2016年07月30日

線文字・アルカイックスマイル・オストラコン

テミストクレス追放のオストラコンこの時の続きで古代ギリシア展へ。アテネ国立博物館を中心に,ギリシアの多くの博物館から借りてきた企画展であるが,その最大の特徴は時系列順になっており,キャプションの説明がかなり充実していること。そして,結果的に古代ギリシア史のお勉強には非常に有用な展示になっていることである。先史(前6500〜前2000),ミノス文明(クレタ文明,前2000〜前1100),ミケーネ文明(前1600〜前1100),いわゆる暗黒時代,ポリス時代前半(アルカイック時代,前900〜前480),ポリス時代後半(クラシック時代,前480〜前323),マケドニアの征服(ヘレニズム),ローマの征服の順番に展示が流れていく。

今回の展示の特徴をもう一つ挙げると,ポリス時代以前を大きく取り上げているというのが挙げられる。先史時代までさかのぼるとなんとも言えないが,ミノス文明,ミケーネ文明くらいだと「ああ,神話の世界であるな」と感じられてなかなかおもしろい。後のいわゆるギリシア文明の原型がここに見られるのである。線文字A・Bの実物があったのは貴重な機会で,これを逃すと意外となかなか見れないと思う。「高校世界史で習ったような気はするけど名前しか知らない」という人には特に,これを機会にミノス文明とミケーネ文明の違いを覚えて帰ると良いだろう。逆に詳しい人だと暗黒時代の扱いが気になるところだと思うが,本展における扱いは極めて小さく,あえて触れないようにしているようである。鉄器の導入期であることや,線文字からギリシア文字に代わった時期であることは説明されていた。

勉強になると言えば,クラシック時代のゾーンではアテネの直接民主政についての展示がかなり凝っていて,官職抽選用の道具や,実際に使われたオストラコン等が展示されていた。オストラコンは有名なテミストクレス追放の物もあり,「これ世界史の資料集で見た」と言うこと請け合いである。もうひとつクローズアップされていたのはオリンピック特集で,時期柄リオ五輪は近いし,東京五輪も(悪い意味でだが)世間の注目を集めているので,こうした特集が組まれたのであろう。

美術的に言えばやはり見どころはアルカイック時代からクラシック時代,そしてヘレニズムへと続く彫刻の発展で,アルカイック時代のものはやはりどこか表現が固いが,クラシック時代には自然な造形へと進化する。そしてヘレニズム時代には美しく,工夫の凝らされた躍動的な彫刻に変わっていく。明確に時代順にした効果は出ていると思う。個人的な話をすると,クラシック時代やヘレニズムのものはルーヴル美術館等でよく見ているので,実のところ目当てはアルカイック時代のものであった。言ってしまうと表現が固くて技術的に稚拙なのだが,その固い笑みがそれはそれでおもしろく,昔の人は「アルカイック・スマイル」とはよく名付けたものだと思う。また,実際こういうぎこちなくも愛嬌のある笑い方する人いますよね。綱取り挑戦中の大関とか。逆に言って彼の微笑みを見てアルカイック・スマイルと最初に表現した人もかなり良いセンスだと思う……とオチを付けて今回の展評を終わらせておく。

なお,この企画展はこの後長崎・神戸と巡回するようだ。西日本の方はそちらで。


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