2018年07月25日
「雷電以来」というと仰々しい
怒涛の展開で優勝争いが混沌とし,結果的に優勝したのは関脇であった。横綱が全員休場という状態についてはもはやここ1年くらいでは珍しくもなくなってきた。そこで優勝するのが大関ならば順当だが,なかなかそうもならないのはおもしろいところだろう。けが人多数で休場者多数はあったが,残った人たちの相撲は熱く,おもしろいものが多かったと思う。特に御嶽海・朝乃山・豊山は突出してすばらしく,この3人のための場所という様相だった。惜しむらくは私自身が忙しすぎてリアルタイムで見た相撲がほとんどゼロに近いということだ。
優勝した御嶽海は13勝,先場所9勝なので来場所11勝なら合計33勝になるが,ここまでの22勝に横綱戦勝利がないというのは指摘されても仕方のないところであろう。今場所の優勝を加点要素としても,11勝なら中身に横綱戦白星がほしいところであるし,3人休場で不在だとか手負いでどうしようもない状態ならば12勝をボーダーにしたいところ。3横綱4大関で飽和してしまうというのも協会としてはネックであり,状況的に言って思われているほど易しくない大関とりになると思われる。なお,長野県出身力士としては昭和以降で初,江戸時代まで含めても雷電以来とのこと。
個別評。横綱・大関。白鵬は悪くなさそうであったので,出場し続けることができていれば優勝は固かった。もったいない。鶴竜の方は休場して正解という出来。稀勢の里は8場所連続の休場だが,さすがにすぱっと引退したほうがいい状況になってきたように思う。おそらく,足腰が多少の稽古と実戦ではどうしようもないくらいに弱っていると思われる。栃ノ心の休場は残念至極で,しかもケガの状態によっては来場所あっさりカド番脱出できるとも断言できそうにない。非常に心配である。高安は腰の痛みがひどいようで,思うように動けていない。千秋楽,立ち合いの諸手突きを豪栄道にかわされて難なくあしらわれてしまったのが象徴的。その豪栄道は平常営業といったところ。ただ,横綱全休ならお前が優勝せいよと思ってしまう。今場所で平常営業はダメだろう。
三役。御嶽海は特に相撲ぶりが変わったわけではないが,毎場所序盤は良くて終盤は失速するところ,今場所は優勝争いの先頭に立ったことでブーストがかかってスタミナが最後までもったという印象である。先場所の評に「大関取りには地力が一段足りないことがまたしても立証されたというか」と書いている通りで,来場所は本当に正念場になると思われる。好調に乗っかって地力を成長させてほしい。逸ノ城は御嶽海以上に横綱不在の恩恵を受けた力士で,上位戦や合口の悪い相手になると途端に無気力になるの,本当に止めてほしい。現時点では勝ち越しに価値がないと言わざるをえない。玉鷲・松鳳山は特には。
前頭上位。阿炎は先場所よりも対策されて勝てなくなってしまった。もう一皮むけたいところ。威力か機敏さか,いずれかがほしい。一方,貴景勝は完全に復調した。とはいえ今場所は中途半端な上位挑戦になってしまったので,来場所は横綱戦での動きを見たいところ。嘉風は動きがそこまで悪かったわけでもないのに初日から13連敗した。かと思えば同じような相撲ぶりで14日目に勝つと,千秋楽は先日まで13連敗していたとは思えない相撲で連勝した。北の富士も言っていたが,勝ち星を並べることの難しさについて考えさせられるのが,今場所の嘉風であった。
前頭中盤。千代大龍は先場所の評に「MSPを長らく封印しているが,あれなら復活させたほうが良い。立ち合いで崩したなら二の手で引いてみてはどうか。」と書いたら本当にやっていた。本人も同じようなことを考えていたのかもしれない。結果9−6なので良かったのでは。宝富士はこんな地位なら勝ち越しだろうと思っていたのだが,7−8で負け越した。左四つでも万全ではなくなってきたので,衰えているのかもしれない。伊勢ヶ濱部屋の状態が状態なので,精神的なものもあるのかも。
