2013年04月25日

人類史において最重要な『5つの出来事』は?

元ネタ。というよりも,歴史トークでよくあるネタの一つだろう。これに対する単純明快な回答は,火の使用・言語の使用・文字の使用・獲得経済から生産経済への移行・宗教の発明,あたりだろう。言語と文字を一括りにするなら,金属器の発見か,貨幣の発明あたりで5つになるかもしれない。要するに古代文明の発明・発見は人類の基盤すぎて異論を出しづらいのである。

しかし,私はこのような回答が本当に問いに答えているのか,少し疑問が残る。特に火の使用と言語の使用は人類の知能進化の過程に深くかかわるので危うい。アウストラロピテクスやラミダス猿人も人類に含むのか?という問題点も出てくるし,だったらそもそも「二足歩行の開始」が最大の発見だろう,とかいう話も出てきてしまう。少なくとも「現生人類の歴史」とするなら,この2つはダメだ。さらに,文字の使用や農業の開始・宗教の発明等は,確かに現代の人類の基盤をなした点で重要ではあるが,これも本当にそうかと考えると疑問の余地がある。なぜなら,これらは世界各地で多発的に発生しており,文字や農業は人類の発展において必然的に生じた事象のように見え,「出来事」性の弱さを感じるからだ。要するにライプニッツとニュートンはほぼ同時期に微積分を発見したし,アインシュタインがおらずとも相対性理論は誰かが発見していたであろう,というあの話の系統に通じると思われる。ゆえに,古代史の諸発見は「人類史を,今ある状況にねじまげた画期的な出来事」だったとは,あまり思えないのだ。

という言い訳を言わずとも,やはり冒頭に掲げた通り,十人中ひねくれ者を除いた九人が同じ回答をする問題提起というのも芸がないと思う。そこで,私自身が答える際には,自分なりに次の条件を課した。注目すべきは問いの「人類史」という点と「出来事」であるという点ということで,

・偶発的な出来事であること:必然的に生じた出来事は,どれだけ現代人類にかかわっていても重要性が低いとみなす。
・人類史を思わぬ方向に変えた出来事であること:神が人類史を10回試行したらその中の数回しか起きそうにない,または起きてもそれぞれの回で起きたタイミングが全然違いそうな出来事が良い。
・地域ごとの特殊性を生じさせたものではなく,人類全体にインパクトを与えた出来事であること:たとえば,秦の始皇帝による中国統一は,その後の中国史を決定的に変えた,かつ偶発性の高い出来事だと思うが,では人類史全体を大きく変えた出来事かというと,中国とその周辺地域に対する影響に限定されるのではないかと思う。これはやりだしたら切りがないと思う。一地域に一つ,そういったものを挙げていったら5つではとてもじゃないが足りない,というのがこれを除外の条件とした理由だ。

こうすると,人によって大きく意見が分かれるようになるのではないかと思う。たとえば,コロンブスの航海は必然であったか否か。キリスト教の誕生は西洋の特殊性を生じさせたのみのものか,それとも人類全体の思想に影響を与えたものと見なすのか。等は確実に人によって意見が分かれるところではないか。


で,選んだのが以下の5つ(7つ?)の出来事である。

1.張騫の西域行(次点:アレクサンドロスの東征) 2.モンゴル帝国の成立(パックス=モンゴリカ) 3.コロンブスの大西洋横断(次点:産業革命) 4.フランス革命orアメリカ独立革命 5.サラエボ事件

テーマとしては「世界の一体化とその後」になる。人類史ならまあ大雑把に区切って,古代・中世までの「諸世界の確立と相互の接近」,中世末から近世の「世界の一体化の進行」,近代の「一体化の完成と西欧覇権」,そして現代史の起点としてのWW1になる。それぞれから1・2つ選んでいったのがこの5つ,と一応考えた。それぞれの理由に軽く触れておく。

