2016年05月15日

4月に行った展覧会(安田靫彦展,オートクチュール展)

安田靫彦《孫子勒姫兵》近美の安田靫彦展。安田靫彦というと歴史画の人で,古代・中世の日本史から題材を選んで絵にした人という印象が強い。多くの人は,中学や高校の日本史や国語(古典)の教科書や資料集・便覧で確実に見たことがあるはずである。今回の展覧会は安田靫彦の代表作が結集しており,とりわけ「何かしらの教材で見たことがある」という観点で言うと,かなり楽しめる展覧会となっていた。その観点から言って個人的に最も印象深いのは,意外と国語の便覧に載っていた《孫子勒姫兵》(今回の画像)であったりする。もう一点挙げると,やはり国語の便覧の《額田王》だろうか。そうじて個人的には日本史の人という印象は薄く,国語の人という印象である。

安田靫彦は長命な人で,1884年生まれの1978年死去である。いつの時代の人かというイメージが今ひとつなかったのだが,単純にいつの時代の人でもあるということであろう。また,二次大戦を挟んでいるが,戦時中の戦争協力画は神武天皇や楠木正行,豊臣秀吉であるから,題材選択に影響があったとはいえ,他の画家に比べるとそれ以前と違和感がない。その中で,山本五十六の肖像画が展示されていたのが一番興味深かった。生前のうちに描かれたものと思いきや,依頼された後に五十六が戦死したため,残されていた写真などを見て描かれたものとのこと。

ところで,今回の展示のキャプションはタイトルに全て英語がついていて,その英語の意訳っぷりがなかなかおもしろかった。《相撲の節》を「Yokozuna:the Season of Sumo Wrestling」としてしまうのは正確性の観点から言えばアウトもアウトだが,わかりやすくはあろう。《守屋大連》も「Mononobe no Moriya, a leading opponent of Buddhism」となっていて,もはや英訳ではなく説明であった。中学レベルの日本史を知っている人なら「守屋」だけでピンとくるが,そうでなければ意味不明な絵画であるから,良い配慮であると思う。



三菱一号館のオートクチュール展。行こうかどうか迷ってたけど,『つり乙』シリーズをプレイしててちょっと興味が湧いたのは事実である(エロゲです,はい)。オートクチュールとはオーダーメイドの高級仕立て服のことである。一般的にはパリで仕立てられるものだけを指す。細かな採寸や顧客との打ち合わせを経て,数ヶ月から場合によっては1年以上かけて制作され,にもかかわらず着るのは数度(下手したら1度)のほとんど使い捨て,お値段は目の玉が飛び出る金額と,究極の一点物ファッションである。

世界最大のコレクションを所蔵しているのはガリエラ宮パリ市立モード美術館で,今回の展示はほぼここからの出展になる。オートクチュールの誕生は意外と新しく,またイギリス人によるものであった。19世紀後半にイギリス人のシャルル=フレデリック・ウォルトがオートクチュールの創始者とされる。これは第二帝政下の,フランスとパリを芸術大国として売り出していく戦略とも関連があるかもしれない。百貨店が成立したのも19世紀後半のパリであった。このウォルトを起点に現代までオートクチュールの歴史をたどる展覧会となっている。

私のこの辺の知識は20世紀初頭のコルセットの衰退だとか,それにあわせてシャネルがヒットしたことだとかくらいしかなく,極めて乏しい。その上で見ていって思ったのは,時代ごとのモードの変化があるのはもちろんだが,それ以上にデザイナーの個性の方が圧倒的に強いということだ。復刻的な(あるいはリスペクト的な)デザインがあることもあって,時代の全く異なるドレスが並んで展示されていても,それほど違和感はなかった。時代が現在に近づくと変わる部分としては,素材が増えてデザインの自由度が上がっていく点ではあろう。これは意外と建築と同じ点かもしれない。また,歴史をたどっていく中で,意外だったのは1960年代以降,オートクチュールも既製品(プレタポルテというそうで)との戦いを余儀なくされて,停滞していたことである。そういう知識もなければイメージも無かったので,高級服の世界くらいはオーダーメイドと既製品は全くの別ジャンルだと思っていた。

せっかくなので全くわからないなりにデザイナーの好みを言うと,クリスチャン・ディオールは「女性らしさ」がテーマなだけあって(和製英語で言うところの「フェミニン」だろう),こう露骨ではないエロスがあって,個人的には割りと惹かれるものがあった。デザイナーとか関係なしに好みを言うなら,やっぱりほら,フリフリの多いドレスだよ,うん。秋葉原か原宿に帰れと言われそうだけども,それを言うとそもそもの動機がエロゲなので不純さしかなく。

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