2013年12月02日
第229回『エロゲー文化研究概論』宮本直毅著,総合科学出版
エロゲーの歴史をまとめた本。1980年頃からの30年以上の歴史をまとめている大著である。まじめに考えてみると,これだけまとまったエロゲー史の本はこれが初ではないかと思う。
本書の特徴を2点挙げると,まず1980年頃から書き起こしている点。「どこからがエロゲーか」・「どこを起点として歴史を書き起こすかというのは歴史書としてどうしてもつきまとう問題だが,本書は前述の通り,その起源の起源から書き起こしている。ともすれば1990年代半ばから書き起こしたくなるのがエロゲー史だが,本書はPC-88,少しだけではあるがさらにその前のエロゲーから書き始めている(つまり『ナイトライフ』の前)。この頃だと,『ナイトライフ』自体がそうだが現代のエロゲーとは似ても似つかぬものであり,すなわち「エロゲーとはなにか」という定議論に直結する。そこにも当然触れ,「この定義であれば○○が原初」としているところは親切と言えよう。そこから少しずつ時代が進んで,最後には2012年まで到達する。
二つ目の特徴として,歴史書として中庸的と言える。歴史書というと,代表的な事件や人物,文化史ならば作品や作家だけをピックアップして取り上げ,「大きな物語」を抽出してダイナミズムを読者に悟らせるのが一つ。このやり方はわかりやすいし,抽出の仕方がうまければおもしろくなるが,どうがんばっても落ちるものは出てくる。もう一つのやり方は逆に,細かな事項も逐一拾って,とにかく全部書き出す。このやり方はその時代の理解に立体感は出てくる。が,マイナー事項重視になりやすいので,事件別の重要性がつかみづらく,かえってその時代の空気は理解しづらくなる。文化史であれば名作選になってしまいがちで,「で,様式は?」という話にもなり,また紹介作家・作品数の多さから一つ一つは極めて短くなる。一長一短なのだ。
本書は,そのどちらかに偏ることを頑張って避けているところはある。なるべく大きな流れも追いつつ,やや脇道の作品紹介もそれなりにこなして……という。バランスをうまく取っていると思う。作品紹介だけではなく,当時の事件やPCや媒体の進化などにも触れている。宮崎勤の事件や沙織事件,横道への波及としてドラクエ2のあぶない水着や,赤松健の『ラブひな』等にも触れている。用語の解説も適切で,萌え起源論なんかは割と目から鱗だった。なるほど,土萠ほたる説は消える。これは重要な検証だ。あと,みさくら語の解説も傑作で,これほど的確にみさくら語の意味を解説したものはないと思う。
というように高評価を下した上で,あえていくつかケチをつけると,まずそれでも漏れているものがいくつかある。まず,ケロQ諸作品にほとんど触れられておらず,『終ノ空』はクトゥルー神話の特集項目で触れているものの,『二重影』と『素晴らしき日々』は出てこない。前者は伝奇物の傑作として『月姫』時代の象徴だし,後者は哲学系エロゲーの頂点の一つであり,そういうブームが過ぎ去った残滓だと思う。『顔のない月』は館ものとして触れるべきだったと思うし(見落としてたら申し訳ない),ういんどみるは『はぴねす』の準にゃんに触れてほぼ終わりだ。あとBlackcyc(というか和泉万夜・上田メタヲ)もほとんど記述がなかった気がした(例によって見落としてたら申し訳ない)。この辺は書き落としじゃなかろうかと思う。
もう一つは,ほぼ年号順にトピックを並べてはいるものの,あるメーカーやライターが出てきたら,その人の初出作品の年号で全作品を記述したがる傾向があり,部分部分ではぶつ切りで時系列が行ったり来たり,やや煩雑な章立てになっていた。せっかく年号順に章立てされているのだから,一々区切ったほうがむしろわかりやすかったのではないかと思う。それに関連して,ゲームやブランド・ライター名の索引が欲しかった。何分大著であるので,ある作品やライターが話題に出たかどうか,どこのページに書いてあったのか探してページを戻す機会が多かったのだが,索引が無いのでこの作業は困難を極めた。つけてくれれば便利であった。
(追記)
twitterのフォロワーの方が教えてくれたのだが,ネット上に索引があった。別ページをあわせるとゲームタイトル,作家名,ブランド名の索引となっている。これで検索してみたが,上記で漏れていると書いたものはやはり漏れていた模様。しいて言えば,ういんどみるは『ウィッチズガーデン』でもう一度触れられていた。
本書の特徴を2点挙げると,まず1980年頃から書き起こしている点。「どこからがエロゲーか」・「どこを起点として歴史を書き起こすかというのは歴史書としてどうしてもつきまとう問題だが,本書は前述の通り,その起源の起源から書き起こしている。ともすれば1990年代半ばから書き起こしたくなるのがエロゲー史だが,本書はPC-88,少しだけではあるがさらにその前のエロゲーから書き始めている(つまり『ナイトライフ』の前)。この頃だと,『ナイトライフ』自体がそうだが現代のエロゲーとは似ても似つかぬものであり,すなわち「エロゲーとはなにか」という定議論に直結する。そこにも当然触れ,「この定義であれば○○が原初」としているところは親切と言えよう。そこから少しずつ時代が進んで,最後には2012年まで到達する。
