2013年04月28日

大図書館の羊飼い レビュー

ユースティアから再び学園物に戻ってきた本作だが,スタッフの「ユースティアでの成果を取り入れつつ」と言っていた通り,テキストや演出と言った点では明確にポスト”ユースティア”であった。その意味で,界隈の反応がおもしろかった。ネガティブな反応は,言辞こそ多種多様であったが,その内容はおおよそ全て同じで,最も端的に表現していた言葉を引用すると「守りに入った作品であったのに,守りきれていない。」

これには,なるほど,と。私的にはユースティアで学んだことを取り入れた結果として進化した部分のほうが多かったと思ったのだが,このような反応を批判できないのは,確かに中途半端さも感じたからである。特に,描写の丁寧さはユースティアから引き継がれたものと言って間違いないと思うが,一方であまりにも長大な共通ルートや,それに付随する展開に比べてテキスト量が多いことなどは”肥大化”と言えるかもしれない。基本的に本作に対して好印象しかない私でも,共通部分は長かったと感じた。ここでやっとOPムービーか,と思ったら即分岐し,個別ルートに入ったので,確かにバランスは悪い。(もっとも,OPは共通の前半に設置しなければならないということ自体が先入観ではあるが。)

一方,批判している感想であっても,ほとんどの場合で「共通が楽しかったのが救い」と書いており,この描写の丁寧さはオーガストらしく,他のブランドではなかなか見られない。単にわかりやすいだけでなく,テキストの力を使って凡なテーマをなんとか楽しめるシナリオに昇華させているところはある意味本作最大の目玉だったのではないか。言ってしまえば,ちょっと突飛なテーマだったのは鈴木のルートとトゥルーエンドのルートくらいで,あとはまあ大した話はしていないのである。にもかかわらずちゃんと読ませるシナリオだったのは大したもんだと思った。その意味で,批判のうち「個別ルートが適当」というのには納得できない。5人とも個性をきっちりと描いていた。あとはまあ,やや細かいところで,白崎つぐみの思想を茶化して「白崎教」とセルフ揶揄していたところは地味に良かった。その他,読者からツッコミを受けそうな不自然なポイントは先回りしてつぶしていたところが見受けられ,その辺も指して丁寧だなと思う。


さて,学園物としての本作を評すると楽しい学園生活だったと言え,とりわけ私には割りとド直球であったのだが,それだけに一般性を持った話だったかどうかと言われるとちょっとわからない。この話の大意は「学校から阻害されていたものたちが集まり,逆に学校を主導する立場になっていくカタルシス」でしかなく,そこに共感できるかどうかは感想を大きく分けたのではないか。ポイントは現実の生徒会(特に高校の)も似たような機能を持っているということだ。私自身生徒会関係者であったが,オタクの隠れ蓑組織だったということは我が母校ならずネット上でしばしば聞く話である。そこに本気で焦点を絞って本作の大枠を定めたのならば,おそらく顧客層のど真ん中は突いているが,ど真ん中すぎてダメだったんじゃないかという気がしてならない。

これがめんどくさいのは,単純に疎外されていた生徒だったというだけではなく,生徒会活動をそれなりに楽しんでいた層でなければならないところだ。たとえば,「生徒たちが22・23時まで学校に残ってなんの活動をしてるんだ」という指摘をしていたレビューがあったが,生徒会活動をしていると割りと普通のことで,日付変わるまで残っていた結果セコムに捕まった勢としてはどちらかというとそこで突つかれるのが驚きであった。実際のところド直球だった人はどの程度いたのか,気になることころである。アイドル的人気の高い生徒会を不自然ながら持ってきた『フォアテリ』,主人公もヒロインたちも別に疎外されていない『明け瑠璃』に『はにはに』,と比して本作は,同じ学園物ながら随分と毛色が違うものが持ち込まれた。

