2014年09月29日

第四にして最強の新鋭

今場所は土俵の内容が高く,特に序盤は熱戦が多かった。終盤はやや失速したように見えたが,単純に全員スタミナ切れとも見える。けが人が多かったのも過熱しすぎたせいと考えると納得できる。優勝争いは逸ノ城の奮闘のおかげで盛り上がったし,実は鶴竜もついていっていたので,あんなもんじゃないだろうかと思う。客の入りもよかった。やや待ったが多かった点以外は全て及第点ではなかろうか。上の下と評しておく。ここ数場所は上の中から中の中で推移しており,九州場所次第だが,全体として内容の濃かった年ということになりそうである。長年の「無気力相撲」脱却政策と,新鋭の浮上がうまく噛み合ったか。

今場所は照ノ富士・遠藤・大砂嵐がまとめて上位挑戦するという場所で,それで盛り上がるかに見えたが,蓋を開けてみると多少気を吐いたのは照ノ富士だけであった。その照ノ富士が6−9で終わってしまったのは意外である。大砂嵐は地力で7−8にまとめたものの,明らかにケガが重く,本来の取り口は見る影もなく,内容は無かった。遠藤は長くなるので後述するが,負けが込むに連れて内容もなくなっていった。対照的に逸ノ城が暴れ回り,話題をかっさらっていった。記録ラッシュである。新入幕で13勝2敗は史上3人目。新入幕で大関挑戦が7年ぶり,大関(連続)撃破は14年ぶりで,連日に絞ると史上初となる。横綱撃破は41年ぶり。初土俵から5場所での大関撃破・二桁勝利・横綱撃破はまとめて史上初だ。旭天鵬の40歳勝ち越し・白鵬の史上2位となる31回目の優勝とあわせて,とんでもない記録場所になった。……いやでも,旭天鵬と白鵬のおかげで最近毎場所何かしら記録が更新されてないか。

逸ノ城については,正直こうなるんじゃないかという気はしていた。幕下上位の頃(春場所)から「こいつは朝青龍・白鵬以来の逸材」という話題しか聞かなかったし,先々・先場所の十両での取り口を見ても「やべぇ」という感想しか出なかった。来場所は少なくとも前頭筆頭,番付編成会議の判断によっては小結もあり,仮に小結でまた二桁勝てば早くも大関取りの話が出てくる。さすがに来場所は多少跳ね返されると思うが(フラグ),本気になった上位陣と逸ノ城の正面切った対決は見たい。


個別評。白鵬は今年の5場所で一番良い出来だったのでは。所作も先場所に比べると落ち着いていた。デーモン閣下に諌められたのが効いたのか。しかし,「(豪栄道戦の)1敗で(場所が)盛り上がったんじゃないですかね」はあまりにもぐう畜発言ではw。日馬富士は眼底骨折だそうで,めちゃくちゃ心配である。手術して骨の折れたところに詰め物をした方が完治しやすいが,その詰め物が折れやすく,今度また眼底骨折したら視力を失って再起不能になりかねないそうだ。それを避けたい日馬富士は手術しない治療法を選んだ。うまく行けば初場所には復帰できるようだが,九州場所は怪しいらしい。無理せず治してほしい。鶴竜は可も不可もなく。前半戦の決まり手の大半が引き技というのがらしいというか,何というか。内容はともかく,11勝は横綱として及第点だろう。逸ノ城は事故。

大関。稀勢の里は年齢による衰えが始まっているのかも。がっちりと捕えてからの寄りに力強さが見られなくなってきた。宝富士に正面から寄り負けたのは象徴的。精神が脆すぎて綱とりが期待できない,とかそういう話じゃなくなってくるかも。琴奨菊は9−6ではあるのだが,逸ノ城戦が無く白鵬戦も無く9勝は負け越し扱いだろうとでも言いたくなる出来で,鶴竜を寄り切った12日目の相撲以外は基本散々だった気がする。一方,豪栄道は新大関のプレッシャーとケガで1ヶ月稽古できず,という状況からの8−7は許されよう。千秋楽勝ち越しで,土俵下で審判をしていた境川親方の目が潤んでいたのが印象的だった。

三役。常幸龍と千代大龍は奇しくも同時新三役で新風になるかと思われたが,結果は壊滅である。事実上の上初挑戦になる常幸龍は仕方ないとして,千代大龍はもうちょっと何とかならんかったんか。エレベーター化にリーチがかかっている状態で,もう次の新鋭が来ているのだから,危機感はもって欲しい。

前頭上位。照ノ富士と遠藤はまとめて,立ち合いが遅かったのが敗因。ただし,その対処法は各々異なった。照ノ富士は諦めて立ってから何とかしようとした。結果,上位陣には壊滅したが,同格相手にはなんとかなったものが多い。懐が深いとこういう時に有利である。一方,遠藤は立ち合いに前掛かりになることで威力を高め,欠点を補おうとした。しかし,この作戦は見透かされており,結果上半身だけで相撲を取る形になるよう誘導されてしまい,ばたばたと前のめりに倒れる姿が散見される羽目になってしまった。照ノ富士と大砂嵐・逸ノ城が強烈過ぎるが,まだ遠藤を見捨てるには早いと思う。今場所の敗戦は大きな経験となったはずで,頭の良い彼ならまた一工夫してくるはずである。そして,その工夫は前頭中盤であれば十分に通じるように思う。その次,エレーベーターにならないかどうかは,来年の初場所で観察したい。

