2018年07月21日

三十六歌仙特集

佐竹本三十六歌仙絵「柿本人麿」出光美術館の「人麿影供900年 歌仙と古筆」展に行ってきた。1118年に柿本人麻呂を歌仙として奉る影供が始まったことから,今年がその900周年である。そこで,日本人がいかに柿本人麻呂を中心とする三十六歌仙を奉ってきたかを展示品で説明しているのがこの企画展である。

そういう企画展なので断簡・古筆が多めかと思いきや,歌仙たちの肖像画が多めの展示となっていて,私でもかなり楽しめるものであった。当然ながら柿本人麻呂を描いた絵が最も多かったが,柿本人麻呂はリラックスして寝そべったような体勢で描かれることが多く(今回の画像もそれ),それが詩仙こと李白の造形から来ていることや,その体勢が実質的に三十六歌仙の集合絵において彼のアトリビュートとして機能していること等の説明がなかなかおもしろかった。画家としては土佐派や住吉派が意外と少なく,かわって多かったのが岩佐又兵衛である。これは出光美術館が多く持っているという事情か。三十六歌仙図は複数の画家で何作か出ていたが,どれを見ても描き分けに苦労してそうな様子がある。やはり36人は多い。その中でアトリビュートが体勢によって完全に確立されていてわかりやすいのが柿本人麻呂で,さすがに特別扱いされているのもよく見て取れる。

作品単品では,俵屋宗達の「西行物語絵巻」の第一巻が展示されていて,久しぶりに生で見ることが出来た。東方信者なので,どうしたって西行の娘が蹴飛ばされている例のシーンはテンションが上がってしまう。西行自身が書いたとされる『中務集』の展示もあった。また,企画展の主題の都合上,日本の作品だけかと思いきや,比較例として伝趙孟頫の「陶淵明図」が展示されていた。これもいい作品である。本展覧会で最も年代が新しい作品として鈴木其一のものが展示されていたが,例によって天地にまではみ出して描く作風で大変鈴木其一らしいものであった。彼の「36人も画中に書いたらそれだけで画面が埋まっちまうよ。模様は画面外に描こう」という声が聞こえてきそうである。

最後に,書について。私は全くの門外漢でそもそも崩し字が読めないが,古筆手鑑「見努世友(みぬよのとも)」はさすがにちょっと感動した。指定は国宝である。古筆の断簡を集めて1冊の書としたものであるが,「見努世友」は保存状態が良く,三十六歌仙の多くを含む平安時代から室町時代にかけての古筆が229枚収集されている。これはその貴重さがよく伝わってきて,門外漢が見てもおもしろかった。