2016年05月22日

稀勢の里スマイルに始まり終わった場所かも

今場所は久しぶりに土俵の外が騒がしくなく,揉め事が全く無かったわけではないにせよ,安心して見ることができた場所であった。そのせいか,土俵の内容が文句なく良かったかというとそこまで質が高かったわけではない気がするものの,ゆったりした気分で最後まで楽しく見れたように思う。終わり良ければ全て良しというか,最後三日間の上位陣の相撲内容が濃かったので,15日間の記憶が塗り替えられているような気がしないでもないが,深く考えてもしょうがないので,気分が良いまま終わっておきたい。

優勝争いが千秋楽まで引っ張られていればさらに盛り上がっていたとは思うが,稀勢の里を責めるのはちょっと筋違いで,日馬富士と鶴竜がどちらも早々に脱落したことの方が責任が重かろう。そもそも13日目の時点で白鵬と稀勢の里までほとんど絞られていたのであるし。質については立ち合いの正常化という名のもとに何度も相撲を止められたことにも影響があると思う。立ち合いの手付きについては私はノーコメントで。にしても止めすぎだろうとは思うけど。

稀勢の里の綱取りは継続だそうで。私は13-13-15(14)で直近3場所合計41(40)勝の優勝1回ならあっさり昇進を認めてもいいと思う。鶴竜は9-14-14の合計37勝の優勝1回で昇進しているし,日馬富士は直近2場所だけ見ればどちらも全勝優勝だが,その前の場所が8勝であるから,3場所合計だと38勝になる。同じように見ていくと,実は白鵬も朝青龍も38勝,武蔵丸に至っては34勝しかしていない。もっとも,武蔵丸は連続優勝2回である上に,それ以前に3回の優勝がある(大関で通算5回優勝)。白鵬・日馬富士・朝青龍は文句なしとして,条件ギリギリでの横綱昇進は鶴竜のパターンと武蔵丸のパターンがあると思われるが,稀勢の里の場合は鶴竜のパターンになるだろう。常に優勝争い可能な安定性が材料とはいえ,やはり優勝が1回はないと厳しい。ゆえに,来場所14勝でも優勝を逃したら無しである。厄介なのは13勝で優勝してしまった場合で,合計39勝はそれでも大したもんだが,通常の優勝は14勝が普通で13・12勝は棚ぼた感があるという印象がどうしても強く,議論が紛糾すると思う。ただまあ,白鵬が存在して優勝ラインが13勝まで下がることは多分無いので杞憂だと思うが。ところで来場所13・14勝で優勝出来なかった場合,綱取りはまた九月場所まで延期になるわけで,ここまで来たら連続綱取り場所記録でも作って欲しい気もしてきた。過去にどこまで延びたことあるんだろう。


個別評。全勝優勝した白鵬は,前半は省エネ相撲・ラフプレーで最後三日間だけ本気モードといういつものやり方。今場所は特にラフプレーのエルボーについて批判が集まっていたように思うが,それについては先場所書いたので詳細には書かないが,大砂嵐が注意されたのなら横綱だって注意されるべきという公平性の担保と,危険行為ではあって大相撲がスポーツでありたいなら公的な見解が出されるべき,とは改めて簡潔に記しておく。ところで,白鵬のアレが効果的なのは左の張り差しの直後に飛んで来るからで,左の張り差しに気を取られていたら右のエルボーが顎に来てるからノックアウトする形で当たってしまう。なんというか相撲のルールの想定外を突いたバグ技に近く,やる奴が出てくるどころかできる奴が出てくること自体想定されていなかったように思われる。鶴竜と日馬富士は可も不可もない出来。

