2016年12月23日

前転ならぬ禅展

瓢鮎図東博の禅寺展に行ってきた。禅とは鎌倉時代から江戸時代前期に渡って日本の文化に多大な影響を与えてきた要素であり,特に室町時代の文化となると禅抜きにはほとんど何も語れない。ひどく大風呂敷を広げたな……と思ったらその大風呂敷通りの展覧会で,上手いこと何とかまとめてしまっていた辺りさすがは東博の企画展である。

前半は禅の歴史のお勉強で,達磨の中国渡来,そこから禅宗が芽生えて臨済義玄により臨済宗が開かれる。さらに中国で多様な禅が開くが,その中で栄西が臨済宗を日本に導入し,日本でも禅が普及していく過程を,物品を使って説明していた。そもそもこの展覧会が開かれたのは臨済義玄没後1150周年・白隠禅師没後250周年だからだそうで。中国の方の展示はさすがにそこまで充実していたわけではないが,雪舟の「慧可断臂図」が見れたので良しとしようと思う。中国の伝説的な禅僧紹介掛け軸シリーズがけっこうおもしろくて,キャプションに「◯◯をしている途中に突然大悟した(悟りを開くこと)」とか書いてあり,人間どこで悟るかわからないものらしい。自分も日々悟りを探して生きていこうと思いました(棒読み)。

一方,日本の古刹,とりわけ五山十刹・臨済黄檗十五派(重複有)の各寺院の紹介は非常に充実していて,十何年か前に高校日本史で京都・鎌倉五山の名前だけ機械的に覚えて今はだいぶ忘れてしまっている身にはあの寺そんな意味があったんだ,と十何年ぶりに情報を更新した形である。ただ,頂相にはあまり興味が無いので,師弟関係が極めて重要な禅宗であるからこその頂相とはいえ,こうも「うちの寺の祖師シリーズ」で頂相がずらっと並ぶと,壮観ではあれ若干飽きが来たのも事実である。一応,十五派が地域的にそれなりに散っていることから,「京都と鎌倉に行けば全部見れるんじゃん」と言われずに済んだ展示にはなっていたかなと。

後半は禅宗と戦国武将という企画のゾーンと,江戸時代の禅僧をピックアップしたゾーン,そして禅から派生した文化という企画のゾーンである。戦国武将が禅僧をブレーンにしていたのは広く知られた話であろう。チョイスは北条早雲・武田信玄・三好長慶・織田信長といった面々。トリを飾ったのが以心崇伝で武家諸法度の写本という構成はなるほど戦国の終わりである。以心崇伝直筆の草稿で,さすがに重文であった。江戸時代の禅僧はやはり白隠中心であった。まあ,自由な人である。禅文化のゾーンはお察しの通り水墨画と茶器が中心で,日本の茶が『喫茶養生記』から始まっていてわび茶も禅の影響があるから,茶道とは切っても切り離せない関係にある。ここでは何度見てもすごい東洋陶磁器美術館の油滴天目や瓢鮎図が私の目を楽しませてくれた。あと新田肩衝を久しぶりに見た。

こうしてみると前半は歴史に沿ったお勉強展示で後半は禅の影響力を示す総花的展示と,役割分担がなされていたのが,テーマの割に拡散した展示にならずに済んだ工夫であったのかなと思う。見応えがあって満足感は高かったが,見応えがありすぎて若干ゲップが出た感じも。こんなわがままを言っている自分は仏教的な中道の精神には程遠いのかもしれない。


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