2015年05月11日

あえて言えば「冊封国」か「朝貢国」か「広義の従属国」では

・「魚の養殖」が増えるほど、天然魚が減る矛盾(日経新聞)
→ 養殖が海洋汚染の原因になったり,餌が天然魚だったりするというのはおそらく一般にあまり知られていないか,養殖という言葉からイメージされないので,まあ「矛盾」と言ってもいいのかなと。そういえば遺伝子汚染もあるか。こういう啓蒙を続けていくのは重要で,「そんなもの矛盾でもななんでもない」というのは啓蒙から遠い態度と思う。
→ ちなみに世界の食糧問題は牧畜や養殖をやめれば根本的に解決するということはなくて,実のところ緑の革命以後世界の食料生産はおおよそ足りている。飢饉の原因は単純な貧困と「食料の偏在」で,同じ貧困地域でもアフリカで飢饉が頻発する原因が後者だったかと思う。政情の不安定と未成熟なインフラが全部悪い。ただまあ,飼料用に穀物が消費されることで結果的に食料の価格が高騰し,より世界の最貧困層が獲得しづらくなっている,という間接的な意味合いでは,牧畜や養殖が飢饉の原因と言えなくもない。


・大型倒産速報 | 帝国データバンク[TDB] - 「美術手帖」など出版 明治38年創業の老舗出版社 株式会社美術出版社 民事再生法の適用を申請 負債19億6300万円
→ 「美術手帖」は読んでいなかったが,「書籍『カラー版西洋美術史』『カラー版日本美術史』などの画集作品集」は入門編として学生の頃によく読んでいたので,驚きである。美術系の出版社では安泰な部類だと思っていたのだが。まあ,「美術手帖」については見るからに迷走していた。
→ ブコメで気づいたが,そういえば美術検定はどうするんだと思ってHPを見てみると,やはり開催延期となっていた。新たな主催者が出てきて引き継げば継続されるだろうが,無かったらこのまま消滅かなぁ。ちなみに,私は一回も受けたことがない。


・独立国かは「回答困難」 琉球王国で政府答弁書(産経新聞)
→ 質問の状況が不明瞭だが19世紀に話を絞るなら,前近代の国際関係を近代的に再規定すること自体が当時の国際的な営為であって,現代の政府としては「当時の状況が必ずしも明らかでなく、確定的なことを述べるのは困難」としか言えないのでは。 条約の位置づけも同じで,当時の列強は琉球を独立国と見なしていた証拠とは言えるだろうし,日本が琉球を強引に併合したのも事実だが,それを乗り越えて何か言おうとするなら政治上より歴史学上危うい気が。無論のことながら,逆に言って朝貢関係をもって「琉球は(近代的な意味合いでも取れる)薩摩藩(や清朝)の従属国だった」というのも,あまりに単純化しすぎた説明である。
→ 少し前に琉球が列強諸国と条約結んだ文書が発見されて,「当時は独立していた証拠だ」というような報道が沖縄系のマスコミからあったが,列強としては日本や清朝から切り離して独立国(主権国家)とみなした方が侵略しやすいから,そう見なすのは当然という話でしかない。日清戦争前の清朝の朝鮮に対する振る舞い,あるいは日本が日清戦争に勝って結んだ下関条約で,清に何を要求したかを考えれば,19世紀の「独立国」という言葉を現代になって追い求めるのは修正主義じみている。どうも琉米修好条約まわりの議論はナイーブすぎると思う。
→ 受験世界史研究家として話にオチをつけとくなら,今年の一橋大の第3問(400字論述)と京大の第1問(300字論述)が両方「清朝の主権国家体制押し付けられの歴史」でネタかぶりだったんだが,案外タイムリーなネタということになったのかなと。両大学がそこまで読んでてやったとはあまり思えないものの。


・ 南シナ海は日本の生命線ではない?(希典のひとりごとのブログ)
→ 実際こういう面はあって,南シナ海を覆う第一列島線にこだわらないとまずいのは日本よりアメリカだろう。南シナ海の制海権を中国が完全に握ってしまえば,次は本当にフィリピンで,フィリピンが抜かれれば,それがそのまま太平洋の覇権争いに直結するので。
→ ちなみに,「マラッカ海峡を通らず、ロンボク海峡、サペ海峡、オンバイ海峡を通り、マッカサル海峡あるいはモルッカ海峡を抜けて」というルートが,マラッカ海峡を通るルートの対抗馬として立ち上がった現象は,すでに似たようなものが歴史上存在している。マラッカ海峡を押さえたのがポルトガル・後にオランダで,スンダ海峡・ロンボク海峡を通ったのがムスリムの勢力だ。結果は周知の通りヨーロッパ系の勝利で,それ自体歴史の大きな趨勢と言われればそれまでではあるが,マラッカ海峡が使えたことでオランダの行動の自由度が増し,モルッカ諸島やジャワ島を直接占領し得,結果的にそれが経済的な抗争の勝利にもつながった。その後にやってきたイギリスもマラッカをオランダから奪い,日本も太平洋戦争では真っ先に押さえにいった。南シナ海というより,マラッカ海峡はそれだけ重く,簡単に「迂回できるから不要」とも言えないと思われる。


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