2015年10月26日

9月に行った展覧会(芸大・サントリー美術館)

上村松園「焔」芸大美術館の幽霊展。夏の納涼としての企画展示なのだから8月中に行こうと思っていたのだが,気づいたら9月になっていた。しかし,ケガの功名か,芸大の文化祭の日に偶然行くことができ,ついでに芸大祭も楽しんだ。ひどい豪雨だったことだけが不運であった。周囲の観光客が「芸大美術館がこんなに混んでるのは初めて見た」と言っていたが,全くの同感である。しかし,人が多すぎたせいか,納涼のための展示が人の熱気で全然冷えなかった。展示は幽霊を描いた掛け軸が中心。円山応挙の伝説にも触れているが,円山応挙の作品自体は少なかった。この点はやや拍子抜けである。

代わって,ハイライトは展示の最後を飾っていた上村松園の「焔」。六条御息所の生き霊を描いた作品で,大変な美人画である。多くの幽霊はお岩さんに代表されるように,生前の事情か死体の腐敗によりグロテスクな容姿になってしまっているが,一方で美女であるがゆえに嫉妬深く,怨念を持った幽霊も存在する。六条御息所の生き霊はその典型例と言えよう。本作は作品自体がかなり巨大で,それだけに,インパクトのある恐怖に襲われる。上村松園自身は本作を「凄艶な」と形容したそうだが,確かに本作は色気と冷たさが不思議と同居している。ところで,こういう変わった企画展を採用したのは東京新聞である。どうしても資金力が弱い企画が目立ってしまうが,こういう工夫はとても良いと思う。


サントリー美術館の藤田美術館展。藤田美術館は大阪にある,旧藤田財閥によるコレクションを収めた美術館である。藤田財閥は現在のDOWAホールディングス(同和鉱業)が直系の後継組織だが,分裂してできた企業として日産自動車や日立グループがあり,日本の鉱工業の勃興に大きく貢献した財閥であった。実は椿山荘の経営母体も藤田財閥出身である。実質的な創業者の傳三郎とその長男平三郎による美術品収集熱が熱く,戦後の財閥解体後に美術館となった。目玉は何と言っても世界に三点しかない曜変天目茶碗のうちの1つが収蔵されていることで,今回の展示にも来ていた。

曜変天目茶碗というと三点の中でも最も有名なのは静嘉堂文庫の持つ稲葉天目であり,藤田美術館のものは知名度的に劣る。私の見た感想としても,すごいはすごいのだが稲葉天目の凄みにはちょっと勝てないというのが正直なところであった。少しくすんでいて,どこまでも透明で宇宙的な奥行きがある稲葉天目にはスケール的に勝てない。写真で見ると稲葉天目とほとんど変わりが無いように見えるので,やはり実物を実見するのは大事だ。

今回の展示でより重要だったのは仏教美術かもしれない。藤田傳三郎は廃仏毀釈で破壊される仏像を「文化財」と捉える先駆的な目をしており,私財によって仏教美術を廃仏毀釈から救う運動をしていた。そのコレクションが相当に豪華であり,平安末や鎌倉期のものはもちろんのこと,奈良時代のものまであるのだからすごい。トータルのコレクションとしては茶道具よりもこちらの方が貴重で重要度が高いのでは。サントリー美術館での展示は終わってしまったが,11/23までは福岡市美術館で開催中である。

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