2014年05月08日

『たまこラブストーリー』

最初に劇場版のキービジュアルを見た時に「ビジュアルとタイトルから,ストーリーが全く想像できない」と書き,事前情報も「こっ恥ずかしい」「もち蔵ががんばる」ということだけ聞いて見に行った。前情報通りの,実にこっ恥ずかしくなるど直球の青春劇であった。というよりも,「たまこまーけっとでラブストーリーなんてできんの」という意外性を完全に逆手に取られた形であり,できてしまった上にその意外性で90分も引っ張られ,まっとうに感動させられては,参りましたと頭を下げるほかない。

まず,主にTVシリーズを見てない人へ。本作は『たまこまーけっと』というTVシリーズの劇場版であり,その設定とストーリーが下敷きになっている。人によっては「TVシリーズの方は見てなくても大丈夫」というが,私はできれば見てから見に行ったほうがいいと思う。一方,TVシリーズと劇場版では,作品の雰囲気は全く別物なので,TVシリーズがつまらなくても劇場版が楽しめる可能性はある。これは,TVシリーズを見たけどあっちはつまんなかった,ということで劇場版に二の足踏んでいる人にも全く同じことが言える。ぶっちゃけて言えば私の『たまこまーけっと』に対する評価も微妙であった。しかし,「たまこまーけっとでラブストーリーなんてできんの」と思っている人ほど,案外楽しめるのではないかと思う。

じゃあ,何がおもしろかったのかというと,単純に映画としてうまい。脚本も映像も実に丁寧に作ってある。ストーリーは単純に言ってしまえば,進路を決めなくてはならない高校3年生としての成長・変化と,恋愛を経験することによる成長・変化が絡んで話が進んでいくというありがちなものだが,進路の決定と恋心の絡め方が実にうまい。周囲の仲間たちは皆,何かを見つけて変わっていくのである。それに対して,たまこはどうするのか,どうしたいのか。彼女も90分かけて少しずつ変化を受け入れていく。彼女が詰まれば,周囲の変化がそのヒントになる。史織やかんな,何よりもち蔵の行動が,たまこのヒントになる。モノローグ少なく,なるべく映像に任せて進んでいくのでとても心地よい。お餅もバトンも糸電話も,実にいいキーアイテムであった。その他具体的に語るには,とても一度見ただけでは足りない。BD買ってから,メモ取りながらじっくりと観察したい。

さて,主要な登場キャラたちの中で少し立ち位置が違うのがあんことみどりの二人だ。なぜならこの二人,TVシリーズの方で先に話が終わっているから。あんこは高校3年生という点が強調される話の展開上,妹として影から見守っているという立ち位置が多い。しかし,みどりの方は違う。今回のみどりはTVシリーズであったあれやこれやが下敷きになって,狂言回しの役割を与えられているからだ。そう,なぜ彼女が狂言回しなのかが,TVシリーズを見てないと理解できないし,彼女が司会進行だからこそ本作は一層切ないのである。だから,私は見てから行くことを勧めたいのだ。鑑賞者の多くが感想で「みどりちゃんこそ幸せになってほしい」と言うそうだが,さもありなん。


この記事へのトラックバックURL