2013年10月19日
アメイジング・グレイス(Amazing Grace)
ウィルバーフォースを主人公とした史劇の映画である。1782年から1807年の25年間に,ウィルバーフォースが行った奴隷貿易廃止運動を描く。イギリスの奴隷貿易廃止200年を記念して制作されたイギリス映画である。名曲『アメイジング・グレイス』は,奴隷船の元船長が改悛して作詞した歌詞が元になっており,作中でもウィルバーフォース本人が歌うなどしばしば引用されている。
題材からして勝っているような作品ではあるが,映画としての出来は手放しで賞賛できるものではないかと思う。フィルバーフォースの活動に焦点を当てた映画,というよりはその一点しか描いていないと言ったほうが正しい。映画の主眼はあくまでそこだけであった。ウィルバーフォースが政治の道に進むか聖職者になるか悩んだり,運動がうまく行かずに悩み苦しんでいる様子や,結婚してそこから立ち直る様子などが,最も時間を費やされていた。本作は徹底して奴隷制廃止についての映画ではなく,「ウィルバーフォース」という信念を貫き通した政治家の人生を描いた映画だったと言える。ここを勘違いして見ると肩透かしを食らうと思うし,私も食らった。
結果として本作は非常に地味な映画となっており,それ自体を批判するのは少々気が引ける。しかし,やはり「一人の男の人生を描く」には奴隷制廃止はテーマが重すぎたのではないかという違和感は,視聴している間終始拭えなかった。奴隷制の悲惨さを訴えるには,本作が映像作品であるにしては映像的な弱さが目立つ。奴隷がいためつけられているような映像は,長くは挿入されない。タイトルに使われたアメイジング・グレイスの制作秘話的な話があるかというと,その話はすぐに片付けられ,歌われるのもウィルバーフォースが1回だけで,これも序盤の場面である。重要なシーンで効果的に歌が使われているとは言いがたい。議会での巧みなやりとり・策謀が焦点かというとこれも中途半端で,無いわけではなかったが,主眼というほどではなかった。あくまで,ウィルバーフォースの人生を追った映画である。このことは理解した上で,ご視聴いただきたい。
それはそれとして,奴隷解放というとアメリカの南北戦争とリンカーンのイメージがあまりにも強く,イギリスはというと世界史をちゃんとやった人じゃないと知らないかもしれない。この映画の感想をいくつか読んでみると,けっこうな数の人が「南北戦争の60年も前にこんなことがあったなんて」ということに驚いており,その啓蒙・普及がなされただけでも本作が日本で公開された意義があったと言えるかもしれない。ちなみにフランスはフランス革命時に一度廃止されたがすぐに復活,完全廃止は1848年(二月革命)のこと。イギリスは最大の奴隷貿易国であった一方,廃止も早かった。また,イギリスが廃止に踏みきれた裏の事情として,経済の主力が奴隷と砂糖から,産業革命による工業製品(綿布)に変わりつつある時期であったことは映画に描かれなかったが指摘しておきたい。
ちなみに,1807年の段階では奴隷貿易が廃止されただけであり,その後もウィルバーフォースの活動は続いた。奴隷制度そのものの廃止は,貿易の廃止からさらに約25年かかり,1833年のこと。ウィルバーフォースはこの廃止がなされた直後に亡くなっており,映画の中の「彼は活動を通して若さと健康を失った」という言葉通り,彼の奴隷制廃止運動は障害を賭した仕事だったと言える。
題材からして勝っているような作品ではあるが,映画としての出来は手放しで賞賛できるものではないかと思う。フィルバーフォースの活動に焦点を当てた映画,というよりはその一点しか描いていないと言ったほうが正しい。映画の主眼はあくまでそこだけであった。ウィルバーフォースが政治の道に進むか聖職者になるか悩んだり,運動がうまく行かずに悩み苦しんでいる様子や,結婚してそこから立ち直る様子などが,最も時間を費やされていた。本作は徹底して奴隷制廃止についての映画ではなく,「ウィルバーフォース」という信念を貫き通した政治家の人生を描いた映画だったと言える。ここを勘違いして見ると肩透かしを食らうと思うし,私も食らった。
結果として本作は非常に地味な映画となっており,それ自体を批判するのは少々気が引ける。しかし,やはり「一人の男の人生を描く」には奴隷制廃止はテーマが重すぎたのではないかという違和感は,視聴している間終始拭えなかった。奴隷制の悲惨さを訴えるには,本作が映像作品であるにしては映像的な弱さが目立つ。奴隷がいためつけられているような映像は,長くは挿入されない。タイトルに使われたアメイジング・グレイスの制作秘話的な話があるかというと,その話はすぐに片付けられ,歌われるのもウィルバーフォースが1回だけで,これも序盤の場面である。重要なシーンで効果的に歌が使われているとは言いがたい。議会での巧みなやりとり・策謀が焦点かというとこれも中途半端で,無いわけではなかったが,主眼というほどではなかった。あくまで,ウィルバーフォースの人生を追った映画である。このことは理解した上で,ご視聴いただきたい。
それはそれとして,奴隷解放というとアメリカの南北戦争とリンカーンのイメージがあまりにも強く,イギリスはというと世界史をちゃんとやった人じゃないと知らないかもしれない。この映画の感想をいくつか読んでみると,けっこうな数の人が「南北戦争の60年も前にこんなことがあったなんて」ということに驚いており,その啓蒙・普及がなされただけでも本作が日本で公開された意義があったと言えるかもしれない。ちなみにフランスはフランス革命時に一度廃止されたがすぐに復活,完全廃止は1848年(二月革命)のこと。イギリスは最大の奴隷貿易国であった一方,廃止も早かった。また,イギリスが廃止に踏みきれた裏の事情として,経済の主力が奴隷と砂糖から,産業革命による工業製品(綿布)に変わりつつある時期であったことは映画に描かれなかったが指摘しておきたい。
ちなみに,1807年の段階では奴隷貿易が廃止されただけであり,その後もウィルバーフォースの活動は続いた。奴隷制度そのものの廃止は,貿易の廃止からさらに約25年かかり,1833年のこと。ウィルバーフォースはこの廃止がなされた直後に亡くなっており,映画の中の「彼は活動を通して若さと健康を失った」という言葉通り,彼の奴隷制廃止運動は障害を賭した仕事だったと言える。
Posted by dg_law at 22:05│Comments(0)│