2018年07月05日

ここ3年くらいで見た映画の感想

ここ3年くらいで見た映画で,そのうち感想をきちっと書こうと思って1行だけ感想を書いて放置していたもののうち,諦めたものを放出しておく。諦めた理由も書いておけば,それなりの読み物にはなろう。ジャンル等は完全にバラバラ。

・『グランド・ブダペスト・ホテル』
傑作。ブダペストと名前はついているが,現実の世界ではなくそれを模した架空の世界である。舞台は明らかに東欧で戦間期。戦果を逃れて西アジアから貧しい移民の少年が高級ホテルのベルボーイとして雇われたが,ひょんなことから奇矯な性格のコンシェルジュ(立場としてはほとんど支配人)に気に入られてしまう。しかし,そこからトントン拍子に出世するストーリー等ではなく(それはそれで間違っていないのだが),ホテルの上客のマダム(支配人の愛人)の死とその遺産を巡って非常に錯綜したストーリーが展開する。その背景に,忍び寄るファシズム,貧富の格差に人種差別といった問題が見え隠れし,それだけに奇妙な親交でつながったコンシェルジュとベルボーイの不思議な年の差コンビの友情が光る。で,やっぱりそのサスペンスなのかコメディなのかわからない謎のストーリーに上手く社会問題をねじ込んだ辺りが傑作たる所以で,その辺の感想を描きあぐねていたところ,法華狼さんの短くも優れたレビューを読んでしまい,満足して自分のレビューを放棄した。2014年当時,アメリカでは大ヒットし,アカデミー賞も美術賞他4つもとってるのに,意外なほど日本ではヒットしなかった印象。


・『清須会議』
コメディ路線の三谷幸喜がまじめな歴史物を書こうとしたと思われる作品……なのだが,ぶっちゃけて言うとそんなに面白くない。というよりも三谷幸喜の良さが死んでいて,つまらないとまでは言わんけどこれなら他の人でも作れるだろうと思えてしまう。この後『真田丸』の制作がスタートしたわけだが,これをベースに作られても困る……と思っていたのが最初の方の『真田丸』を見ていなかった理由である。結果的に『真田丸』はかなりコメディ寄りに戻っていて,それがヒットした要因と考えると,本作は必要な犠牲だったのかもしれない。


・『超高速参勤交代』&『超高速参勤交代R』
1作目は一捻りある時代劇という感じで,まずまずおもしろかった。知恵と勇気で困難を乗り越え,お色気あり殺陣ありコメディありで最後は反権力(将軍は悪くないが側近が悪いというのも日本らしい)・勧善懲悪である。要素要素は王道ながら,そこに超高速での参勤交代という意味不明要素を突っ込んだことで上手く回った感がある。一方,二作目の『R』は駄作と言わざるをえない。1作目の美点がことごとく殺されている。タイトルに反して参勤交代自体は文字通り高速ですっとばされ,コメディ色が後退して殺陣が増えた結果,普通の時代劇になってしまった。これは個人の趣味の話になるが,私は理想化された土壌主義(農本主義)が嫌いで,これが邦画を殺しているとすら思っている。どうせやるなら『のぼうの城』くらい振り切れてくれればまだ納得できる。なにゆえ出来の悪い時代劇はそろって戦国〜江戸時代の農村を賛美するのか。そこに領民を慈しむ領主を登場させるのか。大体最後は村祭で武士と農民がそろって踊るシーンで締めくくられるのか。疑問で仕方がない。


・『君の名は。』

3年ずれてるのに気づく要素なんていっぱいあったやろ,という最大のツッコミどころを除くと,意外と嫌いではない作品。ただし,伝奇的な設定については整合性がとれているのとは別の問題で,外に投げざるをえない事情を察することができるとはいえ,小説に丸投げしていたのはどうかと思う。RADWINPSは当時普通に存在を知らなかったので,BUMPじゃね?って思ってしまったことを今更ながら懺悔しておく。あと,日本映画史上に残るほどのヒット作になるとは全く思っていなかった。新海誠は『はるのあしおと』でファンになって,それなりに大体見てる程度には好きだが,遠くに旅立っていって寂しい気持ちは正直に言ってある。


この記事へのコメント
君の名は。ゼロ年代エロゲの知識がすごく邪魔をして楽しめませんでしたね笑
Posted by みかか at 2018年07月07日 23:09
ループもの多かったですからね。どうしてもちらつくものはありましたね。
Posted by DG-Law at 2018年07月10日 19:12
>なにゆえ出来の悪い時代劇はそろって戦国〜江戸時代の農村を賛美するのか
>そこに領民を慈しむ領主を登場させるのか

 これは簡単な話で現代日本を生きる我々が、現代を覆うカネの多寡が全てを決めるという拝金主義、ひいては近代社会に対するアンチテーゼとして昔の農村を理想化したがる、という心の働きがあるのでしょう。
また現代の私たちは都市に住みリーマンとして暮らし、コンビニ、Amazon、ハイテク機器など便利な道具や生活を享受してる人がほとんどですから、農村に対するリアルな実感が持てないというのも一因ではないでしょうか。
Posted by N at 2018年07月24日 23:47
発想が貧困すぎると言えばいいのか,そこで出てくるのがお優しい領主様と村祭しかないのはどうしたものかというのが一つ。近代社会に対するアンチテーゼがよりによって戦国〜江戸時代の農村でなくてもよかろうというのが一つ,というのが補足になります。
別にそういう作品を避けて見ないようにすればいいんですが,『超高速参勤交代』や『のぼうの城』のように別の文脈からそっちに飛んでいかれると回避しようがないですね。
Posted by DG-Law at 2018年07月29日 15:12