2018年03月28日
鶴竜,薄氷の優勝劇
相変わらず外野は騒がしかったが,土俵の上はそれほど悪い印象がなく,それなりに熱戦が多かったように思う。横綱欠場が常態化しており,にもかかわらず今ひとつ変革の様子が見えない幕内上位陣よりは,次の時代を見据えた戦国時代になりつつある中盤の方が見応えがあったかもしれない。優勝争いが混沌としているようで,あっけない終わり方をしたというのは今の幕内上位陣を象徴する光景であった。世代交代というのには今ひとつどころか,今二つくらい欠いているものがあるように思う。
半ば私事であるが,実は今場所全部AbemaTVで見て,休日だけ並行してNHKもつけるというスタイルで初めて視聴してみた。AbemaTVは話題になっているように,
・常にBGMが流れている,しかもヒップホップ
・仕切りの間にCMが流れる
・3日に2日ほどはビギナー枠のゲストが登場し,解説と実況が事細かに大相撲の基本を説明する
・押し力士には無駄にかっこいい紹介Vと謎のレーダーチャートや力士特有のエピソード集が表示され,格闘番組というか格ゲーじみた紹介をしている
といった特徴がある。通して見た感想として,まずBGMとCMは慣れると意外と気にならない。ビギナー枠のゲストは当たり外れが大きく,今後の改善点。他種目のアスリートだったり,頭の回転の早いアイドル・タレントだと大当たりで,特に自身の野球経験を元に語る稲村亜美は大当たりだった。解説は淡々としている人は向いていないが,比較的若い親方や元力士が来るとやはりおもしろい。最高なのは把瑠都の解説。素人目線の解説に慣れているし,適度に挟まれるギャグもおもしろく,解説が非常に的確で技術論が良いし,物言い後の判定等もほとんど予言が的中していた。最後に,紹介Vはよくできている。ちゃんとかっこいいし,特徴が出ている。一方,レーダーチャートとエピソード集はかなりまずく,作り直してほしい。レーダーチャートは基準がバラバラで根拠がなく,実態に即していない。エピソード集は面白いものもあるが,こちらも確証の無いあやしい情報がかなり含まれており,力士に失礼であろう。AbemaTV自体の使い勝手として,ログイン不要・録画しなくてもいい手軽さが最大の魅力で,十分な画質で蛇の目の砂等も十分にわかる。総合すると十分に及第点で,ゲストの様子を見ながら来場所以降も積極的に活用していこうと思う。
個別評。優勝した鶴竜は,よく優勝できたなというくらい悪い出来で,11日目の逸ノ城戦のように力を見せたところもあったが,12日目の栃ノ心戦のように真正面から当たって負けた日もあった。結果として,基本的には引きに引いての薄氷の勝利が多く,一歩間違っていたら13勝2敗どころか10勝5敗となっていた。これについては鶴竜自身に自覚があり,右手薬指のケガが治っておらず,まわしをつかむと強い痛みが出る状態であったから離れて取る相撲にならざるをえず,かといって突き放すのは得意ではないから必然的に引く相撲になったとのことである。相撲の神様が8場所も耐えに耐えた鶴竜に報いを与えたということかもしれないが,それにしてもこの状態の鶴竜を前にして優勝をかっさらえない大関二人が情けないという話もある。したがって,鶴竜が地力を強めたとか復調したという感触は全く無く,来場所以降は不安定飛行に戻りそうで,11勝4敗と予測しておく。
大関。高安は本当に惜しかった。立ち合いの当たりの強さ,当たった後の押していくか組むかの判断,押しと踏み切ったときの突進力も組んだ時の投げのキレもどれもよく,相撲が完成されてきた。一方,負けた3つはどれも不用意な負けで地力が発揮できていない。特に12日目の千代丸戦の敗戦は今場所の流れを完全に変えてしまった。あれを落としていなければ13勝2敗で千秋楽優勝決定戦であり,こうなると高安に分があっただろう。千載一遇のチャンスを逃したと言ってよい。ところで,北の富士氏が「2場所連続の12勝で準優勝であるから,来場所全勝優勝なら横綱昇進の審議にかけるべきでは」とコメントしていた。横綱昇進は「直近2場所が連続で優勝に準ずる成績」であり,また過去の慣例から「直近3場所で36勝」にも引っかかる。あとは優勝経験や過去1年ほどの成績の安定感が加味されるが,高安はケガでの休場を除けば関脇時代から十分に安定しており,来場所優勝なら優勝経験も解消される。したがって,来場所全勝どころか14勝で優勝なら十分に昇進水準であり,むしろ審議にかけられない方がおかしい。個人的には北の富士氏の意見に賛成であるが,世間的にはほとんど反応が無いのが残念である。
