2017年02月25日

2月に行った展覧会(都美ヴェネツィア・ルネサンス展,サントリー美術館新所蔵品展)

ティツィアーノ《フローラ》都美のヴェネツィア・ルネサンス展に行ってきた。最近やたらとよく来るなというイメージだったが,去年はこの1回だけか。ボッティチェリも頻繁に来ているイメージがあるし,三大巨匠以外も見ろよ日本人というイタリア当局の攻勢だろうか。今回の構成は去年のものとほとんど変わらず,早期のベッリーニ兄弟から,盛期のティツィアーノ,そしてティントレットやヴェロネーゼへという流れの紹介。ヴェネツィア・ルネサンスの流れや特徴については前出の拙文から付け足すことは特に無いので省略する。

展示された作品は,去年がほとんどヴェネツィア・アカデミア美術館のものであったのに対し,所蔵元が北イタリア各地に散らばっていて,そこで差別化は図られていた。ジャンルとしては肖像画が多く,次に歴史画。また,会場がかなり広い都美の企画展示室を使っていた割には作品数が約70点しかなく(油彩画はうち約50点),1品1品が大きかったとはいえ,ゆったりしとした贅沢な空間利用となっていて,それなりの人数が入っていたにもかかわらず混雑は感じなかった。キャプションでは「線のフィレンツェ,色のヴェネツィア」という美術史学上のポイントを強調していて,これを機会に覚えて帰ってほしいポイントを絞っていた感じ。しかし,フィレンツェ側の作品が展示されていたわけではないので,対比としてはわかりにくかった気も。

今回の目玉はティツィアーノの《フローラ》で,花の女神と称されるだけあって華やかさを感じる作品である。ただ,ふくよかな肉体に比して小顔すぎるような気はしていて,顔を見てから身体を見ると,さすがに豊満すぎるだろうと感じてしまうのは現代人の感覚だからだろうか。ともあれ画面中央のはだけた肌がやはり一番の見どころであり,胸に向かうなだらかな曲線を強調するための小顔と豊満さであろう。その他のティツィアーノの作品としては《ダナエ》や《マグダラのマリア》,《教皇パウルス3世の肖像》等が来ていた。良い物をたくさん見たという率直な感想はあるものの,それ以外の感想はあまりない。



デルフト焼「染付唐草文大壺」サントリー美術館の新収蔵品展。二人のコレクターから寄贈されたものを展示。一人は野依利之氏で,ご存命。美術商であるが,この度自らのコレクションの一部を寄贈した模様。本業はアール・ヌーヴォーの美術品の収集・売買だが,今回の寄贈品のほとんどは15〜17世紀の陶器である。ヨーロッパ陶器勃興の時期で,最初にスペインのマジョルカ島で誕生したためにマヨリカ焼と呼ばれる製法は,イタリアで発展して全欧に広がった。錫釉をかけることと二度焼きをすることで白く見えることを発見して生まれたこの製法は,それまで金属器の食器が主流だったヨーロッパを席巻した。

しかし,その直後ともいうべき大航海時代に,はるか東方から優れた陶磁器が入ってきたものだから,ヨーロッパ人は驚いた。言うまでもなく,中国や日本の焼き物である。そして,オランダのデルフトを中心に,今度は目指せ東洋の神秘という運動が始まる。ヨーロッパ人にとっての,オランダ人にとっての不幸は白く輝く磁器にふさわしい土がなかなか見つからなかったことである。マヨリカ焼の白さではまだくすんでいて,磁器には勝てない。そこで,土の種類のハンデを覆すべく,製法の革新に向けた涙ぐましい努力が行われた。その成果がいわゆるデルフト焼である。本展覧会は,こうした歴史を語るとともに,マヨルカ焼からデルフト焼の流れを紹介し,デルフト焼の精華が展示されていた。……とまあ紹介しておいてなんだが,個人的にはやはり「その努力は認めるが」という感想で,やっぱり磁器の方が好きだ。デルフト焼は確かに真っ白に近いのだけども,それでも日本や中国・マイセンの磁器の輝く白さを頭に浮かべて比較すると,まだ“足りない”。ただ,美しさは横に置いといてみると,確かにこれはひょっとして磁器なのでは……と疑ってしまう程度には再現度が高く,技術的にはとてもおもしろい展示であった。野依氏からの寄贈品の最後に,エミール・ガレの陶器という珍しい作品が4つだけ置いてあって,これはこれで興味深かった。ガラスのイメージが強いという人はぜひ。

もうお一方,辻清明氏は本業が陶芸家で,2008年に亡くなられている。そして寄贈品はガラス器中心で,今回の寄贈者はお二人とも本業以外からの寄贈となっており,見事にクロスしている。父親は実業家だったが,その父親に買ってもらった野々村仁清が陶芸家になる契機だったというから,豪快なエピソードである。

辻氏が集めたガラス器は古代ローマ・ササン朝以降のイラン・中国・ヴェネツィアングラス等多種多様だったようで,こちらも時代が新しくなるとガラスの透明度が増していくという技術的進化が見られる。その中で,あえて逆行して透明度ゼロのガラスを追求していた乾隆帝時代のガラス器もおもしろかった。コレクションで一番多かったのは日本のガラス器で,江戸後期から幕末にかけて進化した江戸時代の色ガラス・切子が豊富に見ることができ,完全に目の保養であった。

なお,今回の展覧会は事実上常設展であったためか,写真撮影OKである。私が行ったタイミングでは一眼レフ構えたカメラガチ勢は全くおらず,皆スマホでパシャパシャ撮っていた。そういうわけで今回の画像は自分のスマホで撮影したもの。デルフト焼のうち,染付再現度が特に高いなと思ったものをピックアップ。

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この記事へのコメント
2016年は、日伊国交樹立150周年ということで、イタリアがらみの催し物が多かったようですね。
https://partner-web.jp/article/?id=640

歴史書も、ガリバルディの伝記が(新書とはいえ)出たり、ルネサンス史が再版されたりしてましたw
Posted by とーます at 2017年02月27日 11:12
2016年は、日伊国交樹立150周年ということで、イタリアがらみの催し物が多かったようですね。
https://partner-web.jp/article/?id=640

歴史書も、ガリバルディの伝記が(新書とはいえ)出たり、ルネサンス史が再版されたりしてましたw

(URL欄に間違ったものを入れてしまったので、再投稿しました)
Posted by とーます at 2017年02月27日 11:13
それはけっこういろんな展覧会(の冒頭の挨拶文)で見たフレーズですね。

2013年も「日本におけるイタリア年」と銘打っていろいろなイベントをやっていて,3年の間が空いているはずなんですが,なんだかんだでその間も大規模展覧会があって,ずっと続いている感覚がしますね。

URLは気にしないでください。
(そのURLは私も前にひっかかって気になって調べてみたことがあるのですが,スパムみたいなもののようです)
Posted by DG-Law at 2017年03月01日 09:09