2014年03月08日

メディア芸術祭と伊万里展

色絵花鳥八角大壷新美の文化庁メディア芸術祭と,サントリー美術館の伊万里展に行ってきた。そこ,メディア芸術祭一ヶ月前やろとか言わない。

メディア芸術祭は毎年行っているから行ったが,今年の目玉は有頂天家族のアニメーション部門優秀賞受賞くらいだ。なお,去年はKURATASとか勝手に入るゴミ箱があり,一昨年はまどマギがアニメーション部門大賞,3年前はヒストリエがマンガ部門大賞に四畳半神話大系がアニメーション部門大賞と,何かしら自分が見ているものが受賞していた。2009年以前は行ってないが,今見たら09年はへうげものがマンガ部門優秀賞,08年はピアノの森がマンガ部門大賞とやっぱり何かしら受賞していたようだ。

行った感想としては,やっぱりあれは良いアニメだったなぁと。商業的には報われていないはずなので,せめてこういうところで輝いて欲しいと思う次第である(と,円盤買ってない身で言っても説得力はないが)。前述の通り,『四畳半神話大系』は大賞を受賞しているので,森見作品は強い。確かに全体としてメディア芸術祭受けしそうな題材ではあるが。あと,『エヴァQ』も優秀賞受賞していたが,実はまだ見てない。そういえば『言の葉の庭』もまだ見てないということに気づいた。まとめて近日中には。大賞の作品は……正直よくわからなかったのでノーコメントとしたい。しかし,商業作品とそうでない作品が,一定の基準の下で入り交じるカオスはいかにもメディア芸術祭っぽい。

漫画は,行ってから思い出したのだが,そういえば『ジョジョリオン』が大賞であった。『ジョジョリオン』単体というよりはジョジョシリーズとして認められたような感じがするし,その意味では今更感も無くはないものの,作画的にもテーマ的にも受賞にふさわしかろう。メディア芸術祭は部門別に作品別に与えられる賞が中心だが,それとは別に,個人に与えられる功労賞という枠もある。荒木飛呂彦の場合,この功労賞に近いものがあるのではないか。なお,この功労賞,今年はコミティアの運営が受賞していた。コミケではないところがミソで,やはりオリジナル限定という点で,功労賞の意味合いは重い。ただ,米澤嘉博には死ぬ前に功労賞あげて欲しかったなぁと。そのうちコミケ関係者も受賞できるといいな。


サントリー美術館の伊万里展の方。個人的には金襴手を見に行ったのだが,染付が多めでやや肩透かしであった。ただ,伊万里の歴史を改めてちゃんと追えてよかった。

伊万里の隆盛は,明清の交代による中国の動乱,それに続く清朝の遷界令(極端な海禁政策)により,1640年代から1680年代にかけて,中国からの陶磁器輸出が激減したことによる。オランダ東インド会社が,景徳鎮の代わりとして認めたのが,日本の有田焼だったというわけだ。こうして,1660年頃から有田焼が海外輸出向けの陶磁器生産に特化し始める。本展の展示もこの1660年頃の作例から始まる。この時期の有田焼はまだまだ鍋島焼と大差なく,染付である。その後,輸出が軌道に乗り始めた70年代からカラフルな作品が登場する。いわゆる柿右衛門様式の誕生である。

ところが,1683年の台湾征服(明勢力の壊滅)により極端な海禁政策を取る必要がなくなると,翌84年から清朝は海禁を緩和し,景徳鎮産の陶磁器が再び大量に海外市場で出まわるようになる。こうして,景徳鎮と伊万里の熾烈な競争が始まる。それに伴って有田焼は景徳鎮とは別の特殊進化を遂げるようになる。ヨーロッパの貴族の好みに応じて,派手に・巨大に恐竜的な進化を遂げる。いわゆる金襴手であるが,実は「赤絵に金泥彩色」という意味での金襴手自体は明末の景徳鎮ですでに発明されている。しかし,その巨大さやけばけばしさという点で伊万里の金襴手は完全に別物である。私もそうだが,伊万里というとこの金襴手を想像する人も多かろう。これが,強大な本家との勝負,価格競争ではなく付加価値で勝負,ヨーロッパ貴族の需要に直撃といった事情から出てきたことを考えるにとてもおもしろい。国内向けの鍋島焼は藩の意向により染付で様式的進化が止まったこととは対照的で,有田焼は染付→柿右衛門様式→金襴手と短期間で変化が激しい。

しかし,やはり磁器の本家本元景徳鎮は強く,1730年頃から伊万里は次第に劣勢となる。これには東アジア貿易の拠点を日本に置いていたオランダが衰退し,代わって中国進出を図っていたイギリスが覇権を握ったという事情もある。最終的に1757年を最後に伊万里の輸出は行われなくなった。奇しくも,清朝では乾隆帝が海外貿易を広州一港に限定して中国の海禁が完成した年であり,ヨーロッパでは七年戦争という,イギリスの最終的な勝利と覇権が確定する契機となった戦争が始まった年でもあった。こんなところでも,世界の歴史はつながっている。


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