2014年03月29日

昇進する人,辞める人

史上初の6大関から,これほど急激に情勢が変わるとは,誰が予想していたであろうか。それも,ヨーロッパ人2人が辞め,日本人2人が残り,モンゴル人2人が昇進したのである。特に鶴竜の横綱昇進は最大の予想外であった。鶴竜の今場所の相撲ぶりは個別評で後述するが,見事な綱取りであったと思う。この昇進に文句をつけるやつはおるまい。しいて言えば白鵬・日馬富士が自滅し,鶴竜と当たるときには取組前から万全ではなかった。それも含めて「綱取りは運」なのであるから,鶴竜の綱取りにケチがつく材料というよりは,来場所万全な両横綱との取組が,鶴竜の真価を問うところになるのかなとは思う。

一方,白鵬が自滅した理由が相当にいただけない。白鵬は稀勢の里を目の敵にしすぎであり,明らかに稀勢の里戦で相撲が崩れた。白鵬は3度立ち合いがあわず,組まずに押し出した。そして翌日の琴奨菊戦も立ち合いから調子がおかしく,普段なら楽勝の,しかも手負いの琴奨菊にいい形で寄られ,無理にこらえた挙句右手を負傷するという大惨事である。近年の白鵬は15日間を万全に取り切るだけの体力が残っておらず,終盤に向けて本気度合いを上げていく省エネスタイルである。だからこそ今場所本気を出すのは日馬富士戦と鶴竜戦の2番に絞るべきであって,稀勢の里戦で体力を無駄に浪費した結果があの琴奨菊戦であったのではないかと思う。

対して日馬富士は最後までスタミナが残る分白鵬よりマシであるが,連敗癖があり,ぽろっと負けるともう後がダメである。鶴竜で負けたのは純粋な実力としても,その後豪栄道・琴奨菊と落としたのはいただけない。あれで優勝争いが崩壊したところがあり,白鵬があの体たらくだったからこそ日馬富士が壁になるべきであった。特に豪栄道戦は明らかに集中力を欠いており,他の力士の模範たるべき横綱としてあるまじき相撲ぶりと言ってよい。

琴欧洲の引退については別記事で。全体としては話題先行でやや内容は物足りないところがあり,もうちょっと熱戦が見たかったかなと思う。特に上位陣は鶴竜と豪栄道の活躍に支えられたところがあり,稀勢の里はまだ綱取り失敗の後遺症が残っているようであったし,琴奨菊は本来なら来場所カド番という出来であった。中の下としておく。


個別評。まず鶴竜である。前回「白鵬・日馬富士片方を勝ち星に含んだ14−1での優勝」がハードルと書いたが,見事に両横綱を倒しての14−1であった。それだけに隠岐の海戦の謎の敗北が気にかかるが,それを言うのは野暮であろう。あの敗北で黄信号が灯ったが,よく立ち直ったものだ。今場所は彼のいいところが良く出たのではないかと思う。前さばきのうまさは以前から一級品であったが,今場所はそれを用いた撹乱がうまく効き,気づけば綺麗な四つ身で鶴竜が寄っているという場面が多かった。日馬富士の突き刺さる立ち合いを正面から受け止めて組むのは現状白鵬にしかできない芸当だが,今場所の鶴竜はそれをやってのけた。ただし,十一日目の栃煌山戦に顕著であったが,あわてると引いてのはたきしかしなくなる悪癖は健在で,今後の弱点になりそう。攻めているうちは無敵だが防戦には弱いというと,意外と日馬富士に近いのかもしれない。

その他横綱・大関陣。白鵬は前述の通り。省エネ相撲は配分をミスると脆い。日馬富士はぼちぼちの出来で可も不可もない。琴奨菊はよくあの右肩のケガで勝ち越したなとは思うものの,彼の勝ち越しは鶴竜優勝の副産物である。だいたい全部稀勢の里が原因。その稀勢の里は全く振るわず,某人の「精神的脆さの前に,腰高をなんとかしよう。メンタルの問題じゃなくて,実力不足であることを稀勢の里ファンは認識すべき」という意見に首が折れるほど同意である。

三役。豪栄道は好調であったが,立ち合いさえなんとかできればその後の相撲ぶりは大関級なのは皆知っていることである。今場所は割りと立ち合いがうまくいっていたような感じがするが,偶然か改善されたのかは今ひとつわからなかった。改善されているのであれば,来場所に結果が出るであろう。対して栃煌山は今ひとつ進歩が無いが,特定の相手に極端に強いので,安美錦同様上位にいるだけでおもしろいというところはある。小結の二人は特に何も。