1.張騫の西域行:「世界の一体化」の起点は,アメリカ大陸やオセアニアの人類には悪いのだが,なんだかんだ言ってもシルクロードであると思う。これにより旧大陸の大部分は横断的につながる。また,これが”横断的”であったことによってアメリカ大陸の諸文明との大きな違いが生まれた点は『銃・病原菌・鉄』で指摘がされている通りだ。なぜ「オアシスの道」が生じたかを考えたとき,もしくはなぜ紀元前3〜2世紀頃から活発になったかを考えた時,理由は様々にあるが(遊牧民の勃興・前漢やローマの成立等),偶発性が高く,かつ決定的な一打になった現象というとアレクサンドロス大王の東征か,張騫の西域行であったと思う。そこでなぜアレクサンドロスを落としたかというと,残りの4つのうち3つが西洋の出来事でバランスが悪かったというのが本音である。あとは,張騫のほうが時系列的に後なのでより開通させたというインパクトが強いというのと,3つめにコロンブスを挙げているので探検でそろえようかなという気持ちが無かったわけではない。

2.モンゴル帝国の成立(パックス=モンゴリカ):古代・中世を通して成立した諸世界は,相互に経済的・文化的に交流しつつも,独自の世界を保って融合しようとはしなかった。それを打ち崩して「一体化」を始めさせたのはやはりモンゴル人の偉業であろう。あえてチンギスと絞らなかったのは,実際のところ彼の一代ではあまり草原地帯からはみ出しておらず,本格的な農耕地帯への侵攻はオゴタイの代になるからである。とはいえ,オゴタイに絞ると今度はインパクトに欠けるので,大枠で取ってモンゴル帝国の成立で一つの出来事という扱いにしてみた。

3.コロンブスの大西洋横断:要するに大航海時代が世界の一体化が急速に進むことになる決定的な一打であったから,それを象徴する出来事を一つ入れておきたかった。その中で最もインパクトが強く,しかも極めて偶発的な現象であったものといえば,コロンブスになる点は異論があるまい。これはまた西欧中心の国際経済が勃興していく契機でもあり,ひいては産業革命の布石にもなった。ゆえに産業革命を間引いたという事情はある。また,産業革命は「なぜ中国で起きなかったのかは世界史上の謎の一つ」と言われる程度には必然性の高い出来事のように思わえたので,外したという話もある。

4.フランス革命orアメリカ独立:この2つは正直に言えばどちらでもよかったし,異論も出ない出来事だと思う。まとめて大西洋革命としても良かったが,名誉革命まで含むのはなんとなく違う気がした。西欧が決定的に世界の覇権を握る地域になっていったのは,産業革命及び,自由主義とナショナリズムの発明であろう。産業革命については前述の通り。しいて言えば,フランス革命も必然的な出来事だったのではないかという話は若干なりあるが,革命が失敗した世界線やルイ16世が財政改革に成功した世界線も全くないでは無さそうに思えたので,私は条件を満たしているものと考えた。この辺りも,人によって大きく判断が異なるところになるのではないか。

そして「長い19世紀」の残りの事象は,おおよそレールの上を走っていたように見える。いつ破裂するかわからない風船が膨らみ続けていたようなもので,膨らむ事自体は産業革命とフランス革命が起きた時点で必然だったのではないか。

5.サラエボ事件:で,その風船が破裂したタイミングがこれだろう,と。偶発性の高さは他の4つに引けをとらない。あの銃声が無ければ風船が破裂したタイミングも場所も,全く異なっていた可能性は高いし,そうするとWW1の過程や結果も大きく異なっていただろう。ロシア革命が生じなかったりすると,もう現代史は現実のものと全く異なる展開となる。冷戦まで含めれば直近100年が変わってしまった事件として外すことができない。


これはいろんな人の意見を聞いてみたいところで。私の条件に乗っかって回答してくれてもおもしろいし,「自分は問いの別の読解をしたので,違う条件を設定した」というのでも,その回答を見てみたい。乗ってくれる方がおられれば是非に。


この記事へのトラックバックURL