2016年05月02日

最近読んだもの・買ったもの(『ひとはけの虹』等)

・『ひとはけの虹』1巻。Cuvieが西洋美術史をテーマに描いている漫画で,とりあえず美術史だから買ってみたという。
→ 物語の筋としては,時空を超えて旅をする謎の青年が,「ひとはけ」塗れば「虹色」に輝く顔料となる伝説の鉱石オリハルコンを持って,各時代・地域に散らばる画家たちに渡し歩く―――その先々で名画にまつわる不思議な事件が起きる,というもの。一応の主人公は立っているが,実質的には西洋美術史にまつわる短編集である。
→ なお,1・2話は逸名の画家を登場させているが,3話で方針転換してカラヴァッジョを出しており,以後は有名な画家たち(ベラスケス,ミレイ,ウォルター・シッカート)の名前をはっきり出している。また,カラヴァッジョの章の主人公は同時代のローマの逸名画家であり,4話の主人公は終始「ディエゴ」と呼ばれていて,直接ベラスケスと呼称するのを避けている。そういえば,作中で登場するジャン・エイの《サヴォイア公妃マルガリータ》は実在するが,これがベラスケスの《マルガリータ王女》とあまり似ていない。サヴォイア公妃マルガリータ自体は有名な人物(フェリペ1世の妹・ネーデルラント総督)ではあるが,ジャン・エイはマイナーだろう(とはいえ日本語版Wikipediaに項目が立っている程度には知名度がある)。両者の絵があまり似ていないにもかかわらず拾ったのは,名前が同じで血縁があるからだろうか。
→ そうして5話のミレイになって,ようやく作中ではっきりと「ミレイ」と明言される。ちょっとずつ史実路線にシフトした形だが,一気に路線を変更するのには抵抗があったのだろうか。ちなみに,作品全体を通じての主人公,時空を超えて旅をする青年の正体も,この5話で明らかにされる。もっとも,4話までに出そろう情報の「伝説級の画家」で「1500年頃に活躍した」「美形な青年」,そして5話で初めて正体を明かすのは「ジョン・エヴァレット・ミレイ」とまで材料がそろえば,気づく人はすぐ気づくだろう。
→ お話自体は割りとおもしろくて,よく調べて描いているなとも思うし,Cuvieの絵も官能的で良いのだけれども,Cuvieが描くとなんでもCuvieの絵にしかならないというのはあって,これがベラスケスの《マルガリータ王女》ですと出てきても全然そう見えないというのは,割りと困難な欠点であるかもしれない。Cuvieのオリジナルの絵自体に不満が無いだけに。






・『ゆるゆり』14巻。カバーの通り,ここに来て京綾がようやく接近したような巻であった。千歳失血死不可避。
→ 14巻になってとうとうクローズアップされた先生組がまたすばらしい。東・西先生の話は今後も読みたい。増えるといいな。
→ ギャグ方面だと,105話の全員目が死んでる回が秀逸だった。無言劇とかこういうのやらせたらなもりは上手いなぁ。
→ ちなみに私はA5版で今後もそろえる予定です。B6版まで買う気はちょっと起きない。


・『東方茨歌仙』6巻。同時期の『鈴奈庵』もそうだが,幻想郷都市伝説ブームの最中の話が多い。菫子会長も初登場。
→ 小傘さんはもう鍛冶屋として生きていくべきではw。しかし,貴女はどちらかというとからかさ小僧では……ちなみに,調べてみたら一つ目小僧を鍛冶屋とするのは柳田国男の解釈で,これは一つ目小僧を『古事記』に登場する鍛冶神「天目一箇」と関連付けるところから出てきた説らしい。この神の名前の通りであるが,そもそもは鍛冶のために片目が熱でつぶれてしまう職業病が由来のようだ。そういえば多々良小傘もオッドアイだが,彼女は本当に両目とも見えているのだろうか。
→ ケサランパサランが出てきたが,『茨歌仙』だと横文字の妖怪は珍しくない。神主に,横文字の妖怪はなるべく『茨歌仙』で出そうという意図でもあるのだろうか。それとも偶然か。(もっとも,ケサランパサランは名前に似合わず国産の妖怪だけど)


・『U.Q.HOLDER』10巻。これまでと打って変わってのラブコメ編。というよりも『U.Q.HOLDER』初の純然としたラブコメ巻である。
→ すでにこちらで言及済みだが97話が完全に『ラブひな』1話のオマージュで赤松健古参ファン感涙。歴史は三度繰り返す。男女が逆転している,訪問者側の名前が「しのぶ」,男が殴り飛ばされない等の違いも,『ラブひな』と本作の違いをよく示している。「しのぶ」の名前,最初から狙ってたのかなぁ。
→ 98話はさらに雪広みぞれの登場で,今度は『ネギま!』に話が接近。しかもラブコメハーレム構造自体に突っ込むというメタ言及である。何かここまでの赤松健作品の総まとめのような展開である。近いうちにサーティーが出てきても驚かないぞ……いや,ごめんそれはめっちゃ驚くと思う。
→ そしてこの先の重要な展開を握ることになるキリエの新たな能力「時間停止」が発現。見事なシリアス路線への切り替え・戻し方と言えよう。

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この記事へのコメント
一つ目で鍛冶というと、大眼(マンガ「かみあり」にて詳しい)との関係も気になったりしました。

妖怪っていうとちょっと違いますが、柳田先生の「妖怪は零落した神」的説明との関連的にもアリかな
Posted by noname at 2016年05月02日 17:09
コトバンク(デジタル大辞泉)だと,一つ目小僧の類義語として「大眼」が出てきますね。

>柳田先生の「妖怪は零落した神」的説明
一つ目小僧と「天目一箇」の関連性は,まさにそういうことのようです。
Posted by DG-Law at 2016年05月03日 14:44