2017年07月26日

先場所の繰り返し

先場所をコピーしたかのような,全く同じ展開であった。優勝争い然り,それ以外の要素然りである。その意味でも,けが人が多かったという意味でも,単純に相撲内容という観点から言ってもあまり出来の良い場所だったとは言いがたく,私自身の仕事やら出版作業やらが忙しくじっくり見れていないということもあって,白鵬の記録と何人かの個々の力士を除けば非常に印象が薄い場所となった。見ていておもしろかったかと言われると,なんともである。

白鵬の通算1050勝はまた1つ偉業が増えたのだが,北の富士がNHKの解説で言っていたように「すでに勲章が多すぎてコメントのしようがない」。少なくとも1100勝くらいまでは行くだろうし,完全に単なる通過点であろう。次は幕内1000勝が目標とのことだが,現在956勝であることを踏まえると楽勝の領域,幕内40回目の優勝に至っては来場所達成になりそうな様相である。日本国籍取得についての噂も飛び交っているが,個人的には少し残念である。白鵬はモンゴル国籍を保ったまま協会に残るというチャレンジをしてほしかった気もするし,彼にはその資格があるだろう。


個別評。39回目の優勝を果たした白鵬であるが,相撲振りについては先場所と全く同じなので書くことがない。防御面では足腰の強さが多少なりとも戻ってきていて,攻撃面でも「全盛期よりはワンテンポ遅いけれども,それでも十分な速度と威力」というところ。ただ,今場所散々指摘されていたが,立ち合いほんと正面から当たらなくなった。張り差し・かち上げの他に,当たってすぐに左にずれる動きも増えていて,私自身はあれは変化だとは思っていないのだけど,人によっては変化と指摘するかもしれない(あれが変化になるなら日馬富士の立ち合いも少なからず変化になるが,両方とも変化だと言っている人は不思議と少ない気が)。

日馬富士は並の出来。稀勢の里は横審が来場所全休を勧告していたが,珍しくも横審にしては全力で同意できる判断。鶴竜は来場所の勝ち星が一桁なら進退を伺われてもおかしくはない状況。ここ4場所が5勝(休場)ー10勝ー1勝(休場)ー2勝(休場)で,10勝の場所の内容がひどかったので。ただし,5場所前は14勝優勝であるし,勝っている相撲だけ見れば相撲内容が極端に落ちたとも言えず,大きなケガがあるわけでもないから,来場所11勝くらいしてくれればしばらく延命しよう。

大関陣。照ノ富士は,場所前の手術は遅すぎる英断だったと思うが,さすがに調整が間に合わなかったか。来場所は稽古が間に合うと信じて。豪栄道は絶不調で,よく7勝できたなという印象。豪栄道の相撲は2016年9月の優勝で以後様変わりしていたが,今場所はそれ以前に戻る雑な相撲が多く,しかも不調なら不調で何とかしてしまう必殺技「首投げ」も今場所は見られず,一体何があったのやら。首投げできないようなケガでもこっそり負っていたとしても全く驚かない。7勝できたのは周囲の不調に助けられたのかもしれない。いや,負け越しているので助かってないけど。高安は大関になっても連敗癖は直らんね,と。連勝中の相撲の出来自体は悪くなかった。

関脇・小結。玉鷲は周囲の対策が進んだだけかと思う。やはりこの年からの大関取りは難しいか。代わって躍進著しかった御嶽海だが,こちらの評価は難しい。好調ではあったものの,相撲振り全体を見回してみると先場所から大きく力量が増したかと言われるとそうでもないような。攻撃力は高いが守勢に回ると脆かったかなと。嘉風は引き続きすごいですね,としか言えない。偉業だよほんと。琴奨菊はノーコメント。まあ,こうなると思っていたくらい。

前頭上位。正代はやたらと動きが鈍く,ここ数場所では最悪の出来だったと言ってよい。ケガでもなさそうだし,何だったのか。同じ星数だが,貴景勝の印象は悪くなかった。しかし,となると絶不調で5勝と奮闘しての5勝,どちらがよいのかという話かもしれない。ここに来て押し相撲が開花しそうなのは北勝富士で,御嶽海・正代・宇良に次ぐ若手四番手に成長したか(ここに輝と阿武咲を入れると6人衆になる)。宇良は右膝のケガだけが心配。右膝を軸にして防御を固めつつ動き回って撹乱するのが宇良の基本戦術なので,右足が機能しないと相撲全体の動きが止まる。後半の相撲は悲惨であった。輝は腰高い日と低い日に綺麗に分かれ,低い日は勝てるが高い日は負けるという単純な様子。まあ,全日高かった以前に比べれば随分と進歩している。

若手以外では栃ノ心の動きが良かったが,来場所も続くとはあまり思えない。栃煌山は「ここ数年で一番体の状態が良い」と自分で言っていたが,言うだけの動きではあった。12勝したとはいえ,それがこの地位で現れてしまったのは惜しく,どうせなら関脇・小結の地位でその状態であったら良かったのに,とは思う。

