2013年05月26日

大関陣奮起

久々に内容と熱い優勝争いの双方が伴った場所であったと思う。自分の中では13日目まで上の中であったが,最後二日で少々微妙な展開が細部で見られ,上の下に下がったがそれでも十分に評価できる。自ブログを検索してみたところ,前に上の下より上の評価を下したのは2012年の初場所らしいので,1年以上「上」の場所がなかったことになる。これは悲しい。

優勝争いは早々に上位陣に絞られ,中位・下位のダークホース候補が早々に消滅した点で少し珍しかった。把瑠都と琴欧洲を除いた上位陣が揃って好調で,その煽りを受けて関脇以下前頭4枚目あたりまでの勝ち星が壊滅してしまったが(勝ち越しが妙義龍のみ),これが良い緊張感を生んでいたと思う。連日の強敵という意識になるか,強敵難敵の間にボーナスゲームがあると捉えられるかで大きく変わってくる。今場所は前者であった。鶴竜と稀勢の里は大関以上にしか星を落としておらず,日馬富士も終わってみれば取りこぼしは栃煌山だけ,琴奨菊も豪栄道戦くらいなものである。それだけに,この日馬富士と琴奨菊の両方を破っている妙義龍に殊勲賞が行かないのは納得がいかない。技能賞では安い。

そうして10日目の段階で上位5人が残り,11日目に琴奨菊が脱落,12日目に日馬富士が脱落,13日目に鶴竜が脱落して,14日目に全勝の稀勢の里と白鵬の直接対決となった。この取組が事実上の今場所の優勝決定戦であった。その取組は一言で言えば画竜点睛を欠くもので,悪くはないし盛り上がったが文句が全くないわけではなく,かと言って文句を言えば盛り上がっている界隈に水を差しかねず,という具合であった。要するに,白鵬の張り差しである。というよりも,張り差しで稀勢の里の勢いを殺し,実質的に変化するような形で左上手を取った。白鵬必勝法が左上手をとらせないことなのだから,この時点で大勢は決してしまっている。この大一番にそれは無いだろと思わなくもないものの,自分なりに二点で擁護しておく。まず,白鵬は張り差しを常習的に使っていたが,今場所は稀勢の里戦の伏線として中盤戦使用を控えていたこと。だからこそあの場面での張り差しは意外性があり,極めて有効であった。この点,15日間を戦い抜く術を知り尽くした横綱らしい戦術ではある。もう一点は,張り差しに威力がありすぎて稀勢の里の動きが一瞬完全に止まったがゆえに,白鵬は半ば変化気味の左上手を取りに行く立ち合いになってしまったのではないか,という点。稀勢の里がもう少し踏ん張っていれば,白鵬は左に動かず,正面から上手を探りに行かざるを得なかったであろう。

そして千秋楽,稀勢の里が琴奨菊に勝ち,白鵬が日馬富士に負ければ決定戦,それ以外なら白鵬の優勝という状況で,稀勢の里があっさりと負けて白鵬は取組の前に優勝を決めた。さらに白鵬は日馬富士に完勝し,二場所全勝優勝である。これは超メモリアル優勝なので,記録を列挙しておく。

・白鵬自身の持つ最多記録を塗り替える10回目の全勝優勝。
・大相撲史上通算100回目となる全勝優勝。
・外国人横綱としては朝青龍と並んで最多タイとなる25回目の優勝。
・自身4度目の30連勝。これも大鵬と並んで最多タイ。

なんかもう,白鵬は記録の塊になってきた。ついでにこれに付け加えると,白鵬は今場所までで横綱通算471勝で,これは歴代4位にあたる。この上には大鵬・北の湖・千代の富士しかおらず,この3人は600勝超えなので当分この話題は出まい。



個別評。まず白鵬は決して好調ではなかった。不調のバロメーターであるとったりが見られ,少し慌てるような場面もなくはなかった。が,にもかかわらず全勝優勝してしまうあたり,地力が抜群というほかない。ただし,今場所に限って言えばどっしりとるというよりも,朝青龍的な当意即妙な返し技でなんとかしてしまう場面が見られ,ある意味では「老獪」になったと言えるかもしれない。白鵬の良さはやはり王道の横綱相撲にあると思うので,あえて厳しい注文をつけるとすると型を元に戻してきてほしいところである。日馬富士は9勝にならなかっただけマシ,とだけ。