さて,今場所躍進した豊山は,ようやく目立つ存在になってきたのかもしれない。中盤までは同じように勝ち星をあげた朝乃山に比べると印象が薄かったのだが,14日目に一気の出足で高安を破り,千秋楽はまず間違いなく平成30年度全場所のベストバウトになるであろう大熱戦で御嶽海を破り,一気に印象が良くなった。恵まれた身体を持ちながらも幕内のスピードについていけず星が上がっていなかったが,今場所ついに順応した。突き押し相撲だが引きに頼らずとにかく押すタイプで,しかし圧倒的なパワーで押し切るよりは技巧があり,四つになってもかなり対応が効く。これはこれであまり見ないタイプに成長しつつあるのかもしれない。
前頭下位。碧山は上りエレベーターであるはずのところ8勝止まりで,ケガでもしていたか動きが鈍かった。一方,阿武咲と栃煌山と北勝富士は順当な上りエレベーターである。最後に朝乃山。今場所見ていて一番楽しかったのは朝乃山の相撲で,右四つの本格派がやっと開花した。とにかく寄りの形が整っていて安心感があり,これなら大概の相手は持っていけるだろう。ただし,その意味で今場所魁聖に四つ相撲で負けてしまったのは一つの試金石で,まだ上位定着とはいかなさそうである。少なくともエレベーターと呼べる地位にはなりそうなので,経験を積んで成長してほしい。非常に期待して見ている。
さて,書きそびれていた関取引退について言及しておく。まず翔天狼。突き押しでも組んでもとれたが,かえってどちらも中途半端になってしまう傾向はあった。出世が遅く,2009年3月に27歳,所要48場所でやっと入幕した。その年の名古屋場所で,無敵を誇っていた白鵬から金星を獲得し,突如として注目を浴びた。奇しくも白鵬は初土俵同期である。しかし,その後は今ひとつぱっとせず,最高位は前頭2枚目で終わった。2017年に日本国籍を取得したものの,9月に悪性リンパ腫を患っていたことがわかり,復帰に望みをかけていたが,その年の年末にあえなく引退となった。2017年1月には時天空が悪性リンパ腫で亡くなっているので,かなり心配である。一応,2018年5月には親方として職務に復帰した。
次に北太樹。この人も下積み期間が長く,特に幕下で時間がかかり,1998年の角界入りから約10年かかって十両となった。とはいえ今どき珍しい中卒のたたき上げであり,2010年から2015年にかけて約6年間,長く幕内に定着した。速攻相撲が持ち味で,立ち合いからの一気の出足と左差しで一気に持っていく相撲が取り口であった。ただし,左差しが入らないと出足がくじかれる傾向があり,また長引くとはたき以外の技が出てこなくなる悪癖もあり,上位では対策されてしまい,エレベーターの地位から脱することができなかった。最高位は前頭2枚目。左膝の故障が慢性化しており,2016年頃からかばいきれなくなって力を落とし,その後も2年は十両でとったが,2018年5月に引退した。
最後に阿夢露。最初は「あむうる」とは読めず,「アムロ? ガンダムかな?」と思っていた。2002年初土俵,2012年新十両とこの人もまた10年かかった苦労人である。白人の力士らしくソップ型,細身の身体で,にもかかわらず力の入った相撲を取るためかどうしてもケガに見舞われやすく,2012年大阪・新十両の場所で大ケガをして5場所全休,序二段のほぼ振り出しに戻ったが,丸2年かかって2014年大阪で再十両,そのままの勢いで九州場所で新入幕となった。所要,なんと74場所,この時すでに31歳である。細身の割にはパワーがあったが,技巧があったわけでもなく,不格好な四つながら不思議と寄っていった。幕内の壁は厚く,最高位は前頭5枚目だが,基本的には10枚目前後でとっており,エレベーターにもなれなかった。年齢から来る衰えからか徐々に力を落としていき,2017年3月からは幕下,2018年5月に引退となった。3人ともお疲れ様でした。
優勝した御嶽海は13勝,先場所9勝なので来場所11勝なら合計33勝になるが,ここまでの22勝に横綱戦勝利がないというのは指摘されても仕方のないところであろう。今場所の優勝を加点要素としても,11勝なら中身に横綱戦白星がほしいところであるし,3人休場で不在だとか手負いでどうしようもない状態ならば12勝をボーダーにしたいところ。3横綱4大関で飽和してしまうというのも協会としてはネックであり,状況的に言って思われているほど易しくない大関とりになると思われる。なお,長野県出身力士としては昭和以降で初,江戸時代まで含めても雷電以来とのこと。
