2017年12月13日

最近読んだもの・買ったもの(『東方鈴奈庵』他)

・『東方外來韋編』4巻。
→ 特集は東方天空璋と10周年の風神録。実は忙しくていまだに天空璋はあまり調べておらず,摩多羅神の本も読みたいなと思いつつ積んですらない状況であるので,本誌はネタバレの宝庫であった。
→ 当初のテーマが河原者・障害者だったところ,説教臭くなりすぎる(または逆に茶化した印象になってしまう)のであえてわかりにくい作りにした,摩多羅隠岐奈が座っているのも当初の案では椅子ではなく車椅子だった。幻想郷の起源の一つがそうした被差別階級であり,その守護神としての摩多羅神が「幻想郷の賢者」の一人(一柱)になっているというのは衝撃的な設定だった。確かに現世から文字通り隔離された存在であったのは,むしろ過去であり,言われてみると幻想郷の設定には近い。なんだろう,柳田国男の話というよりも網野善彦の話になるのだろうか。
→ 「幻想郷の賢者」であることが明確になったのは,これで八雲紫,摩多羅隠岐奈,茨木華扇の3人か(八意永琳は月の賢者なので別枠として)。ここに来て急に増えたし,今後増えていくのかな。Phではないものの,6ボスとEXボスを兼ねた初のキャラで,特別感は強い。そういう意味では華扇ちゃんの立場がないが。
→ 風神録についての神主インタビュー。風神録を作る際に会社を辞めたことについて「出版社から儚月抄の原稿で新卒サラリーマンの月収くらいは出せます」と言われたから安堵して風神録が作れた,と言っているのは興味深い裏話。儚月抄,作品自体は散々な評価ながらそんなところで役に立っていた。また,風神録から神霊廟・心綺楼くらいまでの東方のテーマが「信仰」だったのはねらい通りとのことで,なんなら風神録が聖地巡礼しやすいのも狙いの範疇だった模様。三度も諏訪に行った私は完全に掌で踊らされている。「東方は宗教」というネタフレーズにも触れられており,神主公認になってっしまった。まあ仕掛け通りではあるわけで……ちなみに,インタビュアーによる注釈によると,「東方は宗教」の初出は2006年頃で,実は「Fateは文学」「CLANNADは人生」のコピペは2007年10月であるから,実は「東方は宗教」の方が早いらしい。よく調べたな(完全な揶揄なので誇れない歴史であるが)。
→ インタビューはいつもの同人ソフト勢以外に,石鹸屋。来歴が語られているが,メンバーの入れ替わりが本当に激しいバンドであるw。秀三が毎回咲夜さんのコスプレをしている理由も語られている。そして今回の雑誌付録のCDは石鹸屋アレンジ。ちなみに,99%のブログ読者にとってはどうでもいい情報だと思うが,私は石鹸屋なら「D-89」「もう歌しかうたえない」あたりが好きです。
→ もう一つの特別インタビューは比良坂真琴さん。最初期に出した同人誌が『ぱすチャ』『痕』でKey作品というあたり,完全にプレ東方世代の典型例であった。そして妖々夢から東方へ。「キャラの等身がどんどん縮んでいく」のは自覚があるらしいw。一方で,「こういうロリっぽい絵しか描けないと思われがちなんですが,そこまで趣味100%というわけではないので,普通の等身のお姉さんも描いていきたい」と言っているのはやや意外。
→ 幻想郷人妖名鑑は風神録の面々。漫画はいつもの面々が描いている感じ。あらたとしひらさんが描いている「新旧女子高生対決」が一番笑った。


・『東方茨歌仙』8巻。
→ まさかのヒダル神登場で『咲-Saki-』とネタかぶり。そんなマイナーな神様で……と思ったが,マイナーだからこそ東方と咲でかぶったのだと考えると不思議ではなかった。
→ 索道(ロープウェイ)完成。多分永遠に完成しないと思っていた読者が多数だったと思う。神主が完成させる気だったことに読者は驚いている。なお,あずまあや氏曰くリアルタイムで3年半かかっているとのこと。索道の労力は水力。川・滝または間欠泉を電力化することなく,そのまま活かしているとのこと。そして神社・天狗・河童の三方が全員得する展開を考えた神奈子様マジ切れ者。


・『東方鈴奈庵』7巻(完結)。
→ 人間は妖怪たちによって里を守られ,妖怪たちは人間たちの恐怖によって生存を許させる。そんな人妖のせめぎあい,相互補完の場としての幻想郷。これに加えて人妖の境界線上に立って上手く調整するアウトローの人間たち(『幻想郷縁起』の言い方をすれば“英雄”)という3者がいて,幻想郷は成り立っている……という構図を,本居小鈴というただの人間がアウトロー側に移動するエピソードによって描き出した。確かに,言われてみると「妖怪は人間を脅かし,人間は妖怪を退治するもの」という設定だけあって,「とはいえ妖怪は基本的に人間よりも強いが,その妖怪を退治できる人間ってなんだ?」という疑問にはほとんど触れられてこなかった。博麗の巫女が特権的な立場にいて,普通の人間とは一線を画しているという設定は昔からあったが,では魔理沙や咲夜や早苗は,能力自体はともかく,何の権利があって人里に住んでいないのか? 妖怪を退治しているのか? ということについては,神主があえて放置してきたように思う。
→ 東方projectも様々に作品が増えてきたものの,実は設定資料でもなくゲームでもなく,ちゃんとした作劇として設定を描き出したのは,本作が初めてではなかったか。ゲームではどうしてもアウトローと妖怪だけにフォーカスがあたり,設定資料集では文字通り「設定」なので,内実がわからない。そこへ行くと,人間・妖怪・アウトローの関係が明確に,わかりやすく“物語として”描き出されたという点で本作は大成功の傑作であり,本作により幻想郷の姿は随分とリアルになったように思う。
→ それはそれとして,本作のもう一つの功績は春河もえという人材の発掘で,絵の上手さはこれまでの東方公式絵師の中でも随一であった。これから東方作品の漫画を新たに手がけるのか,全く別の漫画を描き始めるのかはわからないが,注視しておきたい。