2016年08月03日

アール・ヌーヴォーってなんだっけ(哲学)

セーヴル《パツィオパット秋明菊文飾壺》三井記念美術館のアール・ヌーヴォー装飾磁器展に行ってきた(三月記念美術館のHPは企画展のURLが使い回しなので記事公開日から時間が立っている場合は注意)。今回の展示は装飾磁器,それも1900年のパリ万博前後に活躍したメーカーの物という極めて限定された磁器の展覧会である。アール・ヌーヴォーというとガレやらルネ・ラリックやらの影響でガラス工芸のイメージが強いし,そうでなければロートレックやミュシャのようなポスターを思い浮かべる人もいよう。あるいは建築物や家具が真っ先に想起される人もいるかもしれない。陶磁器の印象はあまりない。しかし,当時の陶磁器メーカーも,きっちりとアール・ヌーヴォーに染まっていたし,流れに乗り損ねたメーカーはこの時期ぱっとしなかったのである。

1900年のパリ万博はアール・ヌーヴォーに彩られた万博で,その中でも注目されたのはセーヴルだった,そうだ。私もここは全くの門外漢なので展覧会のキャプションの受け売りだが。その他に流れに乗ったメーカーとしてロイヤルコペンハーゲンやビング&グレンダール(後にロイヤルコペンハーゲンが買収),ロールストランドが挙げられ,多く展示されていた。やたらと北欧のメーカーが多いが,これは実際にこれらが特に隆盛していたのか,借りてこられたのがたまたまこれらのメーカーだったのか,それとも主催者の趣味が出たのかはちょっとわからない。逆に流行に乗り損ねて窮地に陥っていたのがKPMベルリンやマイセンだったそうだ。マイセンは前時代のロココ様式や歴史主義で大きく当ててしまったので,方針転換は難しかったのだろう。

というよりも,マイセンにしろロイヤルコペンハーゲンにしろ,クラシックなものと比較すると「こんなの作ってたんだ」という感想の方が強い。流行に乗るということ,流行に乗らないと勝てないというのはこういうことなんだというのを強く感じる展覧会ではあった。それが後に続く革新なのか,流行なのかは当時の人間にはわからないものである。対して,セーヴル等は確かに上手くマッチさせているように見えた(今回の画像はセーヴルの壺)。

近現代の陶磁器というと超絶技巧と科学の応用という印象があるが,今回の展示ではそこまで強く感じなかった。というよりもこのレベルの釉薬や造形だったら清朝乾隆年間,は言い過ぎとしてもほぼ同時代にあたる宮川香山(初代)の方がすごいのでは,と思ったら,展覧会にも宮川香山(初代)の作品が展示されていた。そもそも本展覧会曰く,宮川香山は「東洋のアール・ヌーヴォー」にあたるらしい。よくわからないところである。


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