2013年06月27日
優雅な貴婦人と一角獣
新美術館の貴婦人と一角獣展に行ってきた。こうした中世ヨーロッパの美術作品が来るのも珍しければ,タペストリーをメインとした展覧会も相当に珍しい。それもこれだけばかでかく,保存状態の良いタペストリーとなると日本に住んでいて見ることはまずない。機会としては貴重この上ない展覧会である。所蔵元はフランス国立クリュニー中世美術館で,これ自体もそこまでメジャーな美術館とは言いがたい。今回の展覧会で知名度が大きく上がったのではないか。
作品点数は約40点だが,《貴婦人と一角獣》6点が,1つ10点分くらいの大きさがあるので,見るのにはむしろ時間がかかった。1時間半くらいは美術館にいたのではないだろうか。休日に行ったというのもあるが,割りと混雑していた。会場に入るといきなりメインの《貴婦人と一角獣》6点が大広間に飾られており,その周囲の身廊で作品の説明や,他の作品が展示されている。
さて,さらっと「中世の作品」と書いてしまったし所蔵元も「クリュニー中世美術館」ではあるのだが,《貴婦人と一角獣》連作タペストリーの制作年代は1500年頃とされている。年代だけ見るとまるっきりルネサンス期である。にもかかわらずタペストリーを見ると,どう見ても確かに中世だ。ルネサンス以後の,迫真性と遠近法に慣れた油彩画か,もしくは20世紀以降のぶっ飛んだ抽象画に見慣れている現代人には,今回の展示で驚いた人もけっこういたのではないか。言ってはなんだが,リアリティの一点だけで言ってしまうと,どうしても拙いのである。油彩画ではなくて面倒な織物という点を考慮しても,やはり拙い。植物はそれほど違和感ないが,人物の表情は読み取りづらく,動物は見るからにパースが取れておらず,ひどいと何の動物かわからない。肝心の一角獣でさえ,作品ごとに角の生えている位置がずれていて,体勢も苦しい。
しかし,これらの形容は事実である一方,批判には当たらない。中世の作品とはそういうものだからだ。中世の作品にリアリティを追求する精神が全く無かったとは言えず,特に最後の国際ゴシック様式まで来ればルネサンスの手前まで来ている。本作も無理やり絵画の様式史に置くなら国際ゴシック期にあたるのだろう。が,結局のところ中世の美術作品の見どころとは「ここ」ではなく,むしろ遠近法にこだわらない,素朴でありながらかつ典雅である表現ではないかと思う。大事なものは大きく描く,大事なのは実際の色ではなくコントラスト,といったように。後者については特に現代芸術の再発見となるわけだが,本作は地が赤と青で非常にわかりやすい。特に重要な部分は青く塗られて(折られて)おり,中でも《我が唯一の望み》の天幕が鮮やかな青色なのは非常に示唆的だ。貴婦人の表情の乏しさも,不思議と優雅さに変換されている。
本作が1500年という制作年代であるにもかかわらず,全く中世的であるのは,一つはフランスであるからだと思う。ルネサンスの先進地はイタリアとネーデルラントであり,この二つの地域は15世紀から十分にルネサンス的であったが,他の地域に広がっていくのはもう少し遅れる。もう一つは本作がタペストリーであるという点で,やはり実験的に芸術表現を行いやすかったのは絵画と彫刻であり,だからこそこの二分野が他に先進したのであろう。タペストリーは大作で一点制作するのに莫大な時間と労力がかかり,下絵があればいいというものでもない。当時であれば技術的な限界もあろうし,絵画から見れば少し時間遅れの表現になるのもやむを得ないのではないか……と思うのだが,私はタペストリーの勉強はしてないし中世美術は専門ではないので,間違ってたらごめんね。
ところで,《貴婦人と一角獣》はガンダムUCに登場する。そのことを知った,普段全く美術館には来ないガノタの友人と行ったのだが,作中に出てきたものまんまだったとのこと。6枚のうち最も重要なもの(今回の画像)が第六感を表すという有力な説,その作品が侍女が「小箱」から宝石を取り出し貴婦人に差し出しているいシーンであること,第六感を表す作品の名前が《我が唯一の望み》でガンダムUC中にも「私の,たった一つの望み……」という台詞がある,注文主が「ル・ヴィスト家」であることなど,ガンダムUC的にピンとくるポイントは多い……らしいのだが,私自身はUCを見ていない。また借りなかったのだが,音声ガイドが池田秀一(シャア・アズナブル)で,ガノタの人は借りると作品がよくわかって一石二鳥かもしれない。お勧めしておく。ついでに言うと,公式カタログにさえガンダムUCの話が出ているそうなので,コラボ具合がすごい。この間の,ダ・ヴィンチ展とチェーザレよりもよほど深く食い込んでいるのでは。