大関陣。まずは稀勢の里であろう。彼の三大弱点:精神の脆さ,腋の甘さ,腰高が場所中長らく解消され,これはいよいよ本気で覚醒したかと思われた。それが千秋楽の一日だけ戻ってしまったのは残念至極であるが,14日間弱点なく取り切ったところは素直に褒めて良い。白鵬戦は力負けというか,前述の通り白鵬の作戦勝ちであろう。ここは優勝争いの経験の差が出たのではないか。来場所,三大弱点がどうなっているか,注目である。鶴竜は終わってみれば10−5ながら,優勝戦線に長らく残ったこと,負けたのは全て大関以上であることは評価されてよい。本人の言うように,精神的な落ち着きがあり,安心して見ていられた。一方で負けた相撲を見ると力負けであり,伸びしろ的な不安も大いにある。実は琴奨菊も以下同文で,今のところ二人とも実力で二桁勝っているからいいものの,将来的に魁皇と千代大海にならないかは不安である。


三役……は壊滅していて何も言うことが。豪栄道は持ち前のセンスでなんとかなる場面もあればならなかった場面もあり,いい加減それに頼らず安定して勝て,と言いたい。この際だからばっさり言うが,はたき込みとすくい投げと首投げじゃ大関にゃなれん。把瑠都は膝に負担をかけない勝ち方をしよう,ほんとに。隠岐の海はせせこましく取ってないで,旭天鵬を真似た取組をしたほうが成績が上がるのではないか。もろ差しに言って自分の腰が高くなり寄り負ける展開が多すぎる。栃煌山には本当に掛ける言葉がない。

前頭上位。壊滅状態に近いが,唯一の光が妙義龍である。妙義龍は豪栄道的なとっさの相撲センスには欠けるものの,代わりに立ち合いの絶妙さが身についてきており,今後これが大きな武器になるかもしれない。次の大関最有力な豪栄道,栃煌山が伸び悩む中で明確に見える成長,安定した成績と好材料が多い。ただ大関になるにはあと一つ何かが欲しいというか,じゃないと琴欧洲の陥落待ちになってしまいかねない。残りの勝ち越しは松鳳山と高安だが,高安は印象が全くない。松鳳山はつっぱりが小気味良く引き続き好感が持てる。

前頭中位。富士東は6場所連続の勝ち越しだそうで,見ていてもそれなりに馬力が強く他の押し相撲力士との取組はなかなかおもしろい。佐田の富士は一発の突きが重いが回転は悪いのでかいくぐって組まれやすく,そのなかではうまくとっているように見えた。時天空は不思議と10勝しているが,なんと足技の決め技が無い。一応二日目に内掛けで崩してから寄り切っているがそれくらいである。無理に足技にいかないほうがよかったりして。勢は抱きつく展開が多いことがネット上でネタにされていた。今場所はその印象しかない。千代大龍は二桁ながらそんなに印象がない。来場所かなり番付が上がりそうだが,不安しかない。

前頭下位。舛ノ山は毎回死にそうになりながらも7−8で負け越し。これほど見ていて応援したくなる力士もそういまい。最近スタミナ切れを狙った取組を相手に取られている感はあり,それをどう打破していくかが課題。魁聖は鈍重な動きから脱却できていない。今場所は8−7だが,低迷が長くなりそう。千代の国は相撲にはそれほど印象がないが,「チヨスランド」という渾名が定着していて笑ったのでそのことを記録しておく。それにしても「負けたら閉園」はすごい。誉富士は馬力があるが,負けた相撲は脆い。両極端という点ではおもしろく,もう少し見ていたかったが5−10と負け越しの幅がひどく,次いつ幕内で見れるかわからない状況である。



予想番付であるが,東関脇は妙義龍としても,あまりの三役・前頭上位陣の壊滅っぷりに「西関脇」にすっと入れる人物がおらず,実際の編成も極めて難航するのではないかと思う。時天空or豪風をミラクルジャンプアップで新関脇にするか,豪栄道を半枚下げて事実上残留させるか,の3つくらいしか手が無さそう。時天空は10−5ながら前頭8枚目,豪風は前頭6枚目ながら8−7で,どちらも大きく星が足りないのである。その他も席が苦しい番付が多く,今場所はかなり意見が分かれるのではないか。

2013年五月場所

この記事へのコメント
優勝争いで終盤まで盛り上がった楽しい場所でした。日馬富士が早々に敗れた日に見に行きましたが、終盤まで1敗のまま食いついていってくれればとそこが残念でした。横綱白鵬の全勝優勝はお見事。

把瑠都はまた怪我に泣いて、常幸龍も怪我から回復できなかったのが辛く、せめて安美錦の技巧のいくらかでも盗み取れたら……。
舛ノ山は、本当に短期決戦の武器があれば、あと1つ勝てていれば。千代鳳は引かれても落ちない場面が目立つだけに攻めの場面がもっと見たかったです。またすぐに幕内へ戻って来られると良いのですが。千代の国や勢は上がったり下がっったりしたものの、すっかり幕内定着で安定感が出てきたので、もっと上を目指して欲しいところ。
妙義龍は、大関横綱戦でももしやが期待できる頼もしさが増してきました。豪栄道が足踏みしていると追い抜いてしまうのでしょうか。
稀勢の里は別人か偽者かと見紛うくらいに14日めまではどっしりしていたので来場所にこれが続くと良いですね。