大関陣。稀勢の里は謎の微笑み(アルカイックスマイル)とともに白星を積み重ねた場所で,年齢を重ねて精神的な余裕が出来てそうなったのか,何かしらの努力があって積極的に微笑んでいたのかがよくわからない。ともあれ精神的にブレることが少なくなり,15日間全力で取れる用になった結果が2場所連続の13勝ではあった。鶴竜戦は前日の白鵬戦で足を痛めていたそうで,負傷が無ければ14勝だったかもしれず,もったいなかった。実のところ最初の5日間はちょっと不安定かなと思ってみていたのだけど,次第に良くなっていったように見えた。

琴奨菊と豪栄道は意外と好調だったのではないかと思う。稀勢の里と白鵬を上回れなかっただけで。それぞれ10勝と9勝なら及第点かと。豪栄道は前に出る圧力があり,苦し紛れの連発ながらなぜか12勝できてしまった先場所よりも内容があったと思う。そういえば今場所の決まり手に一回も首投げがなかった。照ノ富士は「なぜ休まなかったのか」と皆に言われているところだが,本人曰く「休むと余計に相撲を見失いそう」とNHKのインタビューに答えていたので(中日か九日目かだったと思う),本人がそう言うなら仕方がないかな。

三役。琴勇輝は序盤,やっぱりホゥ!を止められて調子が狂ってたように見えたが,その中で7−8なら十分な星では。突き押しは十分に上位で通じている。勢は正直残念な結果で,もうちょっと勝てるかと。右差しからのすくい投げ,または右からの小手投げが強烈でここまで上ってきたが,さすがに対策され,右が使えないと何も出来ず,封じ込まれて大敗した。器用に何か出来る人ではないと思うので,それでも右から打開するしかなかろう。魁聖はそれほど相撲が変わった印象はないが,小結で初の勝ち越しはすばらしい。隠岐の海はノーコメントで。

前頭上位。正代はさすがに上位に通用しなかったが,6勝はまずまず立派であろう。右四つ得意ではあるが勝った相撲は大体もろ差しであった。しばらくエレベーターしそう。逸ノ城は多少マシになったか。なんというか,勝てる相手と勝てない相手を見極めて,勝てない相手とは当たったら適当に負けているようにも。似たようなことは旭天鵬もやっていたが,あちらはベテランになってからの話で,逸ノ城はケガをしない範囲で挑戦していって欲しい気が。もったいない。栃ノ心は4枚目で10勝というとすごそうに見えるが,実のところ上位で当たったのは照ノ富士と日馬富士だけ(今場所の照ノ富士はノーカウントだろうし),二日目の安美錦戦は誤審で拾った星なので,高い評価を与えていいものかは疑問である。つりの技能を評価しての技能賞受賞で,つりの技能自体は妥当ではあるのだが。碧山は5場所連続7−8というどうでもいい記録がかかっていたが,千秋楽負けてこれを逃した。

前頭中盤。貴ノ岩は前半良かったが,スタミナが切れたか,後半は相手のいいようにやられる相撲しかなかった。この人も技能はあるのだが,どうも身体が追いついていないのでは。大砂嵐は本来もっと勝てていたように思うのだが,十一日目に突然相撲が狂って戻すのに5日かかってしまった。それ以外はケガの状態もよく,諸手突きから左上手というパターンで上手く勝てていたのではないかと思う。来場所の上位挑戦は楽しみである。そういえば今年のラマダーンは6月6日から7月5日だそうなので,名古屋場所に全くかからなくてよかった。御嶽海は11勝で敢闘賞。順当に出世していて来場所はおそらく小結になる。突き押しが強いし相撲勘もあるが,まだ上位挑戦は難しそうな印象。

前頭下位。松鳳山と遠藤が暴れていて他はボコボコだった印象が強い。松鳳山は上りエレベーターではあるのだが,ただ突き押すだけでなく,中に入れればもろ差しで寄っていくことを覚えたので,ちょっと相撲が変わったかもしれない。遠藤はようやく膝が完治したようで,来場所も期待してみたい。それ以外だと,新入幕錦木は思っていたよりも幕内に適応できていた印象がある。案外と身体ができていてそれで対応していたところはあり,あとは技術の問題か。


