。普通”流れをくむ”と言われたら始祖を想起するが，そうするとマッツィーニが正しいし，普通は「青年イタリア」といえばマッツィーニのイメージが強い。しかし，マッツィーニ自身はサルデーニャとの妥協をよしとせず，終生理想主義を貫いた人間であるから，後段を見れば適切ではない。一方，aのガリバルディはまさにその妥協をなしてイタリア統一を大きく前進させた人物であり，「青年イタリア」の党員でもあった。結局，”流れをくむ”を強調すればcのマッツィーニになるし，後段を強調すればaのガリバルディになる。予備校間でも解答は割れており，河合塾と早稲田予備校はcのマッツィーニを採用，東進はaのガリバルディを採用し，代ゼミは両論併記。ほんともう人科の先生方の日本語能力が不安になる。
３０．早稲田大 教育学部
＜種別＞悪問
＜問題＞１ （７）中世の地中海諸国について，正しい説明はどれか。
a ビザンツ皇帝は，聖像崇拝の是非をめぐって神聖ローマ皇帝と争った。
b アッバース朝は，イベリア半島を支配した。
c カスティリャ王国は，14世紀まで，バルセロナを含む地域を支配した。
d ポルトガル国王ジョアン２世は，新航路開拓を推し進めた。
＜解答解説＞aは神聖ローマ皇帝がローマ教皇の誤り。cはカスティリャがバルセロナを支配していないので誤り。dは明確に正しいので，大学の想定した解答はおそらくこれだろう。問題はbで，アッバース朝の成立は750年，後ウマイヤ朝の成立が756年であるから，極めて短時間で実効的ではなかったとしても６年間は名目上の統治期間があると言えなくもないわけだ（少なくとも受験生にそれを判断する知識はない）。こういうグレーゾーンを使った選択肢はちょっと感心しない。まあ「dのほうがより正しかろう」と判断すれば解答自体は可能な易問だし，あまり６年間でとやかく言うのもアレなので，収録しなくても良かったかも。
３１．早稲田大 政経学部
＜種別＞悪問
＜問題＞１ A−３ 下線部e（青磁・白磁）に代わって，元〜清代に重要な輸出品となった陶磁器の種類はどれか。
イ 三彩 ロ 黒陶 ハ 天目 ニ 染付
＜解答解説＞これってニが正解じゃないの？と思った方は，その判断に自信を持っていい。おそらく大学側の想定した正解はそれである。しかしこれは問題文自体が誤っているので厳密に言えば解答がない。なぜなら染付は白磁の一種であるので，「代わって」いないからだ。要するに，いわゆるカテゴリーエラーが生じている。これは山川の『用語集』にも「白磁にコバルトブルーの絵付けをした焼き物」と書いてあり，細かくはあるが受験世界史範囲のギリギリ内側と言えなくもない。というよりも，顔料のコバルトブルーはイル＝ハン国から海路で輸入されたものが多く，高校世界史ではパックス＝タタリカによる文化交流の一環として紹介されるから，難関大学の受験生ほど知っている知識になる。一方，誤答選択肢の「天目」は範囲外。
仮に下線部eを「染付ではない青磁・白磁」と好意的に解釈したとしても，元代以降でもそうした陶磁器は重要な輸出品であったわけだから，やはり”代わって”はおかしい（万暦赤絵etcはどこ行った？という話になる）。ついでに言うと，世の中には（例外的ではあるが）「青磁染付」というものも存在するわけでして。→ 参考（根津美術館サイト）
３２．早稲田大 政経学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞２ A−４ 下線部g（ソ連が1980年代に入ってその外交政策を大転換した）の時期のソ連の外交政策として誤っているものはどれか。
イ 東西ドイツ統一を容認した。
ロ アメリカとの間で中距離核戦力（INF）全廃条約を締結した。
ハ ワルシャワ条約機構とコメコンを解散させた。
ニ ソ連軍をアフガニスタンから撤退させた。
＜解答解説＞イ〜ニの全てが正文で，かつ下線部gの指す”時期”が不明瞭であるため，解答のしようがない。仮に下線部gは1980年代「のみ」を指すと好意的に解釈しても，イとハの２つが1990年代の出来事であるため結局複数解であり，出題ミスである。予備校間でも判断が割れている。代ゼミは解答不能と発表。河合塾と駿台・東進・早稲田予備校はハとしているが，駿台・河合塾は言及無し，東進と早稲田予備校は講評で苦言を呈している。私も大学側の想定した解答はハではないかと思うので，以下解説する。
まず，前述の通り問題文を「1980年代以降」ではなく「1980年代のみ」と強引に解釈し，1980年代の出来事は正文＝誤答と判断してロ＝1987年・ニ＝1989年まで，は消去できる。さてそうするとイ＝1990年・ハ＝1991年が残るが，ドイツ統一のほうが１年だけ1980年代に近いという点と，1989年に起きたベルリンの壁崩壊からの続きであるという点を考慮すると，イのほうがまだ1980年代に対する親和性が高い。ゆえに残るのはハ，という判断だ。
ところで，この問題の正解をハとすると，早稲田の政経学部は，ゴルバチョフは1980年代のうちにドイツの再統一を容認していたと判断しているということができるが，これは真実か。ゴルバチョフは「ドイツ統一は21世紀の課題だと考えていた」という発言があり（ベルリンの壁崩壊20周年記念式典にて），1990年５月のブッシュ（父）大統領との会談で，西独からの経済支援と引き替えに東独からの撤兵をようやく決めている等の事実から鑑みて，そう判断するのは難しい。当時の西独首相のコールでさえも，壁崩壊直後に「ドイツ統一は必然だ。だが時間がかかる」と発言しており，1990年中の統一は誰の構想から見ても急進的であったと言える……と思うのだが，私は現代ドイツ史が専門ではないので，実際のところはわからない。誰か知ってる人いませんかー？＞読者の皆さん……いずれにせよ出題ミスではあるのだけれど。
