2016年05月25日

小学校の円周率計算問題問題

・算数の問題「円周率を3.14とするとき、半径11の円の面積を求めよ」の解を379.94とするのは誤り?(Togetter)
・「379.94でいいじゃん」派がこんなに多くて驚いてる(増田)
→ これは後追いで読むのがしんどいほど短期間で議論があったが,つまるところの論点は2つに絞られる。まず,採点上の方針・配慮である。以下,一々「近似値に近い数字」等を繰り返すと冗長になるので,上記の議論の数字である「半径11の円の面積」の解答としての379.94,380,380.13で代用させてもらう。

1.379.94だけが正解
この採点態度の問題点は明確で,採点上380や380.13等の本来数学的により正しい(近い近似値)解答をハネることになる。しかも,380.13はまだしも,380は「円周率を3.14として」きっちり計算しており,咎は「問題文に四捨五入せよと書かれていないのに勝手に行ったこと」に絞られる。しかし,四捨五入の論拠である「数学的に考えて有効数字3桁は自明である」という主張は,「習っていないことは使ってはいけない」あるいは「そんなものは自明ではない」のどちらかで反論される。でまあ,前者は論外としても,後者は小学校の教員一般が絶対に知っているべきレベルで自明なことでもないと思うので,私には判断材料がない。

380.13については「円周率を3.14とする」なら絶対に出てこない数字であり,数学的には正しくとも国語的には誤りであると判断しうる。これは,算数は純粋な数学の準備科目というわけではないと考えるなら,主張の筋は通るし,それへの反論は「算数は純粋な数学の準備科目である」しかない。しかし,その反論をするなら,中学・高校の数学で似たような有効数字のごまかしが行われていないことは確認されるべきだろう。私は調べてません。

2.380または380.13だけが正しい
純粋に数学的に考えればそうなのかもしれないが,私はさすがにラディカルすぎて無理筋だと思う。理由は明白で,有効数字の概念は小学校で習わないからである。問題の不備として指弾するのは正当だが,現行の小学生にまでは要求できない。

3.だったら全部正解として拾えばいいのでは
という選択肢が出てくるのは当然のことであるが,これはこれで別の問題がある。採点が非常に煩雑になる。教員はそういう小学生がいたら,ありうる正解を計算して確認することになる。そんくらい教員がんばれよというのは簡単だが,混乱が小学生に及ぶ程になるならやらない方がよいだろう。この辺は私も小学校の教員経験があるわけではないので,全くわからない。また,小学校の教員が小学生に対して面と向かって教えている状況なら一対一で適宜対応可能であり,できない子には単純な説明しかしないというところまで個別で処理できる。しかし,これが業者販売のドリルやテスト等でどこまでカバーすべきかは別問題として浮上することになる。「説明して理解できる子の解答は広く取り,一方で説明するとかえって混乱する子には説明を省く」という個別対応ができない一律の出題・解答・解説になるからである。


その上でのもう一つの論点が,じゃあその上でどういう問題文にすれば小学生が困らないかという改善案だが,実はこちらはさくっと結論が出ていると思う。円周率のかかわるすべての問題に「◯桁で四捨五入せよ」と1文足す。小学生に有効数字を理解させるのは難しかろうし,数学的に誤った解答を出させるのもまずいとなれば,問題を作る側が一工夫加えるしかない。その上,この文くらいは大した手間ではないし,加えて言えば四捨五入の練習にもなるので一石二鳥なような。なんなら問題を2点満点にして,計算過程で379.94が出ていることで1点,ちゃんとした正解の380で1点と振り分ければよい。そこで「なんで一々四捨五入せにゃならんの?」と疑問に持つ小学生が出てきたら,それこそ小学校の先生の出番であり,個別に説明してあげれば解決するだろう。

さて,作問上の手抜きが原因ではないかというところでこの件は掛け算順序問題に衝突するのだが,あれとは少し違うと感じるのは,掛け算順序問題の焦点が圧倒的に“大人の都合”だったのに対し,“教育上の配慮”が焦点だった点にある。上述のごとく379.94だけが正解とする説にも一理はあり,数学的に間違っているから絶対にダメとは言えない。この点,掛け算・足し算順序問題は数学的誤りを乗り越えるだけの理屈がない。

ところで,そもそもなんで小学生の算数で3.14が出てくるのかと言えば,おそらくながら単純に小数点二桁を含む複雑な計算練習を手軽に出題できるからという側面も大きいと思われる。私は比較的算数の好きな小学生だったが,そのおかげで14の倍数は暗記してしまった。似たような経験をした人はそこそこいるのでは。

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この記事へのコメント
自分が小学生の時に受けた教育を思い出すと、円周率の意味を深く教わったことはありませんし、円周及び円の面積を出す時にかける3.14という数だということしか教えられていません。が、それも無理のないことだと思います。小学生に無理数の概念を理解させるのも無理がありますし。

そのうえで3.14という数を採用したのはおっしゃる通り小数点以下の計算の練習をさせたいだけだと思いますし、学校教育の現場の本音としても理解できます。そもそも円周率が無理数であるということを理解していなければ、3.14としようと3としようと本質的には変わりません。

以上を踏まえて計算結果を四捨五入させるのにも賛成ではありますが、結局円周率及び近似の概念がわからない小学生に四捨五入をする意味も理解できないでしょうね…小学生の段階では×3.14が正確に計算できれば十分と思われます。その意味を中学高校で理解できればよいのでは。リンク先の議論は数学的な正しさを優先しすぎて、小学生が理解、納得できるのかという視点が抜け落ちている気がします。
Posted by 通りすがり at 2016年05月28日 03:27
むしろ初等教育の段階で、円周率とは円の直径に対する円周の長さの比率であることや、計算の便宜上3.14やら3としているのであって実際の数値は3.14152…と無限に続く数であることをキチンと指導することの方が本質的かつ重要だと感じます。

ちなみに自分は中学受験経験者ですが、言うなれば3.14の段を覚えさせられました。今思えば数学教育的には無意味でしたが、受験の段階では役に立ちました。懐かしい。
Posted by 通りすがり at 2016年05月28日 03:46
うちの小学校は円周率の定義とかやってましたね。無理数にも触れられていました。計算の便宜上3.14になってるだけというのも含めて教えられました。
そこはおそらく,小学校単位で大きな違いがあるのではなかろうかと思います。


>リンク先の議論は数学的な正しさを優先しすぎて、小学生が理解、納得できるのかという視点が抜け落ちている気がします。
それはけっこう重要な指摘で,一応小学校でも概数は習うみたいですけど,どこまで小学生が理解できるのかは,教育学の専門的な領域の話になるのかなと。
それを無視して数学的正しさを優先しての「有効数字3桁」を押し通すのは難しいと思います。

確かに0.14というか3.14の倍数ですね。私は中学受験をしていませんが,覚えちゃいますよね。受験経験者なら尚更だと思います。
Posted by DG-Law at 2016年05月29日 00:13