2013年10月22日

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア

とあるニコマス動画に触発されて,15年ぶりくらいに見たくなって借りてきた。

古い映画なのであらすじの紹介はいたるところでされているが,一応書いておく。ある記者がサンフランシスコ在住のインタビューをするという形式で始まる。インタビューされる吸血鬼はルイ。今はサンフランシスコに住んでいるが,以前はニューオーリンズに住んでいた。彼が人間であった最後の年は1791年,当時の現地はスペイン領だが,ルイ自身はそれ以前から植民していたフランス系の,プランターの大富豪であった。妻を亡くして自暴自棄になっていた彼のところに,吸血鬼レスタトがやってくる。レスタトはルイを吸血鬼にしたが,ルイは人間としての良心が忘れられず,吸血鬼としての生活になかなかなじめなかった。そこでレスタトは,ルイの殺し損ねた少女クローディアを,戯れに吸血鬼にする。波乱はそこから始まる。以降のネタバレは本記事の最下段に隠す。


物語のテーマとしては,吸血鬼物としては比較的多いものの中でがんばって描いている部類だと思う。人間の捕食者として,人間を食料としてしか見ないか,そこに何かしらの葛藤が残るのか。アーマンドも言う。「吸血鬼は永遠の命を持っているが,それに耐えられず多くのものは死んでいく。」「享楽的であるだけでは,生きている意味が無い」。しかし,パリの有象無象は置いておくとしても,レスタトにも美学はあったわけで,でなければルイやクローディアを吸血鬼にはするまい。彼は単に享楽的であったのはなく,彼も”新大陸”で変化を求めていたのだ。が,ルイには理解されなかった。クローディアは二人の娘として,レスタトもルイも理解していた。だからこそ,レスタトに従い気の向くままに吸血行為を楽しんだ一方で,自分を吸血鬼にしたレスタトを恨み殺害にまで至った。そして,ルイがアーマンドに惹かれていくと,捨てられる恐怖から仲間を増やそうとした。妙に哲学的で,そもそも厭世的な理由から吸血鬼になったルイよりも,クローディアのほうが人間くさい吸血鬼だったと言えるかもしれない。

ルイを演じるのがブラッド・ピット,先輩吸血鬼レスタトを演じるのがトム・クルーズである。この二人が吸血シーンということでからみあうのだから,まあ耽美的・同性愛的である。ここまではまだ平凡といえば平凡なのだが,ここにクローディアが加わったことで絵面にも捻転が起きる。クローディアは,肉体的な幼さと,大人並みの人生経験,これに大人に対する憧憬が加わり,結果クローディアにとってのルイはパパであると同時に恋人にもなっていく。ルイとクローディアの擬似的な親子関係はそのまま近親相姦的なものに変わり,かつ少女性愛でもある。彼女がレスタトやアーマンドをも含めた三角・四角関係を作り出していくのだから,キーパーソンこの上ない。擬似同性愛・近親相姦・少女性愛・三角関係とこれだけねじれにねじれ,しかも性的情景に近似できる吸血シーンが乱舞するのだから,映像的にはすごいことになっている。にもかかわらず,実は通常の性交シーンが本作には一度もなく,どころか主要人物の身体が半裸になるシーンすら無く,抑制された結果として,余計に吸血シーンのエロさが目立つ結果となっている。この映像作りはすごい。というか,この映像作りのために,これだけ設定をねじくりまわした脚本(原作)がすごい。ゴシック・ホラーの名作である。


インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア [Blu-ray]
トム・クルーズ
ワーナー・ホーム・ビデオ
2010-04-21


あらすじの続き。吸血鬼となったクローディアは,最初こそルイとレスタトをパパと呼び,三人の吸血鬼の生活を満喫していた。しかし30年も経過すると,自分が成長せずに少女のまま,レスタトは自分を都合の良い人形扱いているということ,ルイはいまだもって罪悪感を持っていることに気づく。クローディアは「大人の女性になりたい」と叫び,判断能力のない状態だった自分を吸血鬼にしたレスタトを恨み,殺害計画を立てる。吸血鬼は不老不死だが,「日光」と「死者の血」だけは弱点であった。そこでレスタトを騙して死者の血を飲ませてから斬殺した。そこからレスタトはしぶとく生き返ったりするのだが,二人はなんとか撃退して新大陸を脱出し,渡欧する。ちなみに,クローディアが吸血鬼として成長している30年の間に,ジェファソン大統領がルイジアナを購入し,ニューオーリンズも合衆国に加わっている。

旧大陸でルイは,自らの悩みである人間的理性と吸血鬼的な生の両立を目指して,知恵ある吸血鬼と交流すべく,吸血鬼のコミュニティを探し回った。何十年も探して,結局見つかったのは1870年9月,普仏戦争真っ最中のパリであった。ところで,普仏戦争真っ最中ということは結局全く生かされずに終わったのだが,何か意味があったのだろうか。原作なら仕掛けとかあったのか。さて,やっと吸血鬼のコミュニティを見つけた二人だが,古参の吸血鬼たちは二人の「造り主」がいないことをいぶかしむ。また,子供の吸血鬼は分別がつかないということで危険視されていた。

一方,ルイが探し求めた知恵ある吸血鬼は,パリのコミュニティでさえも一人しかいなかった。しかし,ルイはやっと見つけた400年を生きるアーマンドと交流し,やっと自らの第二の生に理解を深めていく。アーマンドの方もルイに惹かれていく。その矢先である。ルイをアーマンドに取られたと感じたクローディアはある大人の女性を(自らはなれなかった!)吸血鬼に変えてしまうが,それはパリでは掟破りの行為であった。結果,クローディアは日光を無理やり浴びせられ,処刑されてしまう。ルイは復讐としてパリの吸血鬼コミュニティを壊滅させ,アーマンドも決裂し,アメリカに帰った。最後にニューオーリンズでひからびたレスタトと再会し,こちらとも別れて,一人サンフランシスコに暮らすこととなった。ここまで語り終えたルイは,「吸血鬼になりたい」と言いだしたインタビュアーに激昂してから姿を消し,インタビュアーは帰宅中,レスタトに襲われ,望み通り吸血鬼になる……

この記事へのトラックバックURL