高安は可も不可もなく。豊ノ島は休場が非常に惜しい。全部出てれば勝ち越し&再三役だったのでは。後半の上位がおもしろかったのはこの人のおかげだろう。もろ差しで中に入る相撲が光っていた。碧山は10勝だが,むしろここ2・3場所低迷していただけで,この人は1年前(昨年の九州場所以降)にエレベーターを脱出したというのが私の評価だ。再三役を素直に喜びたい。宝富士はカオス。マジで謎。妙に寄りに力があったけど,先場所まであんな力ありましったっけ? 大砂嵐は膝のケガを治してこいとしか。組んでもろくに力が出ないから離れて取る,すると技術不足で荒々しい張り手とはたきしかできない,それを見透かされてるからなかなか勝てないの悪循環だった。

前頭中盤。勢は,昨今の相撲人気は実はこの人のイケメンにあるのではないか説もあるが,はてさて。内容は悪くなかったが,名前の通りの相撲振りとしか評しようがない。安美錦は今場所も魔術師だった。栃煌山はただの上昇エレベーターで,三賞無しは妥当。むしろ12勝してほしかった。はい来た逸ノ城。筋肉が下半身に寄ってて技術もある把瑠都とか恐ろしすぎるでしょ。把瑠都の再来と朝青龍の再来を合わせたような恐ろしさがある。でもまだ動きは鈍いところがあり特に立ち合いはやや遅く,中途半端にはたく悪癖もある。今場所はまだ皆油断してたところがあったと思うので,来場所で問われる真価に期待したい。

下位は特にピックアップする人がいなかった。時天空は年だなぁと。足技の冴えだとか寄る力は衰えてないが,足腰の粘りは明確に衰えが。


最後に,若荒雄が引退した。木村山が引退したのが今年の初場所であるので,ポスト千代大海の連中もいなくなってしまった。いまや引き前提の押し相撲を取る者は幕内におらず,隔世の感がある。
逸ノ城は小結に置いてみた。栃煌山が優先されて前頭筆頭,ということもありえそう。前頭下位がまとめて負け越していてスカスカなので,遠藤や千代大龍の大敗勢がそれほど番付を下げずに済みそうな情勢。
※ 誰か足りないと思っていたら豪風を入れ忘れていた。関脇で7−8なら小結だろうということで,東の小結に入れておいた。後はおおよそ半枚ずつ下げつつ,再度吟味してみた。豪風ファンの人ごめんなさい。

2014年秋場所
この記事へのコメント
休場の多い場所で、豊ノ島は途中復帰から好取り組みを見せてくれましたが、舛ノ山はアップアップの再休場でした。日馬富士は、怪我の場所が場所なので、引退してでも失明を回避しても良い気もします。

逸ノ城は出来過ぎで、立ち会いが受け身なのと勝ちが遅いながらも、活躍してくれて場所が盛り上がりました。三役や大関昇進も遠くないでしょう。勢も大関に定着してくれるくらいに白星が増えると良いのですが。

豪栄道は、苦し紛れの首投げが稀勢の里には決まって勝ち越し。でも白鵬からの勝ち星は圧勝で見事でした。やはり場所の途中で白鵬に土がつかないと優勝争いが盛り上がりません。

栃ノ心が十両で全勝優勝を果たしましたが、先だって豊真将が14勝だったのを考えると、それほど驚くべき快挙でもないかなあと。その影に隠れましたが、徳勝龍が今場所は軽やかに身体が動いていて、一皮むけたのか、幕内昇進後も楽しみです。

隆の山が引退してがっかりした場所でしたが、様々な話題で楽しめた場所となりました。
Posted by EN at 2014年09月29日 11:13
こんにちは。いつも勉強させてもらってます。豪風がいません?
Posted by よしだ at 2014年09月29日 19:14
>ENさん
十両の方はほとんど見てなかったんですが,舛ノ山はそういう状態になっていたんですね……再休場は正解だと思います。
日馬富士はそうですね。本人は再出場を考えて手術を回避したわけですが,それでも不安ですね。

逸ノ城は,やっぱり立ち会いが受け身ですよねぇ。あの立ち上がりの遅さを何とかしないと遠藤の二の舞いになる可能性もあると思います。身体が大きいので,遠藤よりハンデにならなさそうですが。

栃ノ心の全勝は言われてみると。>豊真将の14勝
徳勝龍は場所の終盤になってから注目してました。来場所は期待してよさそうな動きしてましたね。

隆の山は引退後の写真がイケメン過ぎて笑いました。
https://twitter.com/azechiazechi/status/508539638944763904

>よしださん
おおっと,すみません。作りなおしてきます。
Posted by DG-Law at 2014年09月29日 20:10