豪栄道はやっぱり地元で応援が加熱しすぎるとプレッシャーで力出ないよね,という擁護はできるか。そういえば今場所は首投げを見なかった。首投げが出る時は不調であるが,今場所が好調だったようにも見えず。どうしたのかな。
三役。御嶽海はとうとう関脇を陥落した。7−8ではあるが,出直しに近い。突進力が効く日と効かない日の差が激しく,極めて連相撲の傾向が強い。本当にあの連敗癖はなんとかならないものか。地力は間違いなくあるが,このメンタルでは大関とりはおぼつかない。栃ノ心は相撲ぶり自体は先場所とほぼ変わらず。にもかかわらず10勝で終わったのは運もあるが,かなり対策が立てられてきたというのも大きい。10勝に乗せて大関とりの声もあるが,11勝にならなかったのは厳しい。来場所は大の苦手の白鵬が戻ってくるであろうし,どうか。逆に来場所11勝するようなら本物で,むしろ来場所12勝以上を挙げるようなら,先場所の前頭3枚めでの14勝も加味していきなり大関とりを審議してもよいと思う。逸ノ城は復活したようなしてないような。相変わらず相手を見てやる気を出すかどうか判断している癖はあるが,勝てそうと見なす水準がかなり上がっているようで,やる気のある相撲が多かった。千代大龍はまあ,下りエレベーター。
前頭上位。遠藤はやっと来場所小結である。長かった。人気はあるのに,どうも運がない。相撲ぶり自体は特に変わりがなく,論評しようがない。玉鷲は本当に衰えんなぁ。正代はこんなところで負け越しとは。もろ差しにこだわって自滅する傾向が強かった先場所までに対して,今場所はもろ差しにこだわらなかった相撲が多く,それは良いのだが動きがかえってぎくしゃくしていた。フォームチェンジ中の負け越しだとすると仕方ないのかもしれない。
前頭中盤。魁聖は12勝で立派。負けたのが全部上位陣なのは良いのか悪いのか。それよりは阿炎の10勝の方がインパクトが大きく,動きが激しく見ごたえのある突き押し相撲を取る。本人のビッグマウスやキャラの明るさもあって,あっという間に人気力士の仲間入りしそう。阿炎ほどではないが,大栄翔も突き押しの良さが目立ち,9勝という勝ち星以上に印象があった。千代の国は動きは良かったが,動きが良すぎるというか無駄な動きが多く,あれで体力を消耗するから動きの良さの割に勝てないのでは,と今場所観察していて思った。
前頭下位。栃煌山はいよいよここでも大きく負け越しで,進退が極まりつつある。まだもう少し華麗なもろ差しが見たいし,衰え方が急速すぎるので心配である。勢は豪栄道とは逆に声援をパワーに変えて上りエレベーター。大奄美は10勝していたが,いつの間にか大勝していた感覚で,正直印象がほとんどない。
最後に。大砂嵐が引退した。エジプト出身で,アフリカ大陸初・中東初でムスリム初という初づくめの入門であり,しかも関取になった。2012年3月での初土俵から所要8場所で新十両,2013年7月に所要10場所で新入幕と史上最速ペースで出世し,将来を嘱望された。稀に見るとんでもない膂力の持ち主で,立ち合いのかち上げまたは諸手突きからそのまま突き押していくか,組んでから強烈に引き付けて寄っていく取り口であった。反面,器用さは無く引けばはたきは不格好で,寄りの形はまずくないものの投げ等の工夫がなく,攻めが単調だったために幕内では上手く通用しなかった。身体が非常に固く,無理な体勢でこらえるため膝のケガが頻発し,2015年の上半期あたりで早くも限界が見え始めた。2016年は十両と幕内を行ったり来たりしていたが,2017年には十両に定着してしまっていた。その矢先,2018年年初に無免許で交通事故を起こした。しかも協会に即座に報告せず,警察の取り調べに対しても「妻が運転していた」と虚偽の説明をしていたことが発覚した。協会はそもそも力士の運転を禁止しているので,加えて無免許運転・事故・報告の遅れ・虚偽の説明と汚点が積み重なってしまい,一発解雇という厳罰が処された。
比較的早期に日本語を覚える外国人力士に比して大砂嵐は日本語があまり達者でなく,Skypeで母国の友人とよく話して母語アラビア語の感覚を維持し,場所中でもきっちりとラマダーンを行った。facebookやtwitterを使いこなし,角界では極めて珍しい今どきの国際人な若者であった。とはいえ角界になじめなかったというわけではなく,千代丸をはじめとして友人は多く,社交的な性格はここでも通用していた。不祥事が不祥事なので擁護できないが,実に惜しい若者が角界を去ってしまった。
