2014年12月01日

ドイツ・フランス・ベルギー旅行記(中編:パリ,オルセー&ルーヴル)

前編より。

パリ
先に書いておくが,今回の旅行におけるパリの印象は最悪に近い。パリに入ってメトロで早々詐欺師と交流するという心あたたまるエピソードがあったのでこれは後述するが,これによって我々の警戒感は否が応にも高められた。圧倒的な落書きの多さに詐欺師,スリらしき人々,難解なパリ・メトロと来て,さらに我々の印象を悪化させたのが物価の高さである。何買おうとしてもフランクフルトやストラスブールよりも高くて閉口した。そうそう,物価以前の問題として,ユーロとの交換レートもひどかった。ほっといても観光客来るからってぼりすぎやろ。

と,街自体の過ごしやすさは最低だが,それを補って余りある魅力があるのもまた確かで。都心部の美しさは絵になりすぎてて,ここは芸術の都なんだよなぁと再確認させられる。

パリ1 パリ3 パリ4


適当にとってこれですよ。ストラスブールは近世あたりで時間が止まった美しさがあったけど,パリの方は現代まで歴史を重ねつつ残ったたくましさみたいなものがあった。3枚目は意外と街に溶け込んでいるソニーさん。本当はホテルの部屋から撮った写真が一番良いのだけれど,バ的に危ない(=特定されそうな)のでやめといた。

パリ2


こっちは,一度は崩落したという愛の南京錠。この橋以外の橋でも,つけられそうなところはびっちり。世界のリア充は全く懲りてない。街の写真はこんなもんにしといて,行った観光地としては極めて一般的なもの。ルーヴルとオルセーはそれぞれ丸一日費やした。

オルセーは最初からその覚悟で朝9時半から入れば,なんとか丸一日で全部鑑賞できる。基本的に18時閉館だが,木曜日だけは21時45分まで空いており,足さえもつなら木曜日に行くとゆったり見ることができる。「月曜休館」というのは意外と忘れがちなので注意しよう。常設展で8.5ユーロ,企画展込みで11ユーロ。オランジュリー美術館とのセットで15ユーロという券も売っているが,一日で見切れるかバカという話で。入場の際にけっこう厳重な手荷物検査がある。また,昨今の鑑賞客のマナーの悪化からオルセーは2011年から写真撮影禁止になっているが,はっきり言って形骸化している。作品ではなく建物を撮る分には職員さんに止められることはないし,実際皆ばしばし撮っていた。ググると禁止直後の11・12年頃に行った人の旅行記を読むとカメラをカバンから取り出しただけでも怒られたそうなので,美術館側の態度が軟化しているのかもしれない。もうちょっと調べてみると,オルセー美術館の職員組合は,美術作品は公共物であるという立場から写真撮影禁止に反対しているそうで,それで堂々とした“見て見ぬふり”状態なのかも。しかも館内全面禁止というわけではなくて,撮っていい場所とダメな場所があるようなのだが,割と境界が曖昧なのも形骸化している原因だろう。

所蔵品はご存じの通り,新古典主義からポスト印象派の絵画・彫刻・調度品でジャンルが固まっており,収蔵されている作品の画家もほぼフランス人。フランスの近代美術が好きならルーヴルより楽しめるかも。適当に挙げると,ミレーの《落穂ひろい》・《晩鐘》,アングルの《泉》,クールベ《画家のアトリエ》,ブーグロー《ヴィーナスの誕生》,マネ《草上の昼食》&《オランピア》&《笛を吹く少年》,カイユボット《床を削る人々》,ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》等。それにしても,見ていくと「これ日本で見た」という作品が多すぎて,企画展という形でいかに大量に持ち込まれているかよくわかる。特に印象派ゾーンはその意味で新鮮味がゼロに近かった。逆に言って,これでもう日本に来るオルセー美術館展は全部無視しても大丈夫かも。順路は自由だが,割と迷宮じみていて,うっかり見逃してしまう展示スペースが非常に多い。しかもそういうところにこっそりブーグローとかシャセリオーとか置いてあるから油断できない。その意味での完全制覇の難易度は意外と高いかも。