今場所は十両が大激戦で,取組は全然見てなかったのだけれど,星取表だけ見ても大変なことになっていたのはそれなりにわかる。幕下に落ちるのが5人て。しかも天鎧鵬やら常幸龍やら元幕内力士が落ちていく。その中で勝ち上がった宇良と佐藤は大したものだ。優勝した千代の国は2014年五月場所以来の幕内復帰となりそうだが,この時もケガで0-2-13であり,まともに最後に幕内で取ったのは2013年七月であるから,ジャスト3年ぶりということになる。おかえりなさい。(ところで,ネット上でのアダ名チヨスランドを命名した人はセンスあるよね。)

三役争いは千秋楽までもつれ込んだが,結局意外と動かなそう。御嶽海はすごい番付運。幕尻はいつも通り混戦。十両から上がってくる候補の北播磨・佐田の富士,下がってきた臥牙丸・英乃海,休場の評価がどうなるかわからない旭秀鵬あたりの5人で枠は3つという感じ。


2016年五月場所

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この記事へのコメント
先場所に引き続いて優勝争いの一騎打ちに盛り上がった場所でした。鶴竜は、どうせなら千秋楽で白鵬にも勝ってもらって、2横綱1大関に味噌をつけるのを徹底してもらいたかった気もします。

琴勇輝と正代は、番付の割りには勝ち星を稼いだ方で、将来が楽しみです。
逸ノ城は、どうして怪我の照ノ富士に負けるのかと首を傾げる一方で、横綱に土をつけてみたり、やはり怪我を恐れているのでしょうか。三役を確定してもらいたいものですが・・・。

遠藤は下がる相撲になったら膝の古傷がとヒヤヒヤしながら見ていました。二桁勝って、来場所も更なる出世に期待。大砂嵐は、かちあげと諸手突きを使い分けはじめましたが、どこまで効果的だったものか。見事な寄り切りで勝つ一番もあったので、幅を広げて白星を増やして欲しいものです。

十両では宇良と佐藤の活躍に、来場所からは大輝もあがってきそうで、学生出身の小柳や、琴鎌谷を負かした石橋など、新鋭が楽しみです。
Posted by EN at 2016年05月24日 15:45
13日目はすごい盛り上がりでしたね。14日目に稀勢の里が勝ってればさらによかったのですが,何やら痛めていたようなので仕方ないですね。

>琴勇輝と正代は、番付の割りには勝ち星を稼いだ方で、将来が楽しみです。
ですね。負け越してはいますけど,番付を考えると,今場所としては十分な成果を上げたように思います。

イッチはケガを怖がっている気がしますね。それにしても,ですけど。

>遠藤は下がる相撲になったら膝の古傷がとヒヤヒヤしながら見ていました
私も正直ちょっとヒヤヒヤしながら見てました。今場所は下がる相撲が少なかった結果が11勝であるとも言えるかと。

大砂嵐は諸手突きが効いてるときと効いてないときがあるんですよね。何なんでしょうあれ。ともあれ,左上手に自信を持ったのはいいことだと思います。

宇良はともかく,佐藤はそれほど注目してなかったので,これからチェックしていこうと思います。
Posted by DG-Law at 2016年05月24日 23:09
興奮冷めたところでコメント。
今場所もお疲れサミット。

手つきについてはともかく、安美錦−栃ノ心など明らかな誤審が多々見られたのが水を差した場所でした。
散々、友綱審判が叩かれてますが(汗)まぁその前にまずは行司の裁きもどうなのかなと。

それはさておき今場所は幕内の勝ち越し人数が17人。これはここ2年では24年秋と並んで最も少ない数字のようで、そこそこ上位陣が安定した場所と言えるのではないでしょうか(適当)
その中で一人異彩を放つ照ノ富士ですが・・・うーん、見通しは暗い・・・。
本人にも色々と考えはありましょうが、ここは休むべきかと・・・。
遠藤の時も同じ事を書きましたが、場所は休んでも別に遊ぶわけではなく、四股テッポウ摺り足の基本をいつもの倍やって筋力を維持していくのに専心していけば良い話だと思うんですが、このままではほぼ確実に把瑠都コースになりそうでもう見ていられません。