作品点数は約40点だが,《貴婦人と一角獣》6点が,1つ10点分くらいの大きさがあるので,見るのにはむしろ時間がかかった。1時間半くらいは美術館にいたのではないだろうか。休日に行ったというのもあるが,割りと混雑していた。会場に入るといきなりメインの《貴婦人と一角獣》6点が大広間に飾られており,その周囲の身廊で作品の説明や,他の作品が展示されている。
さて,さらっと「中世の作品」と書いてしまったし所蔵元も「クリュニー中世美術館」ではあるのだが,《貴婦人と一角獣》連作タペストリーの制作年代は1500年頃とされている。年代だけ見るとまるっきりルネサンス期である。にもかかわらずタペストリーを見ると,どう見ても確かに中世だ。ルネサンス以後の,迫真性と遠近法に慣れた油彩画か,もしくは20世紀以降のぶっ飛んだ抽象画に見慣れている現代人には,今回の展示で驚いた人もけっこういたのではないか。言ってはなんだが,リアリティの一点だけで言ってしまうと,どうしても拙いのである。油彩画ではなくて面倒な織物という点を考慮しても,やはり拙い。植物はそれほど違和感ないが,人物の表情は読み取りづらく,動物は見るからにパースが取れておらず,ひどいと何の動物かわからない。肝心の一角獣でさえ,作品ごとに角の生えている位置がずれていて,体勢も苦しい。
しかし,これらの形容は事実である一方,批判には当たらない。中世の作品とはそういうものだからだ。中世の作品にリアリティを追求する精神が全く無かったとは言えず,特に最後の国際ゴシック様式まで来ればルネサンスの手前まで来ている。本作も無理やり絵画の様式史に置くなら国際ゴシック期にあたるのだろう。が,結局のところ中世の美術作品の見どころとは「ここ」ではなく,むしろ遠近法にこだわらない,素朴でありながらかつ典雅である表現ではないかと思う。大事なものは大きく描く,大事なのは実際の色ではなくコントラスト,といったように。後者については特に現代芸術の再発見となるわけだが,本作は地が赤と青で非常にわかりやすい。特に重要な部分は青く塗られて(折られて)おり,中でも《我が唯一の望み》の天幕が鮮やかな青色なのは非常に示唆的だ。貴婦人の表情の乏しさも,不思議と優雅さに変換されている。
本作が1500年という制作年代であるにもかかわらず,全く中世的であるのは,一つはフランスであるからだと思う。ルネサンスの先進地はイタリアとネーデルラントであり,この二つの地域は15世紀から十分にルネサンス的であったが,他の地域に広がっていくのはもう少し遅れる。もう一つは本作がタペストリーであるという点で,やはり実験的に芸術表現を行いやすかったのは絵画と彫刻であり,だからこそこの二分野が他に先進したのであろう。タペストリーは大作で一点制作するのに莫大な時間と労力がかかり,下絵があればいいというものでもない。当時であれば技術的な限界もあろうし,絵画から見れば少し時間遅れの表現になるのもやむを得ないのではないか……と思うのだが,私はタペストリーの勉強はしてないし中世美術は専門ではないので,間違ってたらごめんね。
ところで,《貴婦人と一角獣》はガンダムUCに登場する。そのことを知った,普段全く美術館には来ないガノタの友人と行ったのだが,作中に出てきたものまんまだったとのこと。6枚のうち最も重要なもの(今回の画像)が第六感を表すという有力な説,その作品が侍女が「小箱」から宝石を取り出し貴婦人に差し出しているいシーンであること,第六感を表す作品の名前が《我が唯一の望み》でガンダムUC中にも「私の,たった一つの望み……」という台詞がある,注文主が「ル・ヴィスト家」であることなど,ガンダムUC的にピンとくるポイントは多い……らしいのだが,私自身はUCを見ていない。また借りなかったのだが,音声ガイドが池田秀一(シャア・アズナブル)で,ガノタの人は借りると作品がよくわかって一石二鳥かもしれない。お勧めしておく。ついでに言うと,公式カタログにさえガンダムUCの話が出ているそうなので,コラボ具合がすごい。この間の,ダ・ヴィンチ展とチェーザレよりもよほど深く食い込んでいるのでは。
Posted by dg_law at 19:00│Comments(0)│