前頭中盤。阿武咲は来場所上位初挑戦になるが,どこまで通用するか。今場所までの出来を見る限りでは,輝・貴景勝と同程度で5勝かなと思う。逸ノ城は覇気のある日と無い日が極端で,ある日はぼちぼちの相撲になるが,無い日は身体に比して粘りがなさすぎる。対戦相手と星数で覇気を決めているようにも見える。覇気がないという点では隠岐の海も同様だが,どの程度病気の影響なのか。碧山の13勝は大したもので,番付と実力を考えれば上りエレベーターではあるのだが,それにしたってよく勝った。千代大龍は久々に幕内で活躍した。突き押しの威力がかなり戻ってきているのは間違いなく,MSP(明月院スペシャル)が出たのも彼にとっては好調の証と言えるかもしれない。前頭中盤最大の収穫は,案外千代大龍の復活かもしれぬ。

前頭下位。千代の国の相撲がアクロバティックなのは以前からだが,今場所は勝ち負けともに派手で,終わってみると8−7という地味な星に落ち着いたのは一周回って順当か。勝つときだけ派手ならもっと上で活躍できるのだが。豪風と宝富士は番付を考えると星数が少なかった。豪風は動きが悪そうに見えなかったが,最後二日は対戦相手が悪かった(碧山・輝)。なんでまたあんな前頭上位の力士と。宝富士は実は不調だったのではないかと思う。最後に千代丸。彼もまた久々に幕内で見た力士だが,丸い腹を上手く使った相撲を取っていた。豊ノ島を彷彿とさせる腹の使い方で,あの形にさえ持っていければ勝てるのだが,そうならない展開になると脆い。とりあえず前頭中盤では通用するが上位には通用しなさそうに見えるが,どうか。



小結が1つの焦点で,玉鷲を落として栃煌山や碧山を入れるというパターンもある(琴奨菊はこれ以上落ちないだろうし,北勝富士は上げられる星数ではない)。幕尻は非常に窮屈で,安美錦と妙義龍は非常に僅差なのに片方しか上げられそうにない。さりとて徳勝龍と蒼国来も本来あれば落ちない可能性が高い星勘定なのに落とさざるを得なさそうで,さてどうなるか。

2017年名古屋場所

この記事へのコメント
三役が怪我で早々に休場、御嶽海の速攻が決まって白鵬が優勝争いをしてくれたから盛り上がった場所でした。
ベテランはさておき、遠藤・照ノ富士を見ていると、有望力士が怪我で挫折するパターンがもったいない。宇良は大丈夫なのか、旭日松の足は長引きそう。

日馬富士は序盤の黒星が残念。千秋楽の横綱対決は盛り上がりましたが、組んで長引けばそれだけで白鵬有利なので、できれば5秒位内に決着を付けて欲しかった。

御嶽海はがんばって、正代は振るわず。貴景勝は星の割に印象がいいですね。北斗富士は新鋭のはずなのに、顔立ちなのかそれとも風格なのか、ベテランっぽく見えてしまう不思議。今場所も活躍してくれました。

十両陥落は、大負けした里山と新十両だった翔猿、力真にもう一人は誰だったか。幕下優勝でスピード出世の矢後が新十両として楽しみです。舛乃山は序二段優勝を逃して残念、炎鵬は連続優勝で小兵ながら先々に期待。

鳰の海はようやく怪我が治ってきたようですが、常幸龍は足腰が痛々しく千秋楽で負け越してしまいました。怪我は怖いですね。
Posted by EN at 2017年07月28日 14:11
今場所は面倒な記事更新になってしまっていて,すみませんでした。

さて,日馬富士は序盤に落としますね。連勝しながら調子を上げていくタイプなので,序盤はどうも調子が出ないのかも。鬼門の三日目は勝ちましたが。千秋楽の相撲は,白鵬に見事にかわされた形で,むしろよくあそこから長期戦に持っていったと思います。

北勝富士は確かにすでにベテランっぽく見えますねw 容姿によるところは大きいかと。

里山は残念ですね。twitterのフォロワーさんにファンがいて,負けるたびに嘆いていたので気になってはいます。
舛ノ山は序二段優勝間違いないだろうと思っていましたが,炎鵬が強かったですね。
常幸龍は厳しい状況ですねぇ……千代大龍は復活してきたので,こちらにも期待したいところです。
Posted by DG-Law at 2017年07月30日 16:49
今場所もお疲れ様でございます。
というかお勤めご苦労様です!!(キ▼皿▼)

さて冒頭で書いてらっしゃる通り、今場所はあんまり面白くなk(ry
横綱が休場してるとかそんなんではなく単純に相撲内容が面白くなかったですね。ただそれとは別に白鵬の大記録は素晴らしいものだし、宇良他、貴景勝や北勝富士、輝、阿武咲などの頑張りが光っていたので、要所要所では盛り上がった感じもあります。

