2013年08月04日

るろ剣の実写版についての短評

この間の金曜ロードショーでるろ剣の実写版が流れていたので,見たわけだが,あれはひどかった。「実写版にしてはがんばってた」という世評を聞いていたので,期待しすぎず警戒しすぎず見ていたのだが,個人的にはちょっと擁護できない。短く書くつもりがちょっと長くなったので,独立した記事にしておく。

ストーリー面については,基本的に論評を避けたい。テレビ放映版ではかなりカットされていたそうなので,言及してもしょうがなかろう。設定がばっさり変わっていたが,四乃森蒼紫をいないことにしつつ,鵜堂刃衛を観柳編のラスボスに据え,ついでに偽人斬り抜刀斎を名乗らせることで原作1話の展開も消化。そうして見ると,まずまず原作単行本1〜4巻を再構成したのではないか。左之助の登場だけどうにも不自然だったけど,まあそれくらいは。


問題は徹底的に殺陣である。あれは飛天御剣流ではない。ただの殺陣である上に,ただの殺陣としてもおもしろくなかった。まず,飛天御剣流は一対多に特化したため,読みの早さと最小限の動きで最速最多殺を目指す剣術である。だから,原作の剣心は一振りで三人倒す,避けつつ切り返す,移動しつつ切る等,特に雑魚を散らすときは効率の良い動き方をしている。そこへ行くと実写版は,殺陣としては派手だったけど無駄な動きが多すぎた。一振りで三人倒すどころか一人倒すのに何度も切りかかっているし,避けるだけで攻撃は別アクション,避けてる間に相手にイニシアチブをとられる,敵前で無駄に走り回るという……特に一撃で倒せてないのはひどい。「逆刃刀でない限り確実に惨殺する剣術」じゃなかったんですかね。

加えて体術を使い過ぎである。原作の剣心が徒手空拳に頼ったのは,蒼紫の小太刀を白刃取りしたときくらいである。剣心は細身なので体術使用は向かない。この辺,師匠の比古清十郎,ライバルの蒼紫や斎藤一が体術(拳法)にもたけているのとは対照的だ。そういう設定がきちんとあるのだから,それを活かして欲しかったところだ。

ワイヤーアクションで飛び跳ねてるから飛天御剣流っぽいじゃん,ということに関しても同様のことが言える。剣心が飛び跳ねるのは主に龍槌閃や龍翔閃など,雑魚ではない相手を倒すための一撃必殺のため。もしくは間合いを取って仕切りなおすためであって,無駄な飛翔は少ない。ついでに言えばワイヤーアクションの出来自体良くなかったですよね。飛天御剣流じゃないけど,なんですかあの対空式の牙突は。あまりのひどさに呆然としてしまった。言及しちゃったので書くけど,牙突も間違っていた。劇場版では飛び立つ時点で左の刀を突き出し,そのままワイヤーで引っ張っていたが,原作の牙突は刀を持たない右手を前に構えたままの状態で突進し,相手の間合いに入ったところで左手の刀を突き出す。右手は照準をあわせる・間合いを量る,かつ反動をつけて威力を高めるためにそうしているのであり,直前に引っ込めるのでなければ意味が無い。ちゃんと構えの意味をわかってて殺陣作ったんですかね。

「原作」の飛天御剣流と「劇場版」の飛天御剣流は別物だとかいう反論は全く意味が無い。そもそも原作の飛天御剣流でなければ『るろうに剣心』である必要がない。劇場版のような殺陣がやりたかったのであれば,『るろ剣』を名乗らずにやればよかったのである。もう一つ,「逆刃刀でも打ちどころが悪かったら死ぬだろ。だったら体術のほうが不殺守りやすいんじゃね」という類の反論については,そういうのは15年前に戻って原作に対してするべきで今するものじゃないだろと。「原作の飛天御剣流を再現しても,絵にならないのでは」という意見については,唯一一考の余地があるものの,私は絵になったと思う。少なくとも私は飛天御剣流が見たかったのであって,ワイヤーアクションが時々入るただの殺陣を見たかったわけではないのである。


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