2016年03月29日

《ベローナ》と《水差しを持つ女》

レンブラント《ベローナ》森美術館のオランダ絵画展。目当てはもちろんフェルメールである。17世紀のオランダ絵画展としての出来はまあ普通で,悪くはなかった。展示作品数はジャスト60と多くはない。美点を一つ挙げると,きっちりと新イタリア風絵画に触れていたこと。特に17世紀のオランダ風景画というと,ライスダールに代表されるように,現地の眺望を描いたものや,フェルメールのような都市景観画の方がイメージにあると思われる。私の好みとしてもこちらの方が好きで,特にライスダールは好きな画家十指に入ると思う。美術史学的重要性から言っても,どうしてもこちらを取り上げてしまうことが多い。

しかし,当時の人気を鑑みるなら無視できないのが新イタリア風の存在で,当時のオランダでもイタリアの明るい色彩を得た画家たちの絵画が人気を博してきたことは近年指摘されている。つまりカラヴァッジョ風でなく,どちらかというとクロード・ロランの系統のイタリア風絵画ということだ。オランダにおけるイタリア風の存在感が指摘されたのは当時の絵画の値段の調査からというから,美術史学としては比較的珍しいのではないだろうか……というような話を大学の授業で聞いた。それから10年ほど経って,こうして美術館の企画展で取り上げられるようになったというのはどこか感慨深い。

新イタリア風の画家たち以外で来ていたのは(ジャンル問わず),ロイスダール父子,ホッベマ,ヤン・ファン・ホイエン,フランス・ハルス,ホントホルスト,ヤン・ステーン,ピーテル・デ・ホーホ,ヘラルト・ダウといった面々なので,ぼちぼちがんばっているとは思う。カレル・ファブリティウスの作品があったのは,前述の新イタリア風とともに嬉しかった。レンブラントとフェルメールのミッシングリンクをつなぐ人物と言われている。天才ながら夭折している(なんと爆発事故で死んでいる)ために,作品数はフェルメールに輪をかけて少なく,ここで2点も見られたのは僥倖であった。

肝心のレンブラントとフェルメールは1点ずつしか無かった。フェルメールは致し方無いとして,レンブラントはもうちょっとなかったんか。レンブラントの作品は《ベローナ》で(今回の画像),ベローナはローマ神話における戦争の女神であり,軍神マルスの妻あるいは乳母あるいは姉・妹とされるそうだ。立ち位置の不明確さが半端ない。アトリビュートは武器と松明で,戦車に乗っていることもあるそうだが……どう見ても持っているのはメデューサの盾で,するとこれはアテナだよな……? 《ベローナ》に同定されている理由は図録を読んでさえちょっとわからなかった。有識者の意見を求めたい。
(追記)
コメントに触発されて簡単に調べてみたところ,武装したアテナ,いわゆるパラス・アテネがベローナと混同されるのはチョーサーやボッカチオの時点ですでに見られるそうで,かなり広がっていた誤解らしい。美術作品でも,他にも混同された作例があるようだ。


フェルメールの方は《水差しを持つ女》。これで自分のフェルメールスタンプラリーは17/35(37)点になる。所蔵元はメトロポリタン美術館。フェルメールの作品としては普通,というのは贅沢な感想だろうか。画面左に窓でそこからの日光が光源,妙に凝った壁にかかった地図,画面右下の机にかかった布の質感と見事にフェルメールのテンプレートに乗っている。

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この記事へのコメント
はじめまして

もうご存知かもしれませんが、ふと目に留まりましたのでお知らせしておこうかと。

ベローナの件、盾に「ベローナ」と書いているからのようです。

Inscription: Signed, dated, and inscribed: (略)(on lower rim of shield) BE[LL]OON[A]

http://www.metmuseum.org/art/collection/search/437389

レンブラント個人の誤解なのか、それとも当時一般的にそういう混同が広まっていたのでしょうか。
Posted by ときかぬ at 2016年03月30日 01:55
いや,全然知らなかったです。貴重な情報ありがとうございます。

おもしろいですねー。
>レンブラント個人の誤解なのか、それとも当時一般的にそういう混同が広まっていたのでしょうか。
これはすごく気になるところです。
なんとなく,一般的にそういう混同が広まっていてもおかしくなさそうな雰囲気はしますね。
Posted by DG-Law at 2016年03月30日 04:09