2016年01月12日

美術館は美術館の仕事をしよう

・水びたしの公園がすごい(デイリーポータルZ)
→ すっごい楽しそう。ぱっと見は完全に近未来系廃墟のそれ。
→ 実際には「公園なのに水没してる」というよりも「池が乾いてるときだけ公園としても使える」が正解の模様。


・Yuzuru Nakagawa 氏による『蒼樹うめ展』の問題点のまとめ(Togetter)
→ 中川譲氏に同意である……というか,メディア・芸術分野をまともに勉強した人なら全員同じリアクションになるだろう。仮に実態として収益を上げることを目指したものだったとしても,美術館・学芸員の仕事として実施する以上は,最低限の体面がつくろうべきである。特に「制作年も発表年も素材もキャプションになかった」のは論外で,論文に脚注・参考文献一覧がない(あるいはそれらの書誌情報が不備だらけ)ようなものと言えば,ヤバさが伝わるだろうか。そういえば,美術館の展覧会とそれ以外の展覧会・ギャラリーの展示は,査読付の論文とそれ以外の文献の違いに近いのかもしれない。ある意味で,内容の問題ではないのだ。なお,「図録には(制作年が)入ってるからセーフ」となるかはちょっと難しい。
→ もう一歩踏み込んで歴とした美術館・学芸員としての仕事を求めるなら。再確認を兼ねて書いておくと,「美術館」の展覧会の機能は,その作家の美術史上の位置づけを明らかにすること,または作家自身の作風の形成(個人史)を明らかにすることにある。蒼樹うめとなれば無論の事ながら現代のイラストレーター史上に功績が大きいのであるから,位置づけを明らかにするのも,あの独特で丸っこくかわいい絵柄の形成史を明らかにするのも,十分に意義があることだ。その点で不十分な展覧会であったとしたら,残念と言わざるをえない。
→ Togetterにも「まぁ上野の森で行うことが分かった時点で、あらかた予想はできた事なんだけどね」というコメントがついている通り,上野の森美術館は前からこういう傾向ある。企画はキャッチーなんだけども,「展覧会」としてはどうなのかという。これはアニメ系に限ったことではなくて,古代エジプト展なんかでも商売っけは非常に強かった。


・アフリカ大陸のメタル・シーンを伝える書籍『デスメタルアフリカ』が異例のヒット。トークイベントも実現(Yahooニュース)
→  『絶対に解けない受験世界史』の編集者が自ら珍書を出版したので,宣伝を兼ねて紹介しておこう。濱崎さんは元々世界のメタルを聞くのが趣味で,twitter何かを見ていると割りと共産圏が多かった気がしたが,今回出たのはアフリカである。アフリカにメタルってあんの? というレベルの認識の人は私を含めて大多数だと思うのだが,どうやらあるらしい。なんともマニアックな話であるが,記事中にある通り,カウンターカルチャーというかパンクというかという精神は,アフリカだからこそまだ現役で生き残っているのかもしれない。


・軍事費のGDP比から見る各地域・各国の軍事的緊張度(A Successful Failure)
→ こうして見ると日本のGDP1%枠って大きな制限だなぁと思う。中国は隠れ軍事費の問題があるにせよ,表向きはGDPの2%前後に収まっているのはやや意外。GDP自体が大きく伸びてきたから,軍事費が伸びても割合は変わらないということか。東アジア・オセアニアだとオーストラリアの軍事費が案外大きく,インドネシアがかなり小さい。インドネシアは不安になるレベル。そしてミャンマーはまだまだ軍事政権である。
→ アメリカ大陸はアメリカだけが突出しているが,これは政情が安定しているというよりかは単純に対外危機が薄いからといったほうが正しかろう。軍事力よりも警察力を強化しないとまずい情勢だ。もっとも,それはそれで腐敗の心配もあるのが頭痛の種ではあろうが。
→ アフリカは記事中にもある通り,GDP比はやや高めだが絶対額が圧倒的に低いという悲哀が。一方でGDP比も低い国々が意外と多いが,要するに最貧国が多く,中南米とは別の意味で対外よりも対内危機の方が厳しいからであろう。その意味では,アフリカ諸国が経済成長するとまた変わってくるのかもしれない(悪い意味で)。ところで,「中東」という区分を作ったなら,エジプトだけでなくスーダン・南スーダン・チュニジア・アルジェリアも,アフリカではなくそちらに含めるべきだったような気がしないでもない。
→ 最後に中東。ここだけ完全に別世界で,現在の世界の火薬庫と言わざるをえない状況。それにしてもサウジとオマーンが突出している。この二国が突出しすぎていて感覚が狂うが,5%前後になっているUAEとイスラエルも他地域から比べると十分に高額。ちなみにイランは2014年のデータが欠落している関係で0%扱いになっているが,2012年のデータで行くと2.5%前後の模様。

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この記事へのコメント
>蒼樹うめ展
非常にアレな言い方をすると、
初期告知の段階で仕掛け人が絵師100人展と共通なのが見え見えだったので
良くも悪くも絵師100人展の変化系にしかならんよね、というか。
物販の担当者はグッズが売れに売れてくれたので大いに喜んでるのではないでしょうか。
Posted by CIA at 2016年01月14日 21:03
なるほど。
自分は面倒なのであまりやらないのですけど,「美術館に企画を持ち込んだ側」で企画展の方向性・質を判断するというのは,古典的な美術展でもある手法ですね。

というか,実は行ったことないんですけど,絵師100人展もそんな感じなんですね。
Posted by DG-Law at 2016年01月16日 04:42