３３．早稲田大 政経学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ A−２ 下線部e（海外領土）の獲得に関連して，最も早く起こったことはどれか。
イ コルテスによるメキシコ征服
ロ ピサロによるインカ征服
ハ マゼランによるマゼラン海峡到達
ニ バルボアによるパナマ地峡横断
＜解答解説＞単純に年代だけ並べて考えれば，イ＝1521年，ロ＝1533年，ハ＝1520年，ニ＝1513年なのでニが正解となる。しかし，下線部eの前後を読むと文脈の主語はカール５世の治世下（1516〜56）であり，そうするとバルボアはフェルナンド２世の治世下の出来事になるのでそもそも誤文となり，この場合の正解はハとなる。後日大学当局から発表があり，ハとニいずれでも正解となる模様。
３４．早稲田大 政経学部（４つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞５ A−３ 下線部c（＝イギリスの自由貿易政策）に関連する出来事，a〜eを年代順に並べるとすれば，適切なのはどれか。
a 機械類の輸出禁止を解除した。
b 航海法が廃止された。
c ピットが関税を引き下げる通商条約をフランスと結んだ。
d 反穀物法同盟が結成された。
e 穀物法が撤廃され，基本的に穀物の輸入が自由化された。
イ c→d→a→e→b ロ c→b→a→d→e
ハ a→c→b→e→d ニ a→d→c→e→b
＜解答解説＞私的な今年のワーストオブワースト。教科書的な知識から導き出せるものから挙げていこう。bの航海法廃止は1849年，cのイーデン条約は1786年，eの穀物法廃止は1846年である。この辺でつまる人は，政経学部の受験生にはおるまい。ここまででc→e→bが確定しているが，この時点でイとニしか残らない。ただし，反穀物法同盟が結成されたのは明確な年代（1839年である）を知らなくても，30年代であることは推測がつくので，cより手前はありえない。よってニが消え，イが正解となる。
では易問ではないかと思われるかもしれないが，ここでネックになるのがaの選択肢で，イギリスの機械類輸出禁止の緩和は二段階で行われており，1825年と43年である。しかも25年のほうが有名で，こちらは一部教科書（案の定社会経済史マニアの東京書籍）に記載があるが，43年のほうは受験世界史範囲外である。つまり，勉強熱心な受験生が1825年を手がかりに年代を整序するとc→a→d→e→bとなり，「あれ，解答が無くね？」と困惑する事態となる。こういう勉強してきた生徒ほど解けなくなるような問題だけは絶対に出題してはいけない。同様の指摘は河合塾からもあった。いかに作題者が高校の教科書を参照していないかが露見した問題。
３５．早稲田大 政経学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞５ B−２ 下線部g（＝南アフリカ）に関連して，イギリスに再征服されたケープ植民地から逃れたブール人が建国した地域は，同植民地に1843年に併合され，後に南アフリカ連邦の一州となった。その州はどこか。
＜解答解説＞答えは「ナタール」。こんなもん範囲外だろと思っていたが，用語集を見たら掲載されていた（もちろん頻度は１）。そういう意味では今回の基準にはギリギリ外れるものの，私自身Victoriaをプレーしてなかったら知らなかった国なので一応収録する。実質的には範囲外だろう。今年の政経学部はこれら以外にも受験世界史範囲ぎりぎりの際どい難問が勢揃いで，ここ数年は早稲田世界史最難関兼最悪の座を社学・商学部に奪われていたが，今年は政経学部がこの不名誉な地位を奪還した。何のチキンレースなんですかねこれ。文科省に怒られるラインを探る的な。
３６．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問B 朝貢の説明として誤っているものはどれか。
１．日本は唐の冊封を受けていなかったが，遣唐使は朝貢使節として扱われた。
２．中国王朝が朝貢品への見返りとして与える物品目当てに，朝貢使節を送る国もあった。
３．朝貢使節に参加した商人が，寄港地で現地の商人と交易することもあった。
４．香木は中国の必需品のため，明朝は東南アジア諸国に毎年数回の朝貢を要求した。
＜解答解説＞１と２は教科書知識で正文。３と４は高校世界史範囲外である。なお３は正文で，これにより周辺諸国の御用商人は莫大な利益をあげている。ただしその量は正規の朝貢貿易同様制限があった。４は後半が誤文。明朝盛期の琉球が最も朝貢回数の多かった国として知られており，盛期には年２〜３回ペースであったが，これを東南アジア諸国には含むまい。２位の安南（ベトナム）の朝貢回数は琉球の半分以下のペースで，せいぜい年１回である。選択肢２や３の事情から朝貢回数を増やしたがる朝貢国が多かったが，歴代の中国王朝は琉球のような例外を除けば，通常朝貢回数を制限する傾向があった。いずれにせよ，受験生に３と４の判別はほぼ不可能。
３７．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞１ 問F 宋代に市舶司が設置された都市として該当しないものはどれか。
１．秀州 ２．明州 ３．温州 ４．上海
＜解答解説＞大学の想定としては４の上海なのだろうが，上海には南宋代に市舶司が設置されており，前述の通り普通「宋代」と言えば南宋も含むことが多いし，この問題の文脈上もそう考えられるため，ほぼ解無しの出題ミスといっていい。同様の指摘は河合塾・駿台・代ゼミ・早稲田予備校でされていた……おい東進。なお，この件について大学当局からの発表はない。
３８．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞２ 問L オランダはアジアに進出し，Lを拠点に貿易を行い〜〜