個別評。横綱・大関。白鵬は悪くなさそうであったので,出場し続けることができていれば優勝は固かった。もったいない。鶴竜の方は休場して正解という出来。稀勢の里は8場所連続の休場だが,さすがにすぱっと引退したほうがいい状況になってきたように思う。おそらく,足腰が多少の稽古と実戦ではどうしようもないくらいに弱っていると思われる。栃ノ心の休場は残念至極で,しかもケガの状態によっては来場所あっさりカド番脱出できるとも断言できそうにない。非常に心配である。高安は腰の痛みがひどいようで,思うように動けていない。千秋楽,立ち合いの諸手突きを豪栄道にかわされて難なくあしらわれてしまったのが象徴的。その豪栄道は平常営業といったところ。ただ,横綱全休ならお前が優勝せいよと思ってしまう。今場所で平常営業はダメだろう。
三役。御嶽海は特に相撲ぶりが変わったわけではないが,毎場所序盤は良くて終盤は失速するところ,今場所は優勝争いの先頭に立ったことでブーストがかかってスタミナが最後までもったという印象である。先場所の評に「大関取りには地力が一段足りないことがまたしても立証されたというか」と書いている通りで,来場所は本当に正念場になると思われる。好調に乗っかって地力を成長させてほしい。逸ノ城は御嶽海以上に横綱不在の恩恵を受けた力士で,上位戦や合口の悪い相手になると途端に無気力になるの,本当に止めてほしい。現時点では勝ち越しに価値がないと言わざるをえない。玉鷲・松鳳山は特には。
前頭上位。阿炎は先場所よりも対策されて勝てなくなってしまった。もう一皮むけたいところ。威力か機敏さか,いずれかがほしい。一方,貴景勝は完全に復調した。とはいえ今場所は中途半端な上位挑戦になってしまったので,来場所は横綱戦での動きを見たいところ。嘉風は動きがそこまで悪かったわけでもないのに初日から13連敗した。かと思えば同じような相撲ぶりで14日目に勝つと,千秋楽は先日まで13連敗していたとは思えない相撲で連勝した。北の富士も言っていたが,勝ち星を並べることの難しさについて考えさせられるのが,今場所の嘉風であった。
前頭中盤。千代大龍は先場所の評に「MSPを長らく封印しているが,あれなら復活させたほうが良い。立ち合いで崩したなら二の手で引いてみてはどうか。」と書いたら本当にやっていた。本人も同じようなことを考えていたのかもしれない。結果9−6なので良かったのでは。宝富士はこんな地位なら勝ち越しだろうと思っていたのだが,7−8で負け越した。左四つでも万全ではなくなってきたので,衰えているのかもしれない。伊勢ヶ濱部屋の状態が状態なので,精神的なものもあるのかも。
さて,今場所躍進した豊山は,ようやく目立つ存在になってきたのかもしれない。中盤までは同じように勝ち星をあげた朝乃山に比べると印象が薄かったのだが,14日目に一気の出足で高安を破り,千秋楽はまず間違いなく平成30年度全場所のベストバウトになるであろう大熱戦で御嶽海を破り,一気に印象が良くなった。恵まれた身体を持ちながらも幕内のスピードについていけず星が上がっていなかったが,今場所ついに順応した。突き押し相撲だが引きに頼らずとにかく押すタイプで,しかし圧倒的なパワーで押し切るよりは技巧があり,四つになってもかなり対応が効く。これはこれであまり見ないタイプに成長しつつあるのかもしれない。
前頭下位。碧山は上りエレベーターであるはずのところ8勝止まりで,ケガでもしていたか動きが鈍かった。一方,阿武咲と栃煌山と北勝富士は順当な上りエレベーターである。最後に朝乃山。今場所見ていて一番楽しかったのは朝乃山の相撲で,右四つの本格派がやっと開花した。とにかく寄りの形が整っていて安心感があり,これなら大概の相手は持っていけるだろう。ただし,その意味で今場所魁聖に四つ相撲で負けてしまったのは一つの試金石で,まだ上位定着とはいかなさそうである。少なくともエレベーターと呼べる地位にはなりそうなので,経験を積んで成長してほしい。非常に期待して見ている。