その他の点について。絵・音楽・システムについては文句の付け所がない。システムについては,多くのレビューにある通り「次の選択肢までスキップ」が無いのが画竜点睛を欠いたが,スキップがそこそこ早いのでなくて困るということはさして無かった。また,「サスペンドでゲームを終了すると次回起動時にタイトルを経由せずいきなりそこから始まる」のがすばらしく使いやすかったので,これはエロゲ界の新スタンダードになってほしい。プレイ時間は25時間はかからなかったくらいだが,批評空間見ると中央値が30時間とのこと。一般的なエロゲが20時間前後らしいので,やはり本作は長い。


以下,ネタバレ……というよりも,鈴木の圧倒的人気について。

個別ルートの話。上述の通り,テーマ自体はありきたりなものが多いので,書けることがあまりない。基本的に主人公の筧君がああいう人で,疎外されて生きてきたというよりは,自分から影に入って生きてきた人間である。彼に羊飼い適性があるのは当然だろう。で,ヒロインたちもそろいもそろって「浮いている人たち」ばっかりなので,接点はあるわけだ。惹かれあうのは理由があった。

ただし,その中で鈴木のシナリオだけが飛び抜けて評価が高い。理由は単純で,(小太刀はちょっと特殊なので横に置いておく),残りの3人は「浮いている」ことは共通しているものの,浮いている理由が筧君からは遠いのである。つぐみは善人すぎた,玉藻は出自が高貴すぎた,千莉は才能がありすぎた。実はこの3人もさらに分類できる。つぐみの善人具合と千莉の才能に関しては筧君にも通じるところがあるが,玉藻は何一つ接点がない。実はこの点で,私は玉藻のシナリオが三番目におもしろかったと感じた。凡百のシナリオなら「筧は玉藻の出自を気にしないから」云々にしてしまいそうなところ,そうはしなかったのは褒めるべきところというよりは批判せずに済んでほっとしている部分だ。絵の才能についてもありすぎるということにはせず,趣味で続けていくというのは不自然でない落とし所であろう。依存先がつぐみから筧に変わっただけでは?という点は,『ユースティア』のエリスの話を再度利用してきたところはあり,あともう一回くらいこのテーマを使いそうな雰囲気である。

一方,言うまでもないが鈴木と小太刀の二人は,筧君の影と自らの影が思いっきり重なっている。小太刀の場合は過去が過去なのでそりゃそうだ,としかならず,トゥルーエンドのヒロインだったことがそのまま出た形である。だから評価が微妙というところはあり,いかにもシナリオのオチをうまくつけられなかったという感じを受ける。で,鈴木である。彼女の場合,生い立ちが特殊というわけでもないのに,筧とまるで影が同じで,作中で「お前ら似たもの同士」と指摘されている通りだ。ヒロインが8人もいるエロゲだということを忘れればこの二人が付き合いだすのはあまりにも自然なことであった。そりゃまあキャラ立ってるしシナリオもおもしろいし,人気も爆発する。

本作発売前,人気1位は鈴木になるだろうなというのは大体わかっていた。が,それはオーガストの伝統として幼馴染か後輩が1位だろうという程度の予測であった。蓋を開けてみればそんなのは表面でしかなく,鈴木はその内面で圧倒的な勝利を手中に収めたのである。「表向きは明るくとも裏では影のある美少女」自体はそう珍しいものでもない。が,そのティピカルなキャラとしての鈴木の完成度は異常なまでに高く,かつ主人公にも恵まれた(そう,忘れがちなことだがヒロインの完成度は主人公の影響も強い)。本作の主人公が筧君で無ければ,ここまで鈴木もはまらなかったであろう。

あとはまあ,元も子もないことを言うと,前述のようなオーガストのメインターゲット層が本当にそうなら,大体文学ネタが押さえてるから,というのも当然あっただろうな,ということは一応指摘しておく。そりゃレビューでしょっちゅう「私死んでもいいわ……とは言えないんだ」と引用されるはずである。まあ私も本作最大の名シーンはどこか,と言われたらあそこを推しますけども。