2017年12月25日
白・青・金に輝くセーヴル
サントリー美術館のセーヴル焼展に行ってきた。セーヴル焼はフランスが誇る高級磁器の製造所・ブランドであり,創立は1740年代になる。当時はまだマイセンが唯一磁器の焼成に成功していた時代で,ヨーロッパ文化の中心地フランスとしては,威信をかけてこれに対抗することになった。当時のフランスはマイセンのあるザクセン王国からの輸入が膨大になり,重商主義の観点から言えば非常に不都合な状況となっていた。マニュファクチュアで生産できる高級材の輸入代替化を図りつつ,やがては輸出産業に転換させるべく国内産業を保護するのは,重商主義の典型例である。このことは美術史だけを見ていると忘れがちであるが,当時の磁器は紛れもなく重商主義の急先鋒をなす重要な“産業”であった。本展覧会,この辺りにも触れていたのは良いことであった。こうして開業したセーヴル焼は,当初は軟質磁器(ボーンチャイナのような不完全な磁器)を作りつつ,マイセンから技術を学びつつ,国内で良質なカオリンが産出できる場所を必死に探すという経営方針であった。なお,セーヴルが選ばれたのは,ここが庇護者ポンパドゥール夫人の領地であったからである。そのかいあって,1768年にやっと鉱脈が見つかり,1773年に初めて硬質磁器の焼成に成功する。この頃のセーヴル焼の特徴は,結果として軟質磁器と硬質磁器が混在していたことと,先行するデルフトやマイセンが中国や日本の陶磁器の影響を強く受けた装飾であったのに対し,セーヴルは後発の強みでそこから脱し,純西洋風の装飾を売りにしたことである。このマイセンからの差別化,そしてそれが極めて上手くいったことは大変に興味深い。また,軟質磁器は硬質磁器に比べて柔らかく焼成中に変形しやすいという欠点があったが,かえって技術的に鍛えられることとなり,結果として技術水準が急速にマイセンに近づくことになった。色彩もカラフルになり,特に「ブリュ・ド・ロワ(王の青)」と呼ばれる独特の青色はセーヴルの代名詞となる。私もこの青色は大好きで,磁器という素材もあって非常に透明感が強い青色は確かに高級感がある。砧青磁を見ている時の感情に近い。白磁の白,豪華な金彩とそれらを調和させる青の三色構成はこの時代にすでに完成を見ていた。創業から約40年,異様なまでに急速な進歩である。
そしてセーヴルは硬質磁器の開発からわずか20年足らずでマイセンを追い抜き,ヨーロッパ随一の陶磁器ブランドに駆け上がっていった……ところで暗雲が立ち込める。ご存じ,フランス革命の勃発である。とはいえセーヴルは王立から国立への看板の架け替えを行うという,ルーヴル美術館等と同じ手法で革命の荒波を乗り越えることになる。フランスは19世紀の前半,ナポレオン・復古王政・七月王政・第二共和政と政体が目まぐるしく変わるが,国立となってからはさしたる動揺がなかったようだ。産業としての重要性もあれば,文化的威信の中核というのもあり,為政者も簡単には手を付けられなかったということであろう。同時期のセーヴルは発展する科学技術と歩調をあわせてさらにカラフルに,技巧的に,過剰装飾になっていく。また古代ギリシアやローマの模倣や,あるいはマイセンとは逆にこの時期になってシノワズリをやってみたりと,いわゆる「歴史主義」的な作品も作っているし,世紀末にアール=ヌーヴォーを展開するのも早かった。
20世紀に入ると,過去の名作の大量生産と,芸術家とのコラボによる一品物生産を並行していくことになる。この芸術家とのコラボ路線の一種の転換点になったのが1904年,日本の彫刻家の沼田一雅を初の外国人協力者として受け入れたことだそうである。他の西洋諸国を差し置いて日本人やるじゃないか,と思いきや,調べてみると当時としては練習生扱いだったようで,沼田自身も当時まだ日本ではメジャーではなかった陶磁彫刻を学びに行ったという意識だったようであるから,「芸術家とのコラボ」に数えてよいかは難しいようだ。この辺,サントリー美術館さんサイドのキュレーションに無理があるのでは。安直な日本ageに乗っかったようで,帰宅後に調べてから微妙な気分になった。
その後も芸術家とのコラボは続き,2005年には草間彌生とコラボしたそうで,その作品も来ていた。作品を見た感想は……うん……まあ,草間彌生だよね,としか言えない……。草間彌生含めて20世紀以降の芸術家コラボ路線はまさに「現代芸術」としか言いようがない作品が多く,過去の名作との乖離が激しい。私個人が現代芸術嫌いなので当然バイアスはかかっているものの,これらがセーヴル焼と言われても首をかしげるところはある。とはいえサントリー美術館としては草間彌生は“押し”で,その作品をスマホで写真に撮って各種SNSに投稿することを推奨していた。私は乗らなかったが。
なお,本展覧会はサントリー美術館の後,大阪の東洋陶磁美術館,山口県の萩美術館,静岡市美術館と広く巡回するので,見やすいところでどうぞ。
Posted by dg_law at 07:00│Comments(0)