2018年08月06日

『りゅうおうのおしごと!』1〜5巻

私は将棋は駒の動かし方しか知らないレベルであり(よく意外と言われる),結局ほとんどそこから向上しないまま読み続けているので,完璧には楽しめていないと思われる。ついでに言うと囲碁もわからないしチェスもわからない。そうしたパワーは幼少期から大体全部麻雀といただきストリートに吸い込まれてしまったので,今になって若干後悔している。

それでも本作が面白いのはきらめく才能のぶつかり合いとして極上の表現であるからだ。本作2巻に「才能とは輝きだ。その輝きが強ければ強いほど,激しければ激しいほど,人は引きつけられる。」とある通りで,本作の面白さは究極のところこのフレーズに尽きる。磨かれて残った玉同士がぶつかって,真の玉として残るのはいずれか。残れず「石」になってしまった側はどう振る舞うか。本作はそのどちらも面白い。そしてまた,本作の主要人物は勝負師として皆優しすぎるのが良い。象徴的なエピソードが3巻の,あいが桂香さん相手に中盤まで全力を出せなかったシーンと,4巻の勝っているはずの桂香さんが号泣しているシーン。特に後者は強烈で,5巻の竜王防衛戦4戦目を除けばこれがベストバウトかもしれない。桂香さんが名勝負製造機と言われる所以である。

とはいえやはり5巻までの本作の白眉は言わずもがなその竜王防衛戦4戦目で,こういう作品で一番熱い勝負を扱うなら,その競技の本質に迫るものを使うのが最善手になるし,その王道を丁寧に仕上げきった。意外にも私が一番胸打たれたのはゴッドコルドレンさんがニコ生の解説でめちゃくちゃなエールを叫んでいるところ。なんででしょうね。前後の天衣も鵠さんも清滝師匠も姉弟子も良いシーンであるが,一番は横に並ぶライバルというのは,少年漫画を読んで育ってきたからか。


さて,言うまでもなくアニメ組です。アニメの出来については,アニメから入った身としてはあまりdisりたくないところで,加えて原作で言うと2巻まではそこまで削った部分が大きくないと思う(当然ながら個人の感想であって人によっては耐え難い部分が削られたかもしれないが)。一方でその後,3・4巻についてはちょっとスリムになりすぎた感がぬぐえず。アニメはどうしたって12話か13話にまとめる必要があるし,1話ごとに区切る必要もあるから計算して削り落としているのは理解している。加えて1クールのアニメをやるなら終わりは5巻の竜王防衛戦までやりきるしかないのも理解しているが,削ぎ落とされたもののもったいなさを考えると承服しかねるかな。最大の犠牲者はたまよんか山刀伐さんか。

りゅうおうのおしごと! (GA文庫)
白鳥 士郎
SBクリエイティブ
2015-09-12




この記事へのコメント
"ゴッドコルドレン"神鍋六段のシーンは3月のライオンを思い出します。NHK杯で対局する主人公を解説のライバル棋士がスタジオで叱咤するシーンがあって、そちらもなかなか熱いです。

本作は精神的な側面が勝敗に直結するという点が一貫してるように感じており、将棋の技術的な側面を押さえながら対局者のメンタルの違いを描写するバランス感覚の絶妙さが印象に残りました。対局姿勢だけではなく盤外戦術とか細かい所作も丁寧に描写してるところが好きです(一番好きなのは研修会の桂香-天衣戦)

また、どれだけ取材してるんだろうと思わせるような小ネタの数々が好きで、一つ一つ元ネタを解説していったら単行本1巻につき副読書が1巻出せるのではという気すらします。
(こちらのお気に入りは『シェ・ハタケヤマ』(畠山鎮七段)と『糸谷堂』(糸谷哲郎八段)、どちらも関西棋士を代表するスイーツ好き)

6巻以降も良いですよ。特に銀子株が青天井です(個人の感想です)
Posted by Rei@見る将 at 2018年08月08日 02:03
そういう取材の細かい部分を拾えないのは,将棋がわからずに読んでいる人の不利さですね。残念ではありますが,時間が追いつかない……

>一つ一つ元ネタを解説していったら単行本1巻につき副読書が1巻出せるのではという気すらします。
誰かが同人誌で出せばいいのでは感。


実は6・7巻は読んでいます。6巻の銀子株は上がり方がすごかったですね。
8巻は買ってはあります(積んであるともいう)
Posted by DG-Law at 2018年08月09日 00:30