１．バタヴィア ２．マカオ ３．マニラ ４．ジャカルタ
＜解答解説＞別に収録しなくてもよかったのだが，一応指摘しておく。バタヴィアはオランダが命名したジャカルタの古名なので１と４は同一都市であり，文脈がオランダのアジア進出だからといって４を誤答と見なすのは無理筋であろう。同様の指摘は河合塾からあった。こういうところにケチをつけたがる駿台がスルーしたのは珍しい。
３９．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞難問・悪問
＜問題＞３ 問G アメリカ合衆国憲法に関する説明として誤っているものはどれか。
１．フィラデルフィアで開かれた憲法制定会議において制定された。
２．連邦の権限強化を強く主張したワシントンの提案を基礎として起草および制定された。
３．連邦議会について，各州議会が２名ずつ選出する議員からなる上院と，人口に比例して選出される議員からなる下院の二院制をとる旨を定めた。
４．連邦の行政を担う大統領の任期は４年とする旨を定めた。
＜解答解説＞教科書的知識で判断できるのは１と４だけで，これらは正文＝誤答。正解は２で，ワシントンの提案ではなく連邦主義派の強硬派であったマディソン（後の第４代大統領）とハミルトン（初代財務長官）による。問題は３で，アメリカ合衆国議会上院の議員は，建国当初は州議会が２名選出していたが，1913年の憲法改正で下院同様有権者の投票に変わりこれが現行である。無論のことながら受験世界史範囲外で，私も今回調べていて初めて知った。変に現行制度の知識があると判断に苦しむことになる。昨年大暴れした商学部であったが，今年は比較的マシであった。あくまでも比較的なだけで，ワースト２には変わりないが。
４０．早稲田大 社会科学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問２ 隋に関連する出来事を発生順に並べたとき，４番目に来るものを選べ。
a 隋が策略により突厥を東西に分裂させた。
b 隋が南朝の陳を滅ぼした。
c 開皇律令が制定された。
d 大運河の工事が完成した。
e 楊堅が北周の静帝から禅譲されて帝位についた。
＜解答解説＞a・b・eは楊堅で，aの583年はやや細かいが，bの589年とeの581年は易しい。dも年代まではわからずとも煬帝の業績であることはわかるだろう（610年）。問題はcで，これは完全に受験世界史範囲外で，名前を見たのは初めてという人も多かろう。これを制定したのは楊堅で，皇帝即位直後であるから，順番はe→c→a→b→dとなる。４番目＝正解はb。年代整序問題であるがゆえに１つ分からないと残り４つが分かっても解答できないという難点が現れた問題。
2010，2011とラスボスと化していた社学であるが，昨年は商学部に奪われてワースト２，今年はなんとこの１問だけ。基準をもう少し下げても１〜２問増えるだけで，非常に良問化した。ワースト２どころか早稲田の全９学部でも良心的な部類に入っている。
＜種別＞難問
＜問題＞２ ラ＝テーヌ文化を発展させたインド＝ヨーロッパ語系の（B）人〜〜
＜解答解説＞答えは「ケルト人」だが，ラ＝テーヌ文化は受験世界史範囲外。多くの受験生ならケルト人かゲルマン人かくらいまでは絞れると思う。
１９．慶應大 経済学部
＜種別＞悪問・出題ミス
＜問題＞１ 問３ 清教徒革命以降のイギリスとアイルランドの関係について次の１〜４の文章の中から，誤りを含むものを１つ選びなさい。
１．共和政樹立後，クロムウェルは王党派の強いアイルランドを征服し，土地を奪われたアイルランド農民は，その後イギリス人不在地主の下で小作人化し，困窮していった。
２．1840年代のアイルランドでは，ジャガイモ飢饉に加えて，穀物法成立によってイギリス人不在地主による収奪が強化されたため，大量の移民が発生し人口は大幅に減少した。
３．20世紀初頭にはシン＝フェイン党が結成された。第一次世界大戦によってアイルランド自治法の実施が延期された後，彼らを中心にイースター蜂起が起こった。
４．第一次世界大戦後，イギリスは，プロテスタントの多いアルスター地方の一部を除いて自治権を認め，1920年代にアイルランド自由国が成立した。
＜解答解説＞１と４は正しい。２は事実として完全に誤りである。よって正解は２でいいと思うが，問題は３。シン＝フェイン党の成立は1905年なので前段は正文。しかし，1916年のイースター蜂起の主導はシン＝フェイン党ではなくIRB（アイルランド共和主義同盟）である。鎮圧後のイギリスが「主導はシン＝フェイン党」と決めつけて抑え込みにかかったが，むしろシン＝フェイン党は同情を受けて戦後の選挙で大勝し，この党が独立の主体となっていった点にイースター蜂起の歴史的意義がある。よってこの誤りは本質的にまずい。しかし，実は多くの教科書もこの点で怪しい書き方をしているので，一方的に慶大を責めるのは酷ではある。この点多くの予備校はスルーしたが，駿台からは指摘があった。わざと悪問を出すことはあっても史実はミスしない慶大が，この種の出題ミスをやらかすのは珍しい。
２０．慶應大 経済学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞３ 問10 下線部Aに関して，次の地図はアメリカを中心とする西側陣営とソ連を中心とする東側陣営を，それぞれ軍事同盟条約や援助などによる影響力をもとに区分したものである。東西両陣営の範囲が地図のような状況になったのは，下の年表のどの時点か。年表中の空欄１〜６からもっとも適切なものを選びなさい。
１ → トルーマン＝ドクトリン発表 → ２ → NATO結成 → ３ → 朝鮮戦争勃発 → ４ → ジュネーヴ休戦協定締結 → ５ → ソ連のフルシチョフ訪米 → ６