前頭上位陣。遠藤はこんなもんでしょう。欠点は前回と同じで,まだ身体ができあがっていないため,立ち合いの勝負や膂力の勝負に持ち込まれてしまうと脆い。逆に流動性の高い勝負やがっぷりでない四つならすでに幕内上位クラスということを証明した15日間でもあった。来年の春場所くらいには大関取りになっていてもおかしくはない。玉鷲は善戦したが黒星というのが多く,惜しいといえば惜しかったが,ということは単純に家賃が重かったということだ。隠岐の海は合口のいい鶴竜には勝ったが,それ以外ではまるで見るところがなかった。毎場所書いている気がするが,隠岐の海と栃乃若は身体が大きいのにもろ差しにこだわりすぎで体勢を崩している。その両者の対戦で,先にもろ差しを作った栃乃若が,苦し紛れの外四つになったはずの隠岐の海が優勢に寄り切ったのは,象徴的なシーンであった。いい加減なんとかせいよ。周りの親方や力士は何も言わないのか。嘉風敢闘賞だが,正直今ひとつ印象が薄い。豪風のほうが印象に残ってるくらい。

前頭中位……はほとんど書くことがない。妙義龍は前頭10枚目でこんなに苦戦するとは思わなかった。終盤4連勝でひっくり返したものの,11日目までは4−7である。前半は攻めに力がなく足はついていかず,散々な出来であった。尻上がりの傾向は前からあったが,今場所は極端すぎる。

前頭下位。大砂嵐は好調だったのに途中休場があり,残念である。再出場後はやはりただでさえぎこちない相撲ぶりがさらにぎこちなく,見ていられない感じもあった。千秋楽にはようやく相撲ぶりが戻り,なんとか勝ち越せたのは不幸中の幸いである。荒々しいのが魅力ではあるが,やはり相撲を覚えた方が伸びると思う。貴ノ岩の変化に対応した点などを見ると,適応がかなり進んでいるのではないか。舛ノ山は以前よりも死にかかっている場面を見なくなった。心肺機能が鍛えられ,心臓の持病に対抗できているのかもしれない。貴ノ岩は幕尻付近ながら10−5,やっと真価が発揮されてきた。組む力士ではあるが,組まない方が勝てているようにも見える。里山はすっかり研究されてしまい,左下手で入れない,入っても極められて動けないなどの場面が散見された。幕内に残留したいなら,もう一工夫欲しいところである。


十両上位での勝ち越しが少なく,幕尻付近が大渋滞。一応内容・実績等を考慮して埋めてみたが,自信無い。

2014年春場所

この記事へのコメント
鶴竜が白鵬の怪我という運もあって横綱に選ばれた場所でした。1敗するとエンジンがかかるタイプなのか、めげないタイプなのか。
流血の遠藤は、負けても華があって見ていて面白いです。大砂嵐は劣勢だとバタバタするのが大柄外国人力士っぽく、足の怪我が悪化していなければ良いのですが。
豪栄道は何番か目の覚めるような鮮やかな勝ちっぷり。嘉風も今場所は立ち会いの変化があまり見られずに強かった。
舛ノ山は足の怪我ながらギリギリ勝ち越せて良かった。里山は勝つ時は潜って技が冴えて拍手喝采なのですが……。

隆の山が勝ち越しながら十両に入れるかどうかスレスレの所で気になります。逸ノ城は十両でも勝ち越せるでしょう。幕内で楽には勝てていない照ノ富士と巨漢対決が楽しみです。豊真将は十両で対戦する力士が気の毒になるほどの安定ぶりでした。幕内復帰で上位定着するといいですね
Posted by EN at 2014年03月30日 11:06
白鵬のケガを見て,日馬富士が稀勢の里の綱取りのときに「綱取りは運」と言っていたのを思い出しましたね。まさに鶴竜は相撲の神に選ばれたのだと思います。

遠藤はよく流血してましたねw
他の力士もそうですが,一回流血するとなかなか15日間では傷が塞がらないんですよね。
大砂嵐は千秋楽見る限り,足のケガがそう長引かなそうに見えました。彼は千秋楽勝てて本当に良かったです。
里山は本当にそうですね。勝つときは見事なんですが。

隆の山は微妙なラインですね。星が足りないというよりは,十両から落ちてくる人が足りない様子で。隆の山を上げるとしたら大喜鵬を落とすことになりますが,そうなるとやらないかもしれません。
豊真将は良い勝ちっぷりでした。どうせなら全勝優勝して欲しかったところですが。
Posted by DG-Law at 2014年03月31日 08:05