半ば私事であるが,実は今場所全部AbemaTVで見て,休日だけ並行してNHKもつけるというスタイルで初めて視聴してみた。AbemaTVは話題になっているように,
・常にBGMが流れている,しかもヒップホップ
・仕切りの間にCMが流れる
・3日に2日ほどはビギナー枠のゲストが登場し,解説と実況が事細かに大相撲の基本を説明する
・押し力士には無駄にかっこいい紹介Vと謎のレーダーチャートや力士特有のエピソード集が表示され,格闘番組というか格ゲーじみた紹介をしている
といった特徴がある。通して見た感想として,まずBGMとCMは慣れると意外と気にならない。ビギナー枠のゲストは当たり外れが大きく,今後の改善点。他種目のアスリートだったり,頭の回転の早いアイドル・タレントだと大当たりで,特に自身の野球経験を元に語る稲村亜美は大当たりだった。解説は淡々としている人は向いていないが,比較的若い親方や元力士が来るとやはりおもしろい。最高なのは把瑠都の解説。素人目線の解説に慣れているし,適度に挟まれるギャグもおもしろく,解説が非常に的確で技術論が良いし,物言い後の判定等もほとんど予言が的中していた。最後に,紹介Vはよくできている。ちゃんとかっこいいし,特徴が出ている。一方,レーダーチャートとエピソード集はかなりまずく,作り直してほしい。レーダーチャートは基準がバラバラで根拠がなく,実態に即していない。エピソード集は面白いものもあるが,こちらも確証の無いあやしい情報がかなり含まれており,力士に失礼であろう。AbemaTV自体の使い勝手として,ログイン不要・録画しなくてもいい手軽さが最大の魅力で,十分な画質で蛇の目の砂等も十分にわかる。総合すると十分に及第点で,ゲストの様子を見ながら来場所以降も積極的に活用していこうと思う。
個別評。優勝した鶴竜は,よく優勝できたなというくらい悪い出来で,11日目の逸ノ城戦のように力を見せたところもあったが,12日目の栃ノ心戦のように真正面から当たって負けた日もあった。結果として,基本的には引きに引いての薄氷の勝利が多く,一歩間違っていたら13勝2敗どころか10勝5敗となっていた。これについては鶴竜自身に自覚があり,右手薬指のケガが治っておらず,まわしをつかむと強い痛みが出る状態であったから離れて取る相撲にならざるをえず,かといって突き放すのは得意ではないから必然的に引く相撲になったとのことである。相撲の神様が8場所も耐えに耐えた鶴竜に報いを与えたということかもしれないが,それにしてもこの状態の鶴竜を前にして優勝をかっさらえない大関二人が情けないという話もある。したがって,鶴竜が地力を強めたとか復調したという感触は全く無く,来場所以降は不安定飛行に戻りそうで,11勝4敗と予測しておく。
大関。高安は本当に惜しかった。立ち合いの当たりの強さ,当たった後の押していくか組むかの判断,押しと踏み切ったときの突進力も組んだ時の投げのキレもどれもよく,相撲が完成されてきた。一方,負けた3つはどれも不用意な負けで地力が発揮できていない。特に12日目の千代丸戦の敗戦は今場所の流れを完全に変えてしまった。あれを落としていなければ13勝2敗で千秋楽優勝決定戦であり,こうなると高安に分があっただろう。千載一遇のチャンスを逃したと言ってよい。ところで,北の富士氏が「2場所連続の12勝で準優勝であるから,来場所全勝優勝なら横綱昇進の審議にかけるべきでは」とコメントしていた。横綱昇進は「直近2場所が連続で優勝に準ずる成績」であり,また過去の慣例から「直近3場所で36勝」にも引っかかる。あとは優勝経験や過去1年ほどの成績の安定感が加味されるが,高安はケガでの休場を除けば関脇時代から十分に安定しており,来場所優勝なら優勝経験も解消される。したがって,来場所全勝どころか14勝で優勝なら十分に昇進水準であり,むしろ審議にかけられない方がおかしい。個人的には北の富士氏の意見に賛成であるが,世間的にはほとんど反応が無いのが残念である。
豪栄道はやっぱり地元で応援が加熱しすぎるとプレッシャーで力出ないよね,という擁護はできるか。そういえば今場所は首投げを見なかった。首投げが出る時は不調であるが,今場所が好調だったようにも見えず。どうしたのかな。