（地図については解答解説にて言及）
＜解答解説＞地図を見ると，ベトナムが北緯17度線で分かれていることから1975年以前，1954年以後ということがわかる。これでジュネーヴ休戦協定（インドシナ戦争終結でベトナムが南北分断）より前の１〜４は全滅。あとはイラクが西側という点から1958年のイラク革命前，もしくはキューバが西側から1959年１月のキューバ革命前の世界地図ということになり，フルシチョフ訪米は1959年９月なので６はない。よって解答は５と絞れる。
しかし，地図をよく見るとソ連がCISに分裂している，ユーゴスラヴィアが分裂しているなど一部国境線が現代世界のものとなっており，一方で東西ドイツ・南北ベトナムはちゃんと分かれているなど，こんな世界地図になった歴史はどこにもない。致命的なのがユーゴスラヴィアで，ユーゴのうちスロヴェニア・クロアチア・ボスニア＝ヘルツェゴヴィナ・モンテネグロ・コソヴォは第三世界なのにセルビアとマケドニアが東側というどこの架空戦記ですかそれな状態になっている。これは問題不成立とすべきだろう。悪問というよりは，笑かしてくれた方向では今年の最優秀賞である。繰り返すが，慶大がこういう致命的なミスをやらかすことは少ないのだが，今年の経済学部はひどい。担当者が大きく変わったのだろうか。
２１．慶應大 経済学部（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問14 （２）次の地図の１〜５の領域はc（編註：サイクス・ピコ協定）の５つの各領域を示している。第一次世界大戦後のこの地域における各国の勢力範囲は，この資料の規定に近いものとなったが，１つの領域については規定とは異なる処理が行われた。その領域の番号を地図中の１〜５から選びなさい。（強調は編集者）
参考：Wikipediaのサイクス・ピコ協定の地図
１：フランスの直接統治予定域
２：フランスの勢力範囲
３：国際管理地域（パレスチナ）
４：イギリスの勢力範囲
５：イギリスの直接統治予定域
＜解答解説＞おそらく大学側の想定する解答としては，パレスチナが実際には国際管理地域ではなく，イギリスの委任統治領になったことを指して３を想定しているのだろう。が，そもそもサイクス・ピコ協定の勢力範囲と実際の英仏の勢力範囲は似て非なるものであって，問題文が詭弁である。百歩譲って２・４・５についてはおおよそ同じ形と見なしても，１はダメだ。サイクス・ピコ協定及びセーヴル条約では東アナトリアの南部がフランスの勢力圏だが，ローザンヌ条約ではトルコ領に戻っている。これを「似ている」と見なすのは少々苦しい。
２２．慶應大 経済学部（４つめ）
＜種別＞奇問
＜問題＞３ 問15 （３）オバマ米大統領によるアメリカの基本的対外政策の転換について述べた次の文章中の(a)〜(c)に入る適切な語句を記述しなさい。
オバマ米大統領は〜（中略）〜その年のノーベル平和賞の受賞理由の１つにもなった「(a)のない世界」の実現をめざすこと，トルコ国会での演説で「(b)との和解」をめざすことを宣言した。さらに同年９月の国連総会の演説では，前政権の（c）主義から国際協調主義への転換を宣言した。
＜解答解説＞これは政経の問題であって世界史としては無茶ぶりだろう。まだ「歴史」になっていないのだから，世界史ではない。難易度的にもきつい。(a)の「核」は類推できるだろうが，(b)の「イスラーム世界」・(c)の「単独行動（主義）」は，言われてみると確かにそれしかないのだが，試験会場で思いつくのは困難だろう。果たしてこれらは”一般常識”と言える範囲なのかどうか。
［番外編］早稲田大 国際教学部
＜問題＞２ 以下の文章を読み，各設問に答えなさい。
Joseph Chamberlain, Speech to the West Birmingham Relief Association, January 22, 1894
（リンク先pdfのpp.6-7ページが該当の文章）
＜コメント＞問題文が英語の長文である。実はこれ，世界史では大きな傾向の変化だが，日本史では毎年英文が出ていた。なので教科をまたげば予想され得た問題である。また，英文自体はジョゼフ＝チェンバレンが西バーミンガム救済協会で行った演説という極めてマイナーな史料ではあるが，実は問題文を読まなくても８問中７問は解答可能。残り１問にしても，「ジョゼフ＝チェンバレンならアフリカだろう」という簡潔な連想で解答可能である。
演説の内容は社会帝国主義（帝国主義の利益により国内の社会政策を行う）を擁護したもので，アフリカでの植民地開拓が労働者の利益になることを主張している。また，社会帝国主義はマイナーな歴史用語だが，この内容を知らなくても・読み取れなくても解答に差し支えない。……あれ，なんのために英文にしたんだ。もっとも，国際教学部を受けるような連中はこの英文程度さらさらと読めたとは思うが。また，わざわざ全文訳した予備校（早稲田予備校）があるので，そちらのpdfも貼っておく。
２３．早稲田大 法学部
＜種別＞誤植？
＜問題＞１ 設問５ 下線dに関して，中国史上，禅譲の最初の実例は，前漢にかわって新を樹立した王莽であるが，王莽の政治に関して誤っている記述はどれか。（強調は編集者，選択肢は省略）
＜解答解説＞王莽の漢字は，莽の字の真ん中は”大”ではなく”犬”のほうが適切とされる。パソコンであれば文字化けの危険性があるから仕方ないが，紙に出力したものだからそういう事情ではないはずである。少なくとも高校世界史の教科書や資料集は”犬”で統一されているはずである。もっとも私は中国史が専門ではないので，専門の方の意見を聞いてみなければなんとも言えない。
２４．早稲田大 法学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞１ 設問７ 宋代以降，君主権が強大化し，禅譲形式は廃れて，異民族による征服と漢人王朝の放伐による王朝交替が行われる。このような政権交代に関する記述で誤っているものはどれか。