一方,ルーヴルはまともに鑑賞しようと思ったら,やっぱり3日はかかる。私は約10年ぶり二度目の来館だったので,前回見たところや興味が薄いところはかなりすっ飛ばし気味に見たのだが,それでも今回も丸一日かかって9割方を「踏破」したに過ぎなかった。入場料は12ユーロで,何日も入り続けるのは金銭的にも重い。9時開館から入ることを勧めたい。手荷物検査はあれでいいのかというくらいにザル。写真撮影は自由。そういうわけで,1,2日でルーヴルを攻略しようという皆さんのために,ルーヴル攻略法を簡潔に書いておく。

ルーヴル1


・あれだけ巨大でも入り口は1箇所のみ。『ダ・ヴィンチ・コード』でもおなじみ,ガラス張り大ピラミッドの真下から入館できる。地下鉄で行くのが一番わかりやすい。なお,ピラミッドの周囲は例によって観光客狙いの怪しい人たちがうろついているので注意。
・基本的な行動として,見渡す限り宝物だらけだが,興味が薄ければさっさと通り過ぎること。未練や執着があると,本当に見たいものが見れなくなる。パックツアーにありがちな「超大作だけ見て,後は素通り」戦略は案外と正しい。
・水・金曜日に行くこと。21時45分まで開いているので,休憩を取りつつ鑑賞できる。それでも全部しっかり見ようなどという大それた計画は立てないこと。

・3階がバロック〜ロマン主義の絵画ゾーン。比較的超有名作が少ない。人もまばら。シャルダン《食前の祈り》,ヴァトー《シテール島への巡礼》,フラゴナール《かんぬき》,プッサン《我アルカディアにもあり》,ジョルジュ・ド・ラトゥール《いかさま師》,ホルバイン《エラスムスの肖像》と,ざっと言われてピンとこない限り,かなりの限りすっ飛ばしてよい。逆に言って今のラインナップにときめくようなら,ここに相当時間を割くのをお勧めする。私自身,ここに最初に行って最大限の時間を費やした。フェルメールの《レースを編む女》とアングルの《トルコ風呂》が数少ない超有名作だが,この2つの位置はけっこう離れている。あとはルーベンスの超大作《マリー・ド・メディシスの生涯》が大部屋1個使って全部展示されているので,これは一見の価値あり。

・2階は3つのゾーンに分かれている。1つは工芸品・調度品ゾーン。歴史順に並んでおり,中世・ルネサンス・バロック・新古典・近代とみられる。新古典と近代については,ほぼ同じものがオルセーで見られるので,そちらで見てしまってすっ飛ばすのをお勧め。ただし,ナポレオン3世の居室だけは行く価値あり。中世・ルネサンス・バロックゾーンはざっと見て「バロック期の技術水準の革新がすごいなぁ」というのだけわかればいいような気がする。
・2階の2つめ,古代エジプト・ギリシアゾーン。これはほぼ同じ展示物が1階にもあるので,そちらで見たほうがよい。というか,ルーヴルは古代エジプトの展示品を2階と1階に分けて置くという謎の配置をしており,大変に巡回しづらい。
・2階の3つめが,いわゆるグランド・ギャラリーゾーンで,ルーヴルのメイン。イタリア・ルネサンスの超大作と,19世紀フランスの超大作がずらっと並んでいる。ルーヴル最大の見どころといえばここ。レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》&《岩窟の聖母》,ヴェロネーゼ《カナの婚礼》,アングル《グランド・オダリスク》,ダヴィド《ナポレオンの戴冠式》&《サビニの女たち》&《レカミエ夫人》,ジェリコー《メデューズ号の筏》,ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》&《キオス島の虐殺》&《サルダナパールの死》と,改めて書き並べるにとんでもないゾーンである。一般的に言えばここが一番時間を取るべき場所。また,絵画メインで見に来たなら,3階から攻めてここが終着点になると,ちょうどよく帰宅できると思う。1階・地下1階にはほとんど絵画がないので。