十両に大砂嵐や遠藤が入ってくると、また勝ち越せなかった隆の山が幕内へ戻るのが更に難しくなりそうで、でも新しい顔ぶれは楽しみでもあるのです。
Posted by EN at 2013年05月27日 09:06
今場所もお疲れ様でした。

舛ノ山は,確かにあのハンデなのだから速攻の武器がもう一つ欲しいところですね。押しの圧力は大したもんですが,技には欠けます。先場所あたりには変化や引き技を実践していたようですが,彼の気性にはあってなくて,今場所はやめちゃいましたね。私も,彼に変化は似合わないと思うので,別の武器を身につけて欲しいです。
千代鳳は確かに引かれてもなかなか落ちない足腰は好感が持てます。問題は自分の攻め手ですかね……

妙義龍はまさにそうですね。豪栄道を追い抜いて一番手になるのは現実味を帯びて来ました。来場所も台風の目じゃなかろうかと。

大砂嵐は全勝で当確ですね。遠藤も十両昇進してくると思います。隆の山もあの番付で7−8ならまだ当分十両にはいてくれるでしょうし,十両情勢もおもしろいですね。
Posted by DG-Law at 2013年05月28日 00:59
今場所もお疲れサマー場所。

時間が無くてあまりじっくり見る事も出来ないんですが、今場所はなかなかに上位が安定していて、私の好きな上位焼け野原が見れて嬉しい次第であります(あと下位からの三役ラッキー昇進も)。

その中で唯一頑張った妙義龍ですが、このまま順調なら豪栄道や栃煌山を追い越して先に大関になるんでしょうね。豪栄道に妙義龍並の立ち合いの妙技が身に付けばもっと安定するんでしょうが。あ、栃煌山とフュージョンすれば良いのかw
栃煌戦や松鳳戦も運が良かっただけなので実際もっと負けが込んでてもおかしくなかったのか・・・かと言って8敗で食い止めてるんだから何とも言えませんねぇ・・・。

それはさておき個人的には隠岐の海の場所前の期待感と場所中の失望感のギャップ。そろそろ覚醒して横綱の一人ぐらいは倒すんじゃないかと思ってましたが御覧の有様です。罰として隠岐の島あたりに島流しの刑にしたいぐらいの失望です。

あと千代鳳。まだ魁聖並のもっさり感があるんでスピードに付いていけてないですね。縦の動きには落ちないんで強いんですけども。今のところ舛ノ山の下位互換と言った感じしかしませんが、持久力があるので将来的には舛より伸びるか。その舛ノ山も現状を打破するにはやはり何か武器が欲しい。おっつけからの横攻めあたりでもっと楽に勝てるようになるかもしれま千・・・。

あと予想番付には組み込まれていませんが、来場所から蒼国来が復帰してきます。こちらも注目ですね。幕内に上がると弱い玉飛鳥ぐらいになら勝てるか?w
それとも案外6〜7勝ぐらいするのかな?
Posted by ( д)゜゜ at 2013年05月30日 22:46
>私の好きな上位焼け野原
>あと下位からの三役ラッキー昇進も
あるあるw
今場所は見事な焼け野原でしたね。関脇から前頭3枚めくらいまでほとんど負け越しているので,壮観な風景ではあります。
後者は番付予想やってて楽しい瞬間でもあります。今場所は豪風・時天空・松鳳山あたりが該当するでしょうか。

>妙義龍&豪栄道
妙義龍は,やっぱりそう見ますよね。追い抜いて行ったら豪栄道はともかく,栃煌山の立場がない……
豪栄道は本当に立ち会いの当たり負けが多いので,そこだけと言えばそうなんですが,改善が難しそうです。一方,逆転技は切れがいいですし運もあるので,上位にはずっといるんですよね。いつかはチャンスを掴んでほしいところですね。

>隠岐の海
私は最初からなんとなくエレベーターっぽい雰囲気がしていた気がしたので,そこまで失望感は無いです。が,上位戦でダメだったのに加えて体調も悪そうに見えました。焼け野原の副作用であまり番付落ちそうにないので,来場所に期待しましょう。

>舛ノ山
そうですね。横に動けると短期決戦的にも楽かもしれません。

>蒼国来
どうも張り出しらしいですね。確か除名前がほぼ幕尻に近い番付だったと思います。
多分ちっとも勝てないと思いますが,この場合出ることに意味があるので……
Posted by DG-Law at 2013年06月01日 02:44