2015年06月21日

5・6月に行った美術館の展覧会

小林永濯「菅原道真天拝山祈祷図」3つまとめて。

芸大美術館のダブルインパクト展。芸大の所蔵物と,ボストン美術館の所蔵品から,明治日本の美術風景を紹介しようという企画展示。東京での会期はとっくの昔に終わっているが,名古屋ボストン美術館にも巡回するのでまだ見れる(8月30日まで)。タイトルの由来は日本が西洋に与えた衝撃,西洋が日本に与えた衝撃の二つの衝撃という意味合い。なのだが,どうも日本上げの雰囲気が強いキャプションが多かった。つまり,日本が西洋に与えた衝撃は言うまでもなく絶賛され,西洋が日本に与えた衝撃については「手先の器用な日本人は,柔軟に素早く西洋を摂取した」という。それ自体は間違っていないが,紹介の仕方として日本人の美徳・民族性に絞ってしまうのは,おもしろみに欠けたのでは。その意味で,芸大がやったにしては俗っぽい展覧会であった。世間の良くない流行に乗ったのだとすると,かなり残念に感じた。深く考え過ぎな思い込みだと良いが。同じことを考えた人は他にもいるのではないかと思う。

とはいえ,展示された作品は良い物が多かった。ポスターにも使用されていた小林永濯の「菅原道真天拝山祈祷図」(今回の画像),本邦初公開らしい橋本雅邦の「雪景山水図」は見に行ったかいがあるものだった。


文化村のボッティチェリとルネサンス展。なぜかやたらと会期が長いので,まだやっている。最近はやたらと(劣化した後の)ボッティチェリが日本に来るな,と思ったら冒頭のウフィッツィ美術館館長だったか駐日イタリア大使だったかの挨拶文にも「近年ボッティチェリの作品が多く日本に貸し出され」といった文言があって笑った。やっぱり向こうもそう思ってんのね。実際,ボッティチェリは若干見飽きた感もあったが,フィオリーノ(フローリン)金貨・銀貨の展示が豊富にあって,これはおもしろかった。こいつがドゥカート(ゼッキーノ)金貨と競ってたんだよなぁ。他にメディチ銀行発行の為替手形とか,旅行者の携帯物(短剣・手桶・鎖など)とか,奢侈禁止令の布告文とか。絵画に飽きられている感があるなら,こういうものを持ってくるのも企画展の一手だと思う。

そういえば,文化村は今年から,過去にやった展覧会の図録を展示の最後に設置するようになった。これを見てると2004年以降ならかなり足を運んでいる自分がわかって自己満足できる。読んで当時の展覧会を思い出しているとけっこう楽しめる。


・東京都美術館の大英博物館展。これも会期中で,巡回もある。こういう○○博物館展はもうあまり行かないことにして,なるべく現地に行くことを目標にしようと最近考えているのだが,さすがにウルのスタンダードが来るとあっては見に行かざるをえなかった。ところで,私の友人に「大学で古代オリエント史をやったから,卒業旅行は大英博物館にウルのスタンダードを見に行くんだ……」と言って本当に行った男がいる。彼もまさかその2年以内に向こうが日本に来るとは思っていなかったに違いない。もちろん,現地で見たのが大事とも言えるが。

そのウルのスタンダードについては「見た」としかいいようがないのだが,その他バリエーションに富んだ展示品で,純粋におもしろかった。人類史を代表する100点ということで,歴史上の世界各地の風俗を紹介する工芸品の展示であった。インダス文字の印章,オルメカ文明の仮面,リディアの金貨,アメリカ先住民のパイプ,唐三彩,キルワ出土の陶片,聖遺物容器,ルイス島のチェス駒,アストロラーベ,大明宝鈔,ムガルのミニアチュール,ワヤンの影絵人形など。リディアの金貨はキャプションが「鋳造貨幣」になっていた。これは書いた人の責任問題なのでは(世界史警察)。アストロラーベはセンスの良いTシャツに使われていたので,思わず買ってしまった。

日本の物では縄文土器,銅鏡,三島茶碗,柿右衛門,北斎漫画,自在置物というチョイス。銅鏡以外は納得できるチョイス。銅鏡(平安後期)を出すなら蒔絵・螺鈿の漆器の方が良かろう。ただ,根本的に日本の物が多すぎないかという疑問はある。ただ,これは元々大英博物館側の企画だったようなので,イギリス人にずいぶん評価してもらったもんだなぁと思えば,まあ悪い気はしない。芸大の展覧会では上述のようなケチをつけたが,こういうふうに外から評価してもらっているからこそ,自分で言うのはなぁと思うのである。


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