ルーヴル3


・《モナ・リザ》は名前が《ジョコンダ夫人》にきっちり変わっていた(併記の優先順位がひっくり返っていた)ことを報告しておく。フランチェスコ・ジョコンダの夫人,いわゆるモナ・リザ,ラ・ジョコンダ,という形。人種民族入り乱れて,この前でセルフィーを撮っていた。私もやった。
・そうそう,《サモトラケのニケ》があるのも2階。というか,サモトラケのニケがグランドギャラリーの入り口になっているので,目印にどうぞ。

ルーヴル2


・1階も4つのゾーンに分かれる。1つめが大彫刻ゾーンで,中世から近代までの彫刻がずらっと並んでいる。有名作は少なく,ぱっと見で「すごい(小並感)」となるゾーンではあるので,ぱっと見で立ち去るのがよい。一応,多くの日本人が知っているだろうものとして,カエサルとハンニバルの彫像がある。しかしこの2つの彫像は,ルーヴルのHPの「主要作品」に載っていなかった。ルーヴル的には押しではないのだろうか? 人のまばらさから言って,ほとんどの観光客から存在すら認知されていないような雰囲気であった。もったいない。

ルーヴル4 ルーヴル5


・2つめは古代メソポタミア・イランゾーン。前1〜2千年クラスのレリーフがずらっと並んでいるので見応えがあるものの,これは大英博物館やベルリンのインゼルムゼウムでも見れる代物なので,そっちにも行く予定があるなら,そこまで貴重な感じはしないと言えばしないかも。唯一,ハンムラビ法典の実物は見るべき。

ルーヴル6


・3つめが古代エジプトゾーン。石棺とヒエログリフと死者の書のラッシュは見応えがあるものの,やはり大英博物館やメトロポリタン美術館がある以上,わざわざルーヴルでがんばって見るものかというと疑問が。我々は今回かなりすっ飛ばしたゾーン。
・4つめは古代ギリシア・ローマ彫刻ゾーン。ここも割と「すごい(小並感)」で終わらせても問題ないのであるが,あえて言えば近代彫刻との差異に注目するとおもしろいかも。超有名作としては《ミロのヴィーナス》様がおられる。

ルーヴル7


・この他,実は5つめのゾーンとしてアフリカ・オセアニア・古代アメリカなどの美術というゾーンがあるのだが,入り口からして違うという別館状態で非常に行きづらい。我々も今回は断念した。もったいないのでつなげましょうよ,とはルーヴル美術館に言いたい。

・地下は2つのゾーン。1つは中世の「ルーヴル要塞」だった時代の遺構を復元したもの。もう1つは雑多なジャンルが集まった場所で,主にはイスラーム美術ゾーンである。「聖王ルイの洗礼盤」はイスラーム美術の金属工芸最高傑作なので,是非見て欲しいところ。というか,イスラーム美術に縁遠い日本人だからこそ,これを機会に見ておくのを勧める。古代エジプトやギリシアに比べると,ルーヴルでしか見れない度が高いというのもある。なお,ヨーロッパ人としてもイスラーム美術への関心は薄いらしく,人はまばら。


最後に,ルーヴル事件簿として。私は平たい顔族としてはけっこう濃い部類に入る顔をしておりまして,半ば冗談で「無精髭にしておけば現地民に間違われるのではないかw」と仲間内で話しており,試しに髭を剃らずに数日,ルーヴルではめでたく本当に現地民に間違えられ,迷子になった旅行者らしき人に大変拙いフランス語で話しかけられるという快挙を成し遂げた。ええ,もちろん日本語訛りな英語で「ここは2階だ。そこのエレベーターに乗って地下1階まで行ったら右側に道なりで出口だ。」と返してやりましたとも。エレベーターまで見送ると,なんとも言えない不思議な表情で「サ,サンキュー」と綺麗な発音で言ってくれたアラブ人御一行様が大変印象的でした。


後編に続く。

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