2013年10月21日
4Kテレビとミケランジェロ
西美のミケランジェロ展に行ってきた。展覧会の内容は「いつもの西美」で,素描多めである。というよりもミケランジェロの真筆に限ればほぼ全て素描であった。しかもこの素描,ミケランジェロは使った素描をさっさと焼いてしまう癖があったおかげであまりきちっとしたのが残っておらず,「素描の中での最高傑作」と言われるものも展示されていたが,これで?あのミケランジェロの最高?となってしまうレベルのものであった。そうしてみると,謎めいていて妙な陰謀の種になっていて,後世の研究者の頭を悩ませているとはいえ,数はめちゃくちゃ残ってるレオナルド・ダ・ヴィンチのありがたさがよくわかる感じである。
素描よりもむしろおもしろかったのはミケランジェロとその親族やパトロンがかわしていた手紙で,ちゃんと全訳を掲載していたのはすばらしい。手紙の文章量が,送られてきた手紙よりも,ミケランジェロ本人の手紙のほうが圧倒的に少なく,訳文を見てもぶっきらぼうで,非常に彼らしくておもしろかった。特にパトロンの教皇に対して,一応うやうやしく書きつつも「いいから俺の芸術を信じて自由にやらせてくれ」と言っているあたりとか,弟子に対する手紙で「いいから勉強とデゼーニョだ」と書いて送っているあたりは,本当にミケランジェロらしくて良い。親族に対する手紙は,ローマにいるミケランジェロにフィレンツェの食べ物や衣服を送ってもらって感謝している手紙が多く,質素な生活で有名なミケランジェロでも地元の食は嬉しかったんだなぁとなんだか和んだ。
素描・手紙以外の作品は本当に少なく,主だったところではチラシの一面に使用されていた大理石の浮き彫り。《階段の聖母》という,15歳頃の作品である。もう一つが死の前年に彫られた木製のキリストの磔刑像。前者は15歳という年齢を考えるとすごい作品である。後者に関しては,衰えたと言えばいいのか枯れたと言えばいいのか。この頃のミケランジェロは90歳近く,手紙も署名以外は代筆させていたそうなので,握力が無かったのだろう。
ただし,いつもの西美と少し異なったのは,さすがにそれだと集客に不安が残ることを自覚し始めたのか,最新の印刷技術を用いて再現した《最後の審判》の巨大なコピーが展示されていた他,4Kテレビを用いたシスティーナ礼拝堂の撮影映像が紹介されていた。4Kテレビの映像は初めて見たが,確かに驚くほど綺麗で,画面の大きさも手伝って,強烈な臨場感があった。システィーナ礼拝堂に立っているかのような錯覚はあったと言ってよい。ただ,それはそれとして4Kテレビ宣伝必死すぎだろ……という感じが強く,同様の感想は私の周囲の鑑賞者からもちらほら聞かれた。ということは,同じことは相当多くの人に思われているに違いない。ただし,意外にも協賛・後援に家電メーカーは存在せず,関係者というとTBSくらいである。思われているほど宣伝というわけではないのかも。あと,スタッフロールの最後に「監修:小佐野重利」とあり,相変わらずいろんなところに名前出るなあの人,と思った。
これで今年のルネサンス三大巨匠展は全て行ったが,企画としてのすばらしさから言えば,西美ながらちゃんと油彩画多めでそろえていて,ラファエロ自身の作品も良かったラファエロ展が圧勝。素描中心ながら素描自体が割りとおもしろく,キャプションもがんばっていたし,何より「素描中心」であることをちゃんと宣伝していて広告詐欺にはなっていなかった都美のレオナルド・ダ・ヴィンチ展が次点。一番不満が残るのが,「いつもの西美」とはいえあまりにも油彩画がなく,4Kテレビの宣伝現場になっていた今回のミケランジェロ展,ということになる。ミケランジェロもこんな自分とは関係ないところで前者二人に大敗したというのも,天国で悔しがっていそうだ。彼に早めのリベンジの機会を与えてあげてほしいところである。
素描よりもむしろおもしろかったのはミケランジェロとその親族やパトロンがかわしていた手紙で,ちゃんと全訳を掲載していたのはすばらしい。手紙の文章量が,送られてきた手紙よりも,ミケランジェロ本人の手紙のほうが圧倒的に少なく,訳文を見てもぶっきらぼうで,非常に彼らしくておもしろかった。特にパトロンの教皇に対して,一応うやうやしく書きつつも「いいから俺の芸術を信じて自由にやらせてくれ」と言っているあたりとか,弟子に対する手紙で「いいから勉強とデゼーニョだ」と書いて送っているあたりは,本当にミケランジェロらしくて良い。親族に対する手紙は,ローマにいるミケランジェロにフィレンツェの食べ物や衣服を送ってもらって感謝している手紙が多く,質素な生活で有名なミケランジェロでも地元の食は嬉しかったんだなぁとなんだか和んだ。
素描・手紙以外の作品は本当に少なく,主だったところではチラシの一面に使用されていた大理石の浮き彫り。《階段の聖母》という,15歳頃の作品である。もう一つが死の前年に彫られた木製のキリストの磔刑像。前者は15歳という年齢を考えるとすごい作品である。後者に関しては,衰えたと言えばいいのか枯れたと言えばいいのか。この頃のミケランジェロは90歳近く,手紙も署名以外は代筆させていたそうなので,握力が無かったのだろう。
ただし,いつもの西美と少し異なったのは,さすがにそれだと集客に不安が残ることを自覚し始めたのか,最新の印刷技術を用いて再現した《最後の審判》の巨大なコピーが展示されていた他,4Kテレビを用いたシスティーナ礼拝堂の撮影映像が紹介されていた。4Kテレビの映像は初めて見たが,確かに驚くほど綺麗で,画面の大きさも手伝って,強烈な臨場感があった。システィーナ礼拝堂に立っているかのような錯覚はあったと言ってよい。ただ,それはそれとして4Kテレビ宣伝必死すぎだろ……という感じが強く,同様の感想は私の周囲の鑑賞者からもちらほら聞かれた。ということは,同じことは相当多くの人に思われているに違いない。ただし,意外にも協賛・後援に家電メーカーは存在せず,関係者というとTBSくらいである。思われているほど宣伝というわけではないのかも。あと,スタッフロールの最後に「監修:小佐野重利」とあり,相変わらずいろんなところに名前出るなあの人,と思った。
これで今年のルネサンス三大巨匠展は全て行ったが,企画としてのすばらしさから言えば,西美ながらちゃんと油彩画多めでそろえていて,ラファエロ自身の作品も良かったラファエロ展が圧勝。素描中心ながら素描自体が割りとおもしろく,キャプションもがんばっていたし,何より「素描中心」であることをちゃんと宣伝していて広告詐欺にはなっていなかった都美のレオナルド・ダ・ヴィンチ展が次点。一番不満が残るのが,「いつもの西美」とはいえあまりにも油彩画がなく,4Kテレビの宣伝現場になっていた今回のミケランジェロ展,ということになる。ミケランジェロもこんな自分とは関係ないところで前者二人に大敗したというのも,天国で悔しがっていそうだ。彼に早めのリベンジの機会を与えてあげてほしいところである。
Posted by dg_law at 22:00│Comments(0)│