さて稀勢の里の綱取りについては私も同意見。やはり優勝経験はあってほしいなと。それが12勝でも何でも。
しかしながら私見に拘らず、世間の流れから推測した名古屋場所後の動き
○は昇進 △は継続 ×は振出

○全勝優勝!
○14勝優勝!
○13勝優勝!
○全勝だけど優勝ならず(泣)高安空気嫁
○14勝だけど優勝ならず(泣)

△12勝優勝!
△優勝ならずの13勝

×11勝以下

14勝すれば、多分上げちゃうんじゃないかと・・・。
鶴竜・日馬より強いとか言って。
Posted by ( д)゜゜ at 2016年06月02日 18:29
他。

【魁聖】
どこがどう良くなったか分からないけど新三役で勝ち越しは見事。
ちなみに5枚目以上で勝ち越すのもこれが初(笑)

【琴勇輝】
序盤は明らかに集中欠いてボロボロだったけど中盤から持ち直した。
栃煌・妙義が陰り始めたので、そろそろ大関候補の柱になりそうな予感。

【勢】
今場所はある意味試金石だったけど言い訳無用の4勝。

【正代】
自分の相撲を貫き通しての6勝。大変勉強になった場所でしょう。

【遠藤】
そこそこ戻って来た感じの動き。押し込まれるとヒヤッとするが、そういう場面が比較的少なくて良かった。

注目の新十両ですが、宇良は腰を引く立ち合いが多いのが気になるものの楽しみな事には変わりないので早く幕内に上がってほしいですね。
もう少し強い当たりも見せておけば対戦相手はもっと迷うでしょうね。

佐藤ははっきり言って阿武咲の下位互換ぐらいだと思ってたんですが、意外に強くてビックリしました。
十両は上も下もガラッと入れ替わるので来場所も熱戦が期待できるでしょう。

と言うわけで今場所はこの辺で失礼いたします。
Posted by ( д)゜゜ at 2016年06月02日 18:31
どうもどうも。お疲れ様です。

>安美錦−栃ノ心など明らかな誤審が多々見られたのが水を差した場所でした。
とりわけその取組はひどかったですね。安美錦がその後休場しただけに。栃ノ心の二桁も思い返すとケチがつく感じで,後味悪いです。

>今場所は幕内の勝ち越し人数が17人。これはここ2年では24年秋と並んで最も少ない数字のようで
非常におもしろい数字です。十両も入れ替えが激しいですし,多くの関取にとってはいろいろと苦しかった場所なのかも。

テルルについては,多くの人が「それでも休むべき」と言うでしょうね。私もそう思います。

稀勢の里については,なるほど。ありうるパターンですね。
ダメならダメな成績,上がるなら上がる成績と,来場所ははっきりした成績を出してほしいですね。13勝で継続ならそれはそれでとも思いますがw,それ以外だと非常に揉めそうで……
Posted by DG-Law at 2016年06月03日 01:36
>魁聖
そうなんですよねw。
確か,NHKの解説でも北の富士かだれかに「腰高なのになぜかおっつけが効く」とか言われてませんでしたっけ? 言われてみるとおっつけと喉輪は多かった気がします。

>琴勇輝
>序盤は明らかに集中欠いてボロボロだったけど中盤から持ち直した。
やっぱりルーティーンが封じられたせいですかねぇ。
確かに,そろそろ大関候補にあげてもいいかもしれません。


宇良は体重を増やしているところのようなので,もうちょっと重くなったら立ち合いが改善されるかもしれませんね。
上のコメントでも書いたんですけど,佐藤ともども期待して待っていようと思います。
Posted by DG-Law at 2016年06月03日 01:43