2013年09月08日
第225回『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル著,鬼澤忍訳,早川書房(ハヤカワ文庫)
今更?そう今更である。一応読み終わったので書くだけ書いておく。説明不要の一世を風靡した本書だが,平易な哲学思想の紹介である。現代社会において普遍的に論点になりそうなポイントをピックアップし,それに対して解答を出せそうな哲学者の思想を説明していくスタイルで,先に論点が来るところに特徴がある。それゆえに主要な全哲学者の思想を紹介していない,というよりもベンサム,J・S・ミル,リバタリアン,カント,ロールズ,アリストテレス,そして自らの属する共同体主義の6種類しか,基本的には紹介していない。順番もこの順番で,要するに時代順には全くなっていない。取り上げられている諸問題は,「忠誠心は金で買えるか(外国人傭兵について)」「代理出産の是非」「自殺幇助」「アファーマティブ・アクション」等。
説明は本当に巧みで,紹介された思想については,論点からスタートして乖離せず,根本的な部分まで説明しつつちゃんと論点に戻ってくる,ということをやっている。このスタイルをとる概説書だと,これがなかなか難しい。論点から旅立って一度根本思想にたどり着くと,そのままどっかに飛んでいって論点に戻ってこないことがしばしばあるからだ。時代順になっておらず,思想史には一切触れていないのも,哲学思想の普遍性を強調する上ではむしろ効果的であった。哲学にある程度親しい人なら問題ないが,全く知らない人からすれば「なんで2300年前に生まれた思想が,現代社会の論点を考える上で役立つの?」ということにはなるだろう。また,そのくらいの初心者なら「哲学思想ってこんなにラディカルなんだ」と思わせられる点でも新鮮かもしれない。そして本書はそのラディカルさが,現代社会の諸問題の解決においていい切れ味を見せていることを紹介するのがとてもうまい。なるほど良書である。
トップに功利主義が来て,「功利主義は強いが人間性に欠く」という批判からリバタリアン,カントとロールズが出てきて,別の観点からの批判としてアリストテレスが呼ばれ,最後にちゃぶ台をひっくり返して自らの共同体主義が出てくる。こうして書くと共同体主義の売り込みのようにも見えるが,実際のところ共同体主義は最後の最後で少し紹介されるだけであまり出てこない。まさに自らの思想の売り込みと思われるのを避けたのではないか。また,基本的に功利主義に反論する形で他の哲学者を紹介して進んでいくので,功利主義は中盤以降サンドバック状態であった。これはアメリカで功利主義が根強いのが原因らしい。私個人としてはまず共同体主義,次点で功利主義に親和性が高いので,なんとも複雑な気分になる構成の本であった。(要するに私は保守主義なので,中立性・絶対的な正義の法則を否定する共同体主義は親和性が高い。相対主義やコミュニティの抑圧には反発しつつも,コミュニティの持つ道徳的重みも認めていく路線は賛同するし魅力的だが,バランスが難しい。むしろそのバランスをとるには熟慮・熟議をとるほかなく,それは保守主義なのではないかと。余談ですが。)
自分としては復習がてら読んだところが強いが,その上で改めてカントの思想とは絶望的にそりが合わないのが確認できたのが最大の収穫であった。人間の尊厳を認めること自体はいいのだが,カントの「理性は全ての人間に普遍的に同質=道徳法則も普遍的」にはまるで賛同できない,というところで。
説明は本当に巧みで,紹介された思想については,論点からスタートして乖離せず,根本的な部分まで説明しつつちゃんと論点に戻ってくる,ということをやっている。このスタイルをとる概説書だと,これがなかなか難しい。論点から旅立って一度根本思想にたどり着くと,そのままどっかに飛んでいって論点に戻ってこないことがしばしばあるからだ。時代順になっておらず,思想史には一切触れていないのも,哲学思想の普遍性を強調する上ではむしろ効果的であった。哲学にある程度親しい人なら問題ないが,全く知らない人からすれば「なんで2300年前に生まれた思想が,現代社会の論点を考える上で役立つの?」ということにはなるだろう。また,そのくらいの初心者なら「哲学思想ってこんなにラディカルなんだ」と思わせられる点でも新鮮かもしれない。そして本書はそのラディカルさが,現代社会の諸問題の解決においていい切れ味を見せていることを紹介するのがとてもうまい。なるほど良書である。
トップに功利主義が来て,「功利主義は強いが人間性に欠く」という批判からリバタリアン,カントとロールズが出てきて,別の観点からの批判としてアリストテレスが呼ばれ,最後にちゃぶ台をひっくり返して自らの共同体主義が出てくる。こうして書くと共同体主義の売り込みのようにも見えるが,実際のところ共同体主義は最後の最後で少し紹介されるだけであまり出てこない。まさに自らの思想の売り込みと思われるのを避けたのではないか。また,基本的に功利主義に反論する形で他の哲学者を紹介して進んでいくので,功利主義は中盤以降サンドバック状態であった。これはアメリカで功利主義が根強いのが原因らしい。私個人としてはまず共同体主義,次点で功利主義に親和性が高いので,なんとも複雑な気分になる構成の本であった。(要するに私は保守主義なので,中立性・絶対的な正義の法則を否定する共同体主義は親和性が高い。相対主義やコミュニティの抑圧には反発しつつも,コミュニティの持つ道徳的重みも認めていく路線は賛同するし魅力的だが,バランスが難しい。むしろそのバランスをとるには熟慮・熟議をとるほかなく,それは保守主義なのではないかと。余談ですが。)
自分としては復習がてら読んだところが強いが,その上で改めてカントの思想とは絶望的にそりが合わないのが確認できたのが最大の収穫であった。人間の尊厳を認めること自体はいいのだが,カントの「理性は全ての人間に普遍的に同質=道徳法則も普遍的」にはまるで賛同できない,というところで。
Posted by dg_law at 23:14│Comments(0)│