2014年04月09日

江戸絵画における遠近法

小田野直武「不忍池図」サントリー美術館の江戸絵画展に行ってきた。独自進化を遂げたとされている江戸絵画が,実際には西洋や中国美術の影響を大きく受けていたということはすでに広まりつつあるところではあるし,特に西洋については望遠鏡や顕微鏡の影響が大きかったことも指摘されて久しい。しかし,「視覚」にド直球に焦点を当てた展覧会はこれまで不思議と無かったような気がした。いわゆる「その発想はあった」(が誰もやってなかったことに気付いてなかった)というやつである。

それぞれの展示について短く感想を。第1章は線的遠近法の導入による影響。やはり小田野直武・司馬江漢・亜欧堂田善といった面々が中心であった。明治以前の段階でこれだけの油彩画が描かれていたというのは,何度見ても驚きである。今回の画像は小田野直武「不忍池図」。小田野直武は司馬江漢の師匠であり,『解体新書』の挿絵で有名。「絹本油彩」なるいささか見慣れない形式が,ここでは珍しくもなく並んでおりおもしろかった。カンヴァスなんてないし,紙本油彩というのも不便だろうが,よく絹布に油彩が乗ったなぁ,と。浮世絵も多く展示されていた。印象派の画家が浮世絵の独特な遠近感に影響を受けた話はあまりにも有名だが,あれもある種の逆輸入ではある。

第2章が望遠鏡の影響と鳥瞰図。天球図はともかく,世界地図がこの章なのはちょっと無理が。第3章が顕微鏡の影響。いきなり巨大な蚤の絵に出迎えられてびびる。雪の結晶のデザインが出てきたのは幕末なんだなぁと。第4章が博物学の発展。博物学の黎明期は美術作品としての意味も強いのは,東西同じ。しかし展示物が少々物足りなく,どうせなら本草綱目の本物とかが見たかった気もする。

第5章が影絵や鞘絵など,少々特殊な視覚を扱ったもの。歌川国芳の有名な,人間が合体して一つの顔になっている絵もあった。やはりこれはインパクトが強いせいか,今回の一番の押しになっていて,ポスターやフライヤーもこの作品が使われていた。しかし,本展覧会の主旨から言えば第1〜3章で展示された作品の方がふさわしかったのでは,とも。影絵は,ここでは障子越しに移ったシルエットの遊びを指す。歌川広重の独壇場である。鞘絵は,中学あたりの美術の授業で一度は見たことがあるであろう(無かったらごめんなさい),円形に歪んだ絵の真ん中に銀色の棒を立てて,それを通して見るとちゃんとした絵に見えるというアレである。こういうやつ。すごく久しぶりに見たので(それこそ美術の教科書以来で10年単位振りだと思う),非常に懐かしかった。

展示物自体がおもしろく,工夫もあり,キャプションも読みやすかった。普段美術館に行かない人でも,見に行って楽しめるのではないか。


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