三役。御嶽海はとうとう関脇を陥落した。7−8ではあるが,出直しに近い。突進力が効く日と効かない日の差が激しく,極めて連相撲の傾向が強い。本当にあの連敗癖はなんとかならないものか。地力は間違いなくあるが,このメンタルでは大関とりはおぼつかない。栃ノ心は相撲ぶり自体は先場所とほぼ変わらず。にもかかわらず10勝で終わったのは運もあるが,かなり対策が立てられてきたというのも大きい。10勝に乗せて大関とりの声もあるが,11勝にならなかったのは厳しい。来場所は大の苦手の白鵬が戻ってくるであろうし,どうか。逆に来場所11勝するようなら本物で,むしろ来場所12勝以上を挙げるようなら,先場所の前頭3枚めでの14勝も加味していきなり大関とりを審議してもよいと思う。逸ノ城は復活したようなしてないような。相変わらず相手を見てやる気を出すかどうか判断している癖はあるが,勝てそうと見なす水準がかなり上がっているようで,やる気のある相撲が多かった。千代大龍はまあ,下りエレベーター。
前頭上位。遠藤はやっと来場所小結である。長かった。人気はあるのに,どうも運がない。相撲ぶり自体は特に変わりがなく,論評しようがない。玉鷲は本当に衰えんなぁ。正代はこんなところで負け越しとは。もろ差しにこだわって自滅する傾向が強かった先場所までに対して,今場所はもろ差しにこだわらなかった相撲が多く,それは良いのだが動きがかえってぎくしゃくしていた。フォームチェンジ中の負け越しだとすると仕方ないのかもしれない。
前頭中盤。魁聖は12勝で立派。負けたのが全部上位陣なのは良いのか悪いのか。それよりは阿炎の10勝の方がインパクトが大きく,動きが激しく見ごたえのある突き押し相撲を取る。本人のビッグマウスやキャラの明るさもあって,あっという間に人気力士の仲間入りしそう。阿炎ほどではないが,大栄翔も突き押しの良さが目立ち,9勝という勝ち星以上に印象があった。千代の国は動きは良かったが,動きが良すぎるというか無駄な動きが多く,あれで体力を消耗するから動きの良さの割に勝てないのでは,と今場所観察していて思った。
前頭下位。栃煌山はいよいよここでも大きく負け越しで,進退が極まりつつある。まだもう少し華麗なもろ差しが見たいし,衰え方が急速すぎるので心配である。勢は豪栄道とは逆に声援をパワーに変えて上りエレベーター。大奄美は10勝していたが,いつの間にか大勝していた感覚で,正直印象がほとんどない。
最後に。大砂嵐が引退した。エジプト出身で,アフリカ大陸初・中東初でムスリム初という初づくめの入門であり,しかも関取になった。2012年3月での初土俵から所要8場所で新十両,2013年7月に所要10場所で新入幕と史上最速ペースで出世し,将来を嘱望された。稀に見るとんでもない膂力の持ち主で,立ち合いのかち上げまたは諸手突きからそのまま突き押していくか,組んでから強烈に引き付けて寄っていく取り口であった。反面,器用さは無く引けばはたきは不格好で,寄りの形はまずくないものの投げ等の工夫がなく,攻めが単調だったために幕内では上手く通用しなかった。身体が非常に固く,無理な体勢でこらえるため膝のケガが頻発し,2015年の上半期あたりで早くも限界が見え始めた。2016年は十両と幕内を行ったり来たりしていたが,2017年には十両に定着してしまっていた。その矢先,2018年年初に無免許で交通事故を起こした。しかも協会に即座に報告せず,警察の取り調べに対しても「妻が運転していた」と虚偽の説明をしていたことが発覚した。協会はそもそも力士の運転を禁止しているので,加えて無免許運転・事故・報告の遅れ・虚偽の説明と汚点が積み重なってしまい,一発解雇という厳罰が処された。
比較的早期に日本語を覚える外国人力士に比して大砂嵐は日本語があまり達者でなく,Skypeで母国の友人とよく話して母語アラビア語の感覚を維持し,場所中でもきっちりとラマダーンを行った。facebookやtwitterを使いこなし,角界では極めて珍しい今どきの国際人な若者であった。とはいえ角界になじめなかったというわけではなく,千代丸をはじめとして友人は多く,社交的な性格はここでも通用していた。不祥事が不祥事なので擁護できないが,実に惜しい若者が角界を去ってしまった。
西の小結が焦点。遠藤を優先させたし,ほぼ間違いなく遠藤だと思うが,玉鷲と魁聖もかなり強い。大栄翔と豊山はすごい番付運でかなりの躍進。幕尻は錦木を残したが,阿武咲または蒼国来が残る可能性もある。
Posted by dg_law at 07:30│Comments(0)