� 〃醒阿聾綽犬侶�国を助けた代償に燕雲十六州を獲得し，後晋を滅ぼして華北に支配領域を拡大し，国号を遼と定めた。
�◆ゞ發倭廚鳩襪鵑芭砲鯡任椶靴燭�，宋は同盟中に金と結んだ約束を守らなかったので，開封が攻め落とされ，金に滅ぼされた。
�� 大都に遷都して国号を元と定めたフビライは，臨安を占領し，南宋を滅ぼした。
�ぁ〕�自成が明を滅ぼすと，山海関を守備していた呉三桂は清に投降し，清軍を関内に導き入れた。ヌルハチの率いる清軍は，李自成の乱を平定して北京を占拠した。
＜解答解説＞�い療�時の清朝皇帝はヌルハチではなく順治帝なのでこれが明確に誤りで，おそらく大学の想定した正答もこれ。しかし，�，蓮こ里�に契丹は後晋を滅ぼし，その後一瞬華北を占拠したが，短期間で北方に追い返されて後漢が成立しているから，これは危うい日本語。�△睇當未蓮屐彬盟廖匹�金に滅ぼされた」と書くところだろう。単に”宋”としか書いてないから南宋との連続性が曖昧で，継続したと考えるなら”宋”を滅ぼしたのは金ではなく元になる。��も臨安陥落は1276年だが南宋滅亡は1279年の崖山の戦いとされているため，臨安陥落が即滅亡ではないことを踏まえるとこの表現は危うい。結果的に全選択肢が微妙に危うい。そんな細かいところでいちゃもんをつけなくても，と思うかもしれないが，早慶上智は実際にこうしたところで誤文を作ることもあるから，危ういのである。
２５．早稲田大 文学部
＜種別＞誤植
＜問題＞３ D 15世紀初め，朝鮮王朝では太宗のとき明の制度を取り入れ，高宗のとき朱子学を国学とした。（強調は編集者）
＜解答解説＞朝鮮王朝はほぼ最初からずっと朱子学が国学であり，太祖李成桂がこれを定めている。無論の事ながら，末期の国王高宗（在位1863〜1907）ではない。この高宗はハーグ密使事件で有名である。なお即日で当局から訂正の発表があった。また，解答に影響はないもないため，記録するに留め批判対象とはしない。むしろこうした類のミスは誰にでも起きるため，素直に発表した分評価できる。
２６．早稲田大 文学部（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞４ 設問２ 下線部２（＝黄宗羲は，明が滅びた理由として，過度の中央集権の弊害を挙げ封建制の部分的復活を主張したこと）について正しい解説はどれか。
イ この見解は，中央政府の強引な政策が藩王による三藩の乱を引き起こしたことへの反省から出た。
ロ この見解は，漢の武帝が呉楚七国の乱を鎮圧して施行した郡国制の成功例に触発されて出た。
ハ この見解は，モンゴルや満州族などと境を接する辺境には藩鎮を置いて対峙させるとの発想による。
ニ この見解は，北宋が周辺の部族長を契丹王や西夏王に冊封することで恒久平和を維持したことによる。
＜解答解説＞黄宗羲の『明夷待訪録』が出典となっている問題だが，『明夷待訪録』を読んでいる受験生が日本に何人いるやら。そもそも黄宗羲自体が難関大学以外では出ないマイナーな人物である。こうした場合には該当書の概要を知っていれば解答できるか，消去法で解答できるように作問するものだが，この問題はそうなっておらず，明確に解くには読んでいるしかないというひどい問題。ロはでたらめなので誤答とわかるものの，一般的な受験生が判断できるのはここまでだろう。かろうじて黄宗羲が明末清初の人物であることを知っていれば，三藩の乱の影響下で書かれた著書とは考えづらいとしてイは誤答，とまで類推できるかもしれない。事実，『明夷待訪録』が書かれたのは三藩の乱以前のことだが，黄宗羲自身は三藩の乱鎮圧後に亡くなっている。ニは「恒久平和」が胡散臭い上に，契丹王は自称であって冊封ではなかろう，ということに気づけば最後にハが残る。
ということで正解はハだが，正直に言ってハ自体も相当胡散臭い内容で，私自身『明夷待訪録』の和訳を読むまで確信を持ってこれが正答とは判断できなかった。はっきり言ってしまうと藩鎮は唐末五代の中国分裂の象徴であり，あの異民族侵入と戦乱の時代を知って入ればとてもじゃないがこんな発想は出てこない。その後の北宋や清朝の成功を見ても中央集権制が正解である。私の中で黄宗羲の株が暴落した原因となった問題。
２７．早稲田大 文学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 設問４ 服属，唐の官職，刺史，都督の語を使用した30字以内の文章をAに入れなさい。（編註：太字は原文ママ）
歴代の中国王朝は，直接統治とする州県のほか， A 自治を許す唐の羈縻州や〜〜
＜解答解説＞単純に羈縻政策を30字で説明させる問題ならただの標準的な良問だが，「刺史，都督」という高校世界史範囲外の用語を指定しているがために難問化した。ともに三国志には出てくる官職で，職務内容もさして変わっていないため，読んでいれば「地方長官や軍の高官」ということはわかるのだが，そこまで三国志に詳しい受験生ばかりでもあるまい。解答は「都護府の監督下で服属民族の首長に刺史や都督等の唐の官職を与え（自治）」でちょうど30字になる。
文学部は毎年おとなしかったのだが，今年は３つも出てしまった。誤植はしょうがないとして，中国史の２つは言い訳できないものである。どうしちゃったの。ついでに言うと，今年は早慶上智全大学で三国志からの出題があった。今年ってそんなに三国志イヤーでしたっけ？
２８．早稲田大 人間科学部
＜種別＞悪問
＜問題＞２ �ァ＼椎�トルコ革命に関する説明として誤りを含むものはどれか。
（ア）スルタンの専制に反対して結成された「統一と進歩のための委員会」がおこした革命である。
