2016年09月23日
書評:『ヘンタイ美術館』山田五郎,ダイヤモンド社
山田五郎が12人の画家を取り上げて,それぞれの画家のエピソードをざっくばらんに語っている本である。タイトルの『ヘンタイ美術館』は,最初は山田五郎自身が反対したそうで,実際にそれぞれの画家の変態性には(一部を除いて)焦点が当たっていない。12人の画家は3人ずつに分けられており,以下の通り。
・ルネサンス:ダ=ヴィンチ・ミケランジェロ・ラファエロ
・バロック:カラヴァッジョ・ルーベンス・レンブラント
・古典,ロマン主義,自然主義:アングル・ドラクロワ・クールベ
・印象派:マネ・モネ・ドガ
語られているエピソードは大体有名なものばかりで,全部知っているという人も多かろうと思う。「ヘンタイ」という観点から見ても,ミケランジェロの筋肉フェチ,カラヴァッジョの人格破綻,ルーベンスのデブ専,クールベの「世界の起源」,マネにまつわる昼ドラとか,王道のエピソードである。ただし,山田五郎のまとめ方は上手く,その点で知っていても読み応えはあった。ゆえに,全く知らない状態でも,もちろんおもしろいと思う。逆にラファエロは「別に変態じゃない」で本書で言い切られている通りで,数合わせ感は否めない。一方で,本書の特徴は各画家の変態エピソード紹介だけでなく,意外とまっとうな西洋美術史の歴史をたどった解説になっているというのがある。ラファエロは,そちらのまっとうな意味合いで数えられていると言っても過言ではない。たとえば“ラファエロ前派”はなぜ“ラファエロ”なのか(ダ=ヴィンチでもミケランジェロでもないのか)という点にもきっちり触れられているし,カラヴァッジョのテネブリズムはなぜ偉大なのか,彼がなぜバロックの開祖と呼ばれているのかにも説明がなされている。これは変な「すぐわかる! 西洋美術史」的な概説書よりもよほどわかりやすかろう。
しかし,本書の魅力はやはり山田五郎の語る「ヘンタイ」へのこだわりである。本書のタイトルに「ヘンタイ」を冠するのは,山田五郎は当初反対だったそうだ。実際,ラファエロやレンブラントは別に変態でもなんでもない。しかし,山田五郎に言わせると本書に登場する唯一の真の変態はドガだけだそうで,だからこそタイトルに「ヘンタイ」とつけるのは反対だったそうなのである。最後まで読むとその理由は非常に納得の行くものが用意されており,逆説的に「変態とは一体何なのか」というある種哲学めいた論題に真正面から解答を出している。過去の普遍と変態の狭間にいた画家たちを並べておいて,最後にドガを輝かせるという構成自体が,この解答の論証になっており,その点大変見事で,結果的に「ヘンタイ美術館」というタイトルがしっくり来る。ある意味,本書ほどドガが輝いている美術史概説書は無い。ドガがダ=ヴィンチやモネを差し置いて画家の頂点に立つ美術史概説書は前代未聞ではなかろうか。
ところで,私が本書を知ったのはこのアニラジの山田五郎登場回,本人による宣伝である。この回の中でドガの話をしているが,まだ「ドガはなぜ真の変態なのか」の話の核心はしていない。このアニラジ自体とてもおもしろいので是非。というか,これはアニラジじゃないです。アニメの話してるの,6回に1回くらいじゃないか。
・ルネサンス:ダ=ヴィンチ・ミケランジェロ・ラファエロ
・バロック:カラヴァッジョ・ルーベンス・レンブラント
・古典,ロマン主義,自然主義:アングル・ドラクロワ・クールベ
・印象派:マネ・モネ・ドガ
語られているエピソードは大体有名なものばかりで,全部知っているという人も多かろうと思う。「ヘンタイ」という観点から見ても,ミケランジェロの筋肉フェチ,カラヴァッジョの人格破綻,ルーベンスのデブ専,クールベの「世界の起源」,マネにまつわる昼ドラとか,王道のエピソードである。ただし,山田五郎のまとめ方は上手く,その点で知っていても読み応えはあった。ゆえに,全く知らない状態でも,もちろんおもしろいと思う。逆にラファエロは「別に変態じゃない」で本書で言い切られている通りで,数合わせ感は否めない。一方で,本書の特徴は各画家の変態エピソード紹介だけでなく,意外とまっとうな西洋美術史の歴史をたどった解説になっているというのがある。ラファエロは,そちらのまっとうな意味合いで数えられていると言っても過言ではない。たとえば“ラファエロ前派”はなぜ“ラファエロ”なのか(ダ=ヴィンチでもミケランジェロでもないのか)という点にもきっちり触れられているし,カラヴァッジョのテネブリズムはなぜ偉大なのか,彼がなぜバロックの開祖と呼ばれているのかにも説明がなされている。これは変な「すぐわかる! 西洋美術史」的な概説書よりもよほどわかりやすかろう。
しかし,本書の魅力はやはり山田五郎の語る「ヘンタイ」へのこだわりである。本書のタイトルに「ヘンタイ」を冠するのは,山田五郎は当初反対だったそうだ。実際,ラファエロやレンブラントは別に変態でもなんでもない。しかし,山田五郎に言わせると本書に登場する唯一の真の変態はドガだけだそうで,だからこそタイトルに「ヘンタイ」とつけるのは反対だったそうなのである。最後まで読むとその理由は非常に納得の行くものが用意されており,逆説的に「変態とは一体何なのか」というある種哲学めいた論題に真正面から解答を出している。過去の普遍と変態の狭間にいた画家たちを並べておいて,最後にドガを輝かせるという構成自体が,この解答の論証になっており,その点大変見事で,結果的に「ヘンタイ美術館」というタイトルがしっくり来る。ある意味,本書ほどドガが輝いている美術史概説書は無い。ドガがダ=ヴィンチやモネを差し置いて画家の頂点に立つ美術史概説書は前代未聞ではなかろうか。
ところで,私が本書を知ったのはこのアニラジの山田五郎登場回,本人による宣伝である。この回の中でドガの話をしているが,まだ「ドガはなぜ真の変態なのか」の話の核心はしていない。このアニラジ自体とてもおもしろいので是非。というか,これはアニラジじゃないです。アニメの話してるの,6回に1回くらいじゃないか。
Posted by dg_law at 02:52│Comments(0)│