二つ目の特徴として,歴史書として中庸的と言える。歴史書というと,代表的な事件や人物,文化史ならば作品や作家だけをピックアップして取り上げ,「大きな物語」を抽出してダイナミズムを読者に悟らせるのが一つ。このやり方はわかりやすいし,抽出の仕方がうまければおもしろくなるが,どうがんばっても落ちるものは出てくる。もう一つのやり方は逆に,細かな事項も逐一拾って,とにかく全部書き出す。このやり方はその時代の理解に立体感は出てくる。が,マイナー事項重視になりやすいので,事件別の重要性がつかみづらく,かえってその時代の空気は理解しづらくなる。文化史であれば名作選になってしまいがちで,「で,様式は?」という話にもなり,また紹介作家・作品数の多さから一つ一つは極めて短くなる。一長一短なのだ。
本書は,そのどちらかに偏ることを頑張って避けているところはある。なるべく大きな流れも追いつつ,やや脇道の作品紹介もそれなりにこなして……という。バランスをうまく取っていると思う。作品紹介だけではなく,当時の事件やPCや媒体の進化などにも触れている。宮崎勤の事件や沙織事件,横道への波及としてドラクエ2のあぶない水着や,赤松健の『ラブひな』等にも触れている。用語の解説も適切で,萌え起源論なんかは割と目から鱗だった。なるほど,土萠ほたる説は消える。これは重要な検証だ。あと,みさくら語の解説も傑作で,これほど的確にみさくら語の意味を解説したものはないと思う。
というように高評価を下した上で,あえていくつかケチをつけると,まずそれでも漏れているものがいくつかある。まず,ケロQ諸作品にほとんど触れられておらず,『終ノ空』はクトゥルー神話の特集項目で触れているものの,『二重影』と『素晴らしき日々』は出てこない。前者は伝奇物の傑作として『月姫』時代の象徴だし,後者は哲学系エロゲーの頂点の一つであり,そういうブームが過ぎ去った残滓だと思う。『顔のない月』は館ものとして触れるべきだったと思うし(見落としてたら申し訳ない),ういんどみるは『はぴねす』の準にゃんに触れてほぼ終わりだ。あとBlackcyc(というか和泉万夜・上田メタヲ)もほとんど記述がなかった気がした(例によって見落としてたら申し訳ない)。この辺は書き落としじゃなかろうかと思う。
もう一つは,ほぼ年号順にトピックを並べてはいるものの,あるメーカーやライターが出てきたら,その人の初出作品の年号で全作品を記述したがる傾向があり,部分部分ではぶつ切りで時系列が行ったり来たり,やや煩雑な章立てになっていた。せっかく年号順に章立てされているのだから,一々区切ったほうがむしろわかりやすかったのではないかと思う。それに関連して,ゲームやブランド・ライター名の索引が欲しかった。何分大著であるので,ある作品やライターが話題に出たかどうか,どこのページに書いてあったのか探してページを戻す機会が多かったのだが,索引が無いのでこの作業は困難を極めた。つけてくれれば便利であった。
(追記)
twitterのフォロワーの方が教えてくれたのだが,ネット上に索引があった。別ページをあわせるとゲームタイトル,作家名,ブランド名の索引となっている。これで検索してみたが,上記で漏れていると書いたものはやはり漏れていた模様。しいて言えば,ういんどみるは『ウィッチズガーデン』でもう一度触れられていた。
Posted by dg_law at 12:00│Comments(4)│
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この記事へのコメント
この手の本からマイナー作が弾かれるのは、まあ仕方ないとわりきれるんですが、発売当時はそれなりに人気があったはずの中の上、上の下ぐらいの作品にまるで触れられなかったりするのは寂しいですね
Posted by ぬ at 2013年12月05日 20:32
本書は,確かに上記のような漏れもいくつかあるんですが,けっこうがんばって拾っている部類だと思います。
それでも漏れが出てくるのは,宿命というか,一人で書いていることの限界じゃなかろうかと。
リンクを張りました索引でけっこう雰囲気がわかるので,見てみてください。
それでも漏れが出てくるのは,宿命というか,一人で書いていることの限界じゃなかろうかと。
リンクを張りました索引でけっこう雰囲気がわかるので,見てみてください。
Posted by DG-Law at 2013年12月06日 00:14
ご丁寧にありがとうございます。
索引にざっと目を通してみて思いましたが、マクロな流れの中で何らかの存在感を示せない作品は、例えヒット作であっても風化するのが早いのでしょうかね。
索引にざっと目を通してみて思いましたが、マクロな流れの中で何らかの存在感を示せない作品は、例えヒット作であっても風化するのが早いのでしょうかね。
Posted by ぬ at 2013年12月07日 01:28
そういう面はあるかと思います。「ヒットした」以外に記述のしようがないと,どうしても。
Posted by DG-Law at 2013年12月07日 18:32