（イ）「青年トルコ」が組織した内閣はやがて独裁化し，ドイツ・オーストリアとともに第一次世界大戦を戦った。
（ウ）ロシアとの開戦を口実に，アブデュル＝ハミト２世が停止したミドハト憲法を復活させた。
（エ）青年トルコ革命は，日本の対ロシア戦争の勝利やイランの立憲革命などが影響したといわれる。
（オ）青年トルコ革命は，カリフ制を廃止し，信仰の自由や女性の地位向上などの改革を推進した。
＜解答解説＞誤文が２つあるように見えるが，おそらく大学の想定した正解は（オ）の側である。（ウ）のどこか正文なの？と思った人は鋭い。（ウ）は読点の打ち方が間違っておりこのままだと誤文と取られても全く言い訳できない。正文にするなら「ロシアとの開戦を口実にアブデュル＝ハミト２世が停止したミドハト憲法を，（青年トルコ政府は）復活させた。」としなければならない。早稲田は毎年読点のミスがどこかしらの学部で出てくるが，こだわりがない先生方が多いのだろうか。
２９．早稲田大 人間科学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞５ 1860年のイタリア統一は，（E）の「青年イタリア」の流れをくむ下からのナショナリズムと，サルデーニャ首相カヴールを中心とする，穏健な立憲主義による上からの統一機運の妥協によって成立した。
(E)a ガリバルディ b サモリ＝トゥーレ c マッツィーニ d サヴィニー
＜解答解説＞aのガリバルディかcのマッツィーニか絞れず，国語的な問題になる。というか国語的に考えても解答が出ない。普通”流れをくむ”と言われたら始祖を想起するが，そうするとマッツィーニが正しいし，普通は「青年イタリア」といえばマッツィーニのイメージが強い。しかし，マッツィーニ自身はサルデーニャとの妥協をよしとせず，終生理想主義を貫いた人間であるから，後段を見れば適切ではない。一方，aのガリバルディはまさにその妥協をなしてイタリア統一を大きく前進させた人物であり，「青年イタリア」の党員でもあった。結局，”流れをくむ”を強調すればcのマッツィーニになるし，後段を強調すればaのガリバルディになる。予備校間でも解答は割れており，河合塾と早稲田予備校はcのマッツィーニを採用，東進はaのガリバルディを採用し，代ゼミは両論併記。ほんともう人科の先生方の日本語能力が不安になる。
３０．早稲田大 教育学部
＜種別＞悪問
＜問題＞１ （７）中世の地中海諸国について，正しい説明はどれか。
a ビザンツ皇帝は，聖像崇拝の是非をめぐって神聖ローマ皇帝と争った。
b アッバース朝は，イベリア半島を支配した。
c カスティリャ王国は，14世紀まで，バルセロナを含む地域を支配した。
d ポルトガル国王ジョアン２世は，新航路開拓を推し進めた。
＜解答解説＞aは神聖ローマ皇帝がローマ教皇の誤り。cはカスティリャがバルセロナを支配していないので誤り。dは明確に正しいので，大学の想定した解答はおそらくこれだろう。問題はbで，アッバース朝の成立は750年，後ウマイヤ朝の成立が756年であるから，極めて短時間で実効的ではなかったとしても６年間は名目上の統治期間があると言えなくもないわけだ（少なくとも受験生にそれを判断する知識はない）。こういうグレーゾーンを使った選択肢はちょっと感心しない。まあ「dのほうがより正しかろう」と判断すれば解答自体は可能な易問だし，あまり６年間でとやかく言うのもアレなので，収録しなくても良かったかも。
３１．早稲田大 政経学部
＜種別＞悪問
＜問題＞１ A−３ 下線部e（青磁・白磁）に代わって，元〜清代に重要な輸出品となった陶磁器の種類はどれか。
イ 三彩 ロ 黒陶 ハ 天目 ニ 染付
＜解答解説＞これってニが正解じゃないの？と思った方は，その判断に自信を持っていい。おそらく大学側の想定した正解はそれである。しかしこれは問題文自体が誤っているので厳密に言えば解答がない。なぜなら染付は白磁の一種であるので，「代わって」いないからだ。要するに，いわゆるカテゴリーエラーが生じている。これは山川の『用語集』にも「白磁にコバルトブルーの絵付けをした焼き物」と書いてあり，細かくはあるが受験世界史範囲のギリギリ内側と言えなくもない。というよりも，顔料のコバルトブルーはイル＝ハン国から海路で輸入されたものが多く，高校世界史ではパックス＝タタリカによる文化交流の一環として紹介されるから，難関大学の受験生ほど知っている知識になる。一方，誤答選択肢の「天目」は範囲外。
仮に下線部eを「染付ではない青磁・白磁」と好意的に解釈したとしても，元代以降でもそうした陶磁器は重要な輸出品であったわけだから，やはり”代わって”はおかしい（万暦赤絵etcはどこ行った？という話になる）。ついでに言うと，世の中には（例外的ではあるが）「青磁染付」というものも存在するわけでして。→ 参考（根津美術館サイト）
３２．早稲田大 政経学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞２ A−４ 下線部g（ソ連が1980年代に入ってその外交政策を大転換した）の時期のソ連の外交政策として誤っているものはどれか。
イ 東西ドイツ統一を容認した。
ロ アメリカとの間で中距離核戦力（INF）全廃条約を締結した。
ハ ワルシャワ条約機構とコメコンを解散させた。
ニ ソ連軍をアフガニスタンから撤退させた。
＜解答解説＞イ〜ニの全てが正文で，かつ下線部gの指す”時期”が不明瞭であるため，解答のしようがない。仮に下線部gは1980年代「のみ」を指すと好意的に解釈しても，イとハの２つが1990年代の出来事であるため結局複数解であり，出題ミスである。予備校間でも判断が割れている。代ゼミは解答不能と発表。河合塾と駿台・東進・早稲田予備校はハとしているが，駿台・河合塾は言及無し，東進と早稲田予備校は講評で苦言を呈している。私も大学側の想定した解答はハではないかと思うので，以下解説する。
