2015年11月21日

山陰旅行記(前編):鳥取編(投入堂・砂丘)

今月の上旬に山陰地方を旅行してきた。かなり詰め込んで観光したため,報告することが多岐にわたるのだが,目玉は投入堂の参拝である。以下,時系列・観光地別に。


11/7
[投入堂]

正確には三徳山三佛寺投入堂。「(物理的な意味で)日本一参拝の難しい国宝」と言われ,入山時に僧侶から登山靴のチェックがある,雨天・降雪時は入山禁止,15時以降も入山禁止になる等,参拝には厳しい条件がある。最後の条件が遠方からの旅行者には案外と厳しく,後述するように往復に2時間ほどはかかるので,昼前には麓に着いている必要がある。しかも我々の旅程の場合,11/8以降が雨天という天気予報であったため,初日の11/7に登山するしかなく,旅程を組むのにかなり難儀させられた。これから挑まれる方はお気をつけを。

鳥取市から行くなら,山陰本線で倉吉まで35分(特急)だが,特急は本数が少ない。さらに,倉吉からはバスが出ているが,このバスは1時間に1本くらいしかない&不定期なので要注意である。バスで40分ほど乗ると到着する。よって上手く接続すれば1時間強で着くが,特急待ち・バス待ち次第では2時間以上かかる。そこで,資金的に余裕があるなら,三朝温泉への宿泊を勧めたい。三朝温泉から三佛寺山門前まではバスで20分かからない。

さて投入堂登山の実際の難易度は,何とも評価しがたい。
・行程自体は短く,90分で往復できると言われている。実際我々も100分くらいで往復した。紅葉の綺麗なハイシーズンであったので団体客で相当混み合っており,にもかかわらず道が極端に狭いため,待ち合わせで強制的な休憩時間を取らされた。かつ,ゴールの投入堂以外も見どころが多かったので,その意味でも休憩は多かった。にもかかわらず100分であったので,90分という評価は妥当である。空いている時期にハイペースで登山すれば60分くらいで行けてしまうのはないだろうか。
・登山というよりもロッククライミングの感覚で挑んだ方がよい。斜度から言えばかなり厳しい道が続く。写真だとわかりにくいが,こんな感じ。そもそも審査があって登山靴じゃないと登れないわけだが,そうでなくとも登山靴は必須である。

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・「雨天・降雪時の入山禁止」規定は正解。足元の土が滑りやすい。つかみやすいところにある木の枝・根と岩が生命線で,滑りそうになったらつかむようの枝・根・岩は常に目算をつけておこう。
・そういう難易度であるので,やはりリタイアする人はそれなりにいた。一方で,50-60代の参拝者も多く,要するにそれくらいの体力であっても,休憩を多めに取れば普通に登れてしまう程度の難易度とも言える。筋肉を使うのは1時間ほどであり,スタミナよりも瞬発力の問題ではあるので,年齢はあまり関係ないのかもしれない。己の筋力と重々相談してチャレンジするかどうか決めて欲しい。
・行きよりも帰りの方が圧倒的に楽。往路は延々とロッククライミングだが,復路は割りと安定した足場でスタスタ降りるだけであり,それで膝が笑うということもおそらくない。100分の内訳は往路が60分,投入堂付近で10分,復路で30分という感じ。無責任なことは言えないが,往路で体力を使い果たしても割りとなんとかなると思う。

紅葉のハイシーズンに偶然重なった関係で,素晴らしい眺望を見ることが出来た。投入堂本体の写真とともにおすそ分けしよう。なお,一つ目の写真は投入堂ではないお堂(進入可)から撮られたもの。

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投入堂の創建は平安末と言われる。つまり約900年前だが,伝説上のいわれとしては1300年前に役行者小角が呼び名の通り投げ入れて建てたと言われている。実は長らく創建年代がわかっていなかったのだが,1980年代の補修で得られた古い柱の年代調査から,平安末と確定した。そうした説明が宝物館の方で読めるので,是非こちらも。また,三佛寺の山門にある食堂の山菜定食が絶品だったので,あわせて勧めておく。写真を撮りそびれたので,食べログにリンクしておく。