白鵬は全盛時代とは大分相撲の取り方が変わって来たものの流石に引き出しの多さでカバーできますね。むしろこれは攻略できない対戦相手側に問題があると言えます。そこを上手く突いたのが御嶽海だったわけですが、正直御嶽海もそんなに勝つ気無かったんじゃね?と私は思ってて、要するにもう白鵬に対して、そこまで全力で当たっていかなくてもいいのではないかと。8割方スカす立ち合いだし2割は張り差しからのカチ上げというパターンだから、立ち合い様子を見て行っても一気に押し込まれて土俵を割る事はほとんどないと思うんですよね。付き合って動いてしまうとスピード自体は超速なんで左上手取られて終わり。距離を取りつつ引いてくれるのを待ってればもうちょっと勝率は上がりそうな気もします・・・と講釈垂れまくったわけですが、そもそもこの日は何故か白鵬が左四つに行った(ように見えた)ところから謎なので私の考えた攻略法が正しいかどうかは分かりません(笑)
Posted by ( д)゜゜ at 2017年08月02日 13:02
日馬富士はここ最近の「尻上がり」パターンが今場所も発動。ですが連敗スタートはちと厳しかったですね。
豪栄道は良い相撲と悪い相撲が4:6ぐらいで全部ダメダメってわけでもありませんが、さほど印象は無し。強いて言えば来場所は去年の再現が出来る舞台が整ったw
いつの間にか注目されなくなってた高安は何ともコメントのし難いところ。カチ上げて行くのはまぁいいんだがその後の攻めが無いのが・・・二の矢の攻めの研究が急務ですね。

他、注目力士・・・
【宇良】
単純に面白いですね。膝の怪我は気の毒だったが普通に上位でも通用してる所、1年後ぐらいには大関候補に割って入ってるかも?

【栃煌山】
今場所は白鵬との対戦が無いと確信して活き活きしてたようなw

【阿武咲】
しばらく十両で燻ってましたが、ここに来ていきなり爆発した感。来場所通じなくても良いから今まで通りのぶちかましでどこまで通用するか見てみたい。

【碧山】
そんなに印象は無いんですけど随分勝ちましたねぇ・・・。

【千代丸】
逆に印象深かったのがこっちwあの右四つからの腹出し、もっと磨けば技能賞にも値する。


新入幕濃厚の朝乃山は上手を取ると豪快で強いんですが、今場所見ても分かる通り昔から大一番で緊張するようで何となく稀勢の里と同じニオイがします。あと上手の取り方も悪いんで(上から取る把瑠都式)しばらく苦労しそうな気も。それが直れば三役は間違いなしですが・・・。
ところで先場所、私が推した中園くんが膝を怪我して復帰未定の療養に入ってしまいました(泣
手術も受けるそうですが、せめて心だけは折れないように・・・。

あと重箱の隅をつつくような指摘で申し訳ないんですが、手さばきの方のブログで初日の大翔丸の相手が荒鷲のところ栃ノ心になっておりましたのでご確認を。

ご多忙のようですが死なない程度に頑張ってくださいwそれではまた来場所 ノシ
Posted by ( д)゜゜ at 2017年08月02日 13:03
今場所もお疲れ様でした。本業,8月は割りと楽そうなんですけど,9月がまた忙しそうなんですよね。相撲的には逆の方がありがたい。


>横綱が休場してるとかそんなんではなく単純に相撲内容が面白くなかったですね
やっぱりそういう評価になっちゃうんですよねw
おっしゃる通り,要所要所で見ていけばそれぞれでまあ,というところでした。

対白鵬は立ち合いのずらしを突破するのが第一関門,その後離れて取るか一気に押し込むかですかね。できる力士がなかなかいない……


>豪栄道
やっぱり優勝フラグですかねw

>【宇良】
右膝はそこまで重傷に見えないので,来場所元気な姿で見たいですね。

>【阿武咲】
先に貴景勝や輝が上がっていったので,比較してどのくらい上位で取れるのか,ですかね。

>【碧山】
単純に家賃がめちゃくちゃ安かった,連勝するうちに調子が上がった,というところはあるかと思います。それでも11勝くらいで止まると思っていたので,終盤はそこで注目してみていたので,私的な印象は良いですね。実力が大きく伸びたとは思いませんが。

>【千代丸】
間違いないですw
記事中にも書きましたけど,腹の使い方は豊ノ島に次いでいいですね。いつかあれで技能賞取ってほしい。


今場所は忙しかったのもあって全然十両見てなかったんですが,朝乃山はそんな感じですか。
出張所の方は直しときます。ちなみに,それ以外にもけっこう左右が間違ってて,後から気づいて直しているということがけっこうあります……
Posted by DG-Law at 2017年08月04日 02:03