まず，前述の通り問題文を「1980年代以降」ではなく「1980年代のみ」と強引に解釈し，1980年代の出来事は正文＝誤答と判断してロ＝1987年・ニ＝1989年まで，は消去できる。さてそうするとイ＝1990年・ハ＝1991年が残るが，ドイツ統一のほうが１年だけ1980年代に近いという点と，1989年に起きたベルリンの壁崩壊からの続きであるという点を考慮すると，イのほうがまだ1980年代に対する親和性が高い。ゆえに残るのはハ，という判断だ。
ところで，この問題の正解をハとすると，早稲田の政経学部は，ゴルバチョフは1980年代のうちにドイツの再統一を容認していたと判断しているということができるが，これは真実か。ゴルバチョフは「ドイツ統一は21世紀の課題だと考えていた」という発言があり（ベルリンの壁崩壊20周年記念式典にて），1990年５月のブッシュ（父）大統領との会談で，西独からの経済支援と引き替えに東独からの撤兵をようやく決めている等の事実から鑑みて，そう判断するのは難しい。当時の西独首相のコールでさえも，壁崩壊直後に「ドイツ統一は必然だ。だが時間がかかる」と発言しており，1990年中の統一は誰の構想から見ても急進的であったと言える……と思うのだが，私は現代ドイツ史が専門ではないので，実際のところはわからない。誰か知ってる人いませんかー？＞読者の皆さん……いずれにせよ出題ミスではあるのだけれど。
３３．早稲田大 政経学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ A−２ 下線部e（海外領土）の獲得に関連して，最も早く起こったことはどれか。
イ コルテスによるメキシコ征服
ロ ピサロによるインカ征服
ハ マゼランによるマゼラン海峡到達
ニ バルボアによるパナマ地峡横断
＜解答解説＞単純に年代だけ並べて考えれば，イ＝1521年，ロ＝1533年，ハ＝1520年，ニ＝1513年なのでニが正解となる。しかし，下線部eの前後を読むと文脈の主語はカール５世の治世下（1516〜56）であり，そうするとバルボアはフェルナンド２世の治世下の出来事になるのでそもそも誤文となり，この場合の正解はハとなる。後日大学当局から発表があり，ハとニいずれでも正解となる模様。
３４．早稲田大 政経学部（４つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞５ A−３ 下線部c（＝イギリスの自由貿易政策）に関連する出来事，a〜eを年代順に並べるとすれば，適切なのはどれか。
a 機械類の輸出禁止を解除した。
b 航海法が廃止された。
c ピットが関税を引き下げる通商条約をフランスと結んだ。
d 反穀物法同盟が結成された。
e 穀物法が撤廃され，基本的に穀物の輸入が自由化された。
イ c→d→a→e→b ロ c→b→a→d→e
ハ a→c→b→e→d ニ a→d→c→e→b
＜解答解説＞私的な今年のワーストオブワースト。教科書的な知識から導き出せるものから挙げていこう。bの航海法廃止は1849年，cのイーデン条約は1786年，eの穀物法廃止は1846年である。この辺でつまる人は，政経学部の受験生にはおるまい。ここまででc→e→bが確定しているが，この時点でイとニしか残らない。ただし，反穀物法同盟が結成されたのは明確な年代（1839年である）を知らなくても，30年代であることは推測がつくので，cより手前はありえない。よってニが消え，イが正解となる。
では易問ではないかと思われるかもしれないが，ここでネックになるのがaの選択肢で，イギリスの機械類輸出禁止の緩和は二段階で行われており，1825年と43年である。しかも25年のほうが有名で，こちらは一部教科書（案の定社会経済史マニアの東京書籍）に記載があるが，43年のほうは受験世界史範囲外である。つまり，勉強熱心な受験生が1825年を手がかりに年代を整序するとc→a→d→e→bとなり，「あれ，解答が無くね？」と困惑する事態となる。こういう勉強してきた生徒ほど解けなくなるような問題だけは絶対に出題してはいけない。同様の指摘は河合塾からもあった。いかに作題者が高校の教科書を参照していないかが露見した問題。
３５．早稲田大 政経学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞５ B−２ 下線部g（＝南アフリカ）に関連して，イギリスに再征服されたケープ植民地から逃れたブール人が建国した地域は，同植民地に1843年に併合され，後に南アフリカ連邦の一州となった。その州はどこか。
＜解答解説＞答えは「ナタール」。こんなもん範囲外だろと思っていたが，用語集を見たら掲載されていた（もちろん頻度は１）。そういう意味では今回の基準にはギリギリ外れるものの，私自身Victoriaをプレーしてなかったら知らなかった国なので一応収録する。実質的には範囲外だろう。今年の政経学部はこれら以外にも受験世界史範囲ぎりぎりの際どい難問が勢揃いで，ここ数年は早稲田世界史最難関兼最悪の座を社学・商学部に奪われていたが，今年は政経学部がこの不名誉な地位を奪還した。何のチキンレースなんですかねこれ。文科省に怒られるラインを探る的な。
３６．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問B 朝貢の説明として誤っているものはどれか。
１．日本は唐の冊封を受けていなかったが，遣唐使は朝貢使節として扱われた。
２．中国王朝が朝貢品への見返りとして与える物品目当てに，朝貢使節を送る国もあった。
３．朝貢使節に参加した商人が，寄港地で現地の商人と交易することもあった。
４．香木は中国の必需品のため，明朝は東南アジア諸国に毎年数回の朝貢を要求した。