投入堂の創建が平安末というのは,実のところ文化史上イレギュラーである。浄土教が地方に伝播していく時代であり,浄土教の大寺院が地方でどんどん建てられていた。その代表例が平泉の中尊寺と,いわき市白水の願成寺,大分の富貴寺である。また一方で,武家政権が自らの地元に守護神を祀る神社を建てていた時期でもあり,こちらの代表例は広島の厳島神社,鎌倉の鶴岡八幡宮がある。しかし,投入堂は密教系の天台宗であり(修験道としての祭神は蔵王権現),武家の所縁も無い。つまり,どちらの流れにも属さないのである。また,この時代の三佛寺は僧兵が多く居住し,大山と争っていたという記録は残っているようだが,では僧兵が修験道を極めていたかというと,その関連性も薄い。そのせいで,高校日本史の資料集には必ず載っている寺院の一つである一方で,教えるのが難しい寺院でもある。まだまだ謎の多い寺院なので,誰か研究してください。

なお,純粋な建築史の観点で言えば,特別珍しくもなければ新しくもない。懸造りと呼ばれる様式で,平安の初期からある。懸造りの代表例は京都の清水寺,と言えば大多数の人がピンと来るのではないか。


この日は投入堂に登山してほとんど1日が終わった感じ。鳥取市内のホテルで宿泊。


11/8 AM
[鳥取砂丘]

元々旅程で重視されておらず,行くか行かまいか自体迷っていたが,「鳥取に行って砂丘に行かないというのも」ということから,スタンプラリーの感覚で行った。「見どころがわからないけど,下手したら1時間かからないのでは」という話を同行者としていたのだが,実際の滞在時間はわずか30分であった。感想としては,行くだけ損なので行かなくていい。鳥取県はなんでこれプッシュしてんの? 他の観光資源が皆無ならわかるが,大山もあるし投入堂もあるでしょ? なにせこの砂丘は狭い。長さ16km,幅2kmと説明されているが,幅はともかく長さは完全に詐欺で,森林が貫入していて途切れている。見渡す限り砂しかない情景をそれなりに期待していたが,どうがんばっても視界に海が入ってしまうどころか,視界に森林が入ってしまうのは砂丘として失格だろう。



砂丘に草生えてて草生える。悪意ある角度からの写真と思われるかもしれないが,実際のところ海を映さないような角度で写真を撮るとどうしてもこういうことになる。もう20度くらい右を向くともう海である。逆に海を入れると単なる砂浜にしか見えない(丘にならない)。ちゃんと「砂丘」に見える写真には,写真家の強い努力があるのだなぁというのが,砂丘の最大の成果かもしれない。

なお,鳥取砂丘は“一般人が入れる”日本最大の砂丘であり,真の日本一は青森の猿ヶ森砂丘(面積が鳥取砂丘の3倍)である。こちらは防衛省(防衛装備庁)の弾道試験場になっているので一般人は立ち入ることができない。もっとも,公開されたところでアクセスが悪すぎて鳥取砂丘の優位は揺るがないと思われる。なにせ鳥取砂丘,アクセスは抜群に良い。鳥取市内からバスで20分で,しかもかなりの本数のバスが出ている。天気が良ければ十分自転車圏内だし,最悪タクシーでも行ける。

その鳥取砂丘も近年緑化が進んでおり,平成3年以降は緑化防止対策が取られている。これは単純に観光資源がなくなるからということもあるが,砂漠性ではない雑草が生えてしまうと,砂丘独特の植物が生存競争に負けて絶滅してしまうという事情がある。一方で,そうした砂丘独特の植物を使った砂漠の緑化に関する研究も行われているそうだ。世界の緑化のために鳥取砂丘は犠牲にしたほうがいいんじゃないかな。世界の環境問題のために研究に全面的に活かそうぜ。


というわけで,残念な気分に苛まれつつ,早々に特急まつかぜに乗って出雲市へ。後編に続く。

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この記事へのコメント
二年前に投入堂行ってその近くのお寺に宿泊したのですが(当時身内が仏教に凝ってまして)
一人夜に霊を見たって騒ぎまくってたのをなぜか覚えていますw
Posted by 通りすがり at 2015年11月21日 19:56
滑落死した人の幽霊じゃないことを祈っておきます……
Posted by DG-Law at 2015年11月23日 10:37