＜解答解説＞１と２は教科書知識で正文。３と４は高校世界史範囲外である。なお３は正文で，これにより周辺諸国の御用商人は莫大な利益をあげている。ただしその量は正規の朝貢貿易同様制限があった。４は後半が誤文。明朝盛期の琉球が最も朝貢回数の多かった国として知られており，盛期には年２〜３回ペースであったが，これを東南アジア諸国には含むまい。２位の安南（ベトナム）の朝貢回数は琉球の半分以下のペースで，せいぜい年１回である。選択肢２や３の事情から朝貢回数を増やしたがる朝貢国が多かったが，歴代の中国王朝は琉球のような例外を除けば，通常朝貢回数を制限する傾向があった。いずれにせよ，受験生に３と４の判別はほぼ不可能。
３７．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞１ 問F 宋代に市舶司が設置された都市として該当しないものはどれか。
１．秀州 ２．明州 ３．温州 ４．上海
＜解答解説＞大学の想定としては４の上海なのだろうが，上海には南宋代に市舶司が設置されており，前述の通り普通「宋代」と言えば南宋も含むことが多いし，この問題の文脈上もそう考えられるため，ほぼ解無しの出題ミスといっていい。同様の指摘は河合塾・駿台・代ゼミ・早稲田予備校でされていた……おい東進。なお，この件について大学当局からの発表はない。
３８．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞２ 問L オランダはアジアに進出し，Lを拠点に貿易を行い〜〜
１．バタヴィア ２．マカオ ３．マニラ ４．ジャカルタ
＜解答解説＞別に収録しなくてもよかったのだが，一応指摘しておく。バタヴィアはオランダが命名したジャカルタの古名なので１と４は同一都市であり，文脈がオランダのアジア進出だからといって４を誤答と見なすのは無理筋であろう。同様の指摘は河合塾からあった。こういうところにケチをつけたがる駿台がスルーしたのは珍しい。
３９．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞難問・悪問
＜問題＞３ 問G アメリカ合衆国憲法に関する説明として誤っているものはどれか。
１．フィラデルフィアで開かれた憲法制定会議において制定された。
２．連邦の権限強化を強く主張したワシントンの提案を基礎として起草および制定された。
３．連邦議会について，各州議会が２名ずつ選出する議員からなる上院と，人口に比例して選出される議員からなる下院の二院制をとる旨を定めた。
４．連邦の行政を担う大統領の任期は４年とする旨を定めた。
＜解答解説＞教科書的知識で判断できるのは１と４だけで，これらは正文＝誤答。正解は２で，ワシントンの提案ではなく連邦主義派の強硬派であったマディソン（後の第４代大統領）とハミルトン（初代財務長官）による。問題は３で，アメリカ合衆国議会上院の議員は，建国当初は州議会が２名選出していたが，1913年の憲法改正で下院同様有権者の投票に変わりこれが現行である。無論のことながら受験世界史範囲外で，私も今回調べていて初めて知った。変に現行制度の知識があると判断に苦しむことになる。昨年大暴れした商学部であったが，今年は比較的マシであった。あくまでも比較的なだけで，ワースト２には変わりないが。
４０．早稲田大 社会科学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問２ 隋に関連する出来事を発生順に並べたとき，４番目に来るものを選べ。
a 隋が策略により突厥を東西に分裂させた。
b 隋が南朝の陳を滅ぼした。
c 開皇律令が制定された。
d 大運河の工事が完成した。
e 楊堅が北周の静帝から禅譲されて帝位についた。
＜解答解説＞a・b・eは楊堅で，aの583年はやや細かいが，bの589年とeの581年は易しい。dも年代まではわからずとも煬帝の業績であることはわかるだろう（610年）。問題はcで，これは完全に受験世界史範囲外で，名前を見たのは初めてという人も多かろう。これを制定したのは楊堅で，皇帝即位直後であるから，順番はe→c→a→b→dとなる。４番目＝正解はb。年代整序問題であるがゆえに１つ分からないと残り４つが分かっても解答できないという難点が現れた問題。
2010，2011とラスボスと化していた社学であるが，昨年は商学部に奪われてワースト２，今年はなんとこの１問だけ。基準をもう少し下げても１〜２問増えるだけで，非常に良問化した。ワースト２どころか早稲田の全９学部でも良心的な部類に入っている。
Posted by dg_law at 00:23│Comments(2)
この記事へのコメント
いつもお世話になっております。
ものすごい今更な指摘で大変恐縮なのですが、
この記事の24.�い料�択肢につき、
投稿→投降
選挙→占拠
のタイプミスではないでしょうか。
ものすごい今更な指摘で大変恐縮なのですが、
この記事の24.�い料�択肢につき、
投稿→投降
選挙→占拠
のタイプミスではないでしょうか。
Posted by koshiMAX at 2018年01月18日 14:06
ご指摘ありがとうございます。
書籍版（http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/52229003.html）では直したのですが，ネットの方は放置してました。
こちらでも直しときます。
書籍版（http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/52229003.html）では直したのですが，ネットの方は放置してました。
こちらでも直しときます。
Posted by DG-Law at 2018年01月18日 18:33