さて,書きそびれていた関取引退について言及しておく。まず翔天狼。突き押しでも組んでもとれたが,かえってどちらも中途半端になってしまう傾向はあった。出世が遅く,2009年3月に27歳,所要48場所でやっと入幕した。その年の名古屋場所で,無敵を誇っていた白鵬から金星を獲得し,突如として注目を浴びた。奇しくも白鵬は初土俵同期である。しかし,その後は今ひとつぱっとせず,最高位は前頭2枚目で終わった。2017年に日本国籍を取得したものの,9月に悪性リンパ腫を患っていたことがわかり,復帰に望みをかけていたが,その年の年末にあえなく引退となった。2017年1月には時天空が悪性リンパ腫で亡くなっているので,かなり心配である。一応,2018年5月には親方として職務に復帰した。
次に北太樹。この人も下積み期間が長く,特に幕下で時間がかかり,1998年の角界入りから約10年かかって十両となった。とはいえ今どき珍しい中卒のたたき上げであり,2010年から2015年にかけて約6年間,長く幕内に定着した。速攻相撲が持ち味で,立ち合いからの一気の出足と左差しで一気に持っていく相撲が取り口であった。ただし,左差しが入らないと出足がくじかれる傾向があり,また長引くとはたき以外の技が出てこなくなる悪癖もあり,上位では対策されてしまい,エレベーターの地位から脱することができなかった。最高位は前頭2枚目。左膝の故障が慢性化しており,2016年頃からかばいきれなくなって力を落とし,その後も2年は十両でとったが,2018年5月に引退した。
最後に阿夢露。最初は「あむうる」とは読めず,「アムロ? ガンダムかな?」と思っていた。2002年初土俵,2012年新十両とこの人もまた10年かかった苦労人である。白人の力士らしくソップ型,細身の身体で,にもかかわらず力の入った相撲を取るためかどうしてもケガに見舞われやすく,2012年大阪・新十両の場所で大ケガをして5場所全休,序二段のほぼ振り出しに戻ったが,丸2年かかって2014年大阪で再十両,そのままの勢いで九州場所で新入幕となった。所要,なんと74場所,この時すでに31歳である。細身の割にはパワーがあったが,技巧があったわけでもなく,不格好な四つながら不思議と寄っていった。幕内の壁は厚く,最高位は前頭5枚目だが,基本的には10枚目前後でとっており,エレベーターにもなれなかった。年齢から来る衰えからか徐々に力を落としていき,2017年3月からは幕下,2018年5月に引退となった。3人ともお疲れ様でした。
貴景勝が再小結。豊山は惜しくも新三役になれそうにない。入れ替えは荒鷲,明生,琴恵光が十両へ。代わって貴ノ岩,隆の勝,琴勇輝が上がってくる。安美錦はあと1勝足りなかった。
Posted by dg_law at 01:48│Comments(2)
この記事へのコメント
横綱不在、新大関不在、カド番大関2人がやっと勝ち越した場所でした。豪栄道は、白星のときは眼を見張るような勝ちっぷりなのですが、好不調が激しかった。御嶽海の安定感には勝てませんでした。
逸ノ城は、豪栄道に輪をかけて黒星のときがあっけなく、たまさか14日目に勝ててしまったので、千秋楽には怪我を抱えているとしか思えない遠藤を相手にまさかの勝ち越し。終盤の遠藤は、一時期の休場を心配されたような脆さでした。
朝乃山はよく健闘、優勝争いを演じてくれました。豊山は、千秋楽での御嶽海との大一番が長く記憶に残りそうです。
十両では、復帰の貴ノ岩とそろそろ若手と呼べなくなってきた隆の勝の一騎打ち。希善龍がまた十両から陥落、再度戻って記録を更新してもらいたいものです。来場所は、白鷹山・炎鵬・常幸龍・天空海の帰り十両ばかりらしく、常幸龍はここまで長かった。
逸ノ城は、豪栄道に輪をかけて黒星のときがあっけなく、たまさか14日目に勝ててしまったので、千秋楽には怪我を抱えているとしか思えない遠藤を相手にまさかの勝ち越し。終盤の遠藤は、一時期の休場を心配されたような脆さでした。
朝乃山はよく健闘、優勝争いを演じてくれました。豊山は、千秋楽での御嶽海との大一番が長く記憶に残りそうです。
十両では、復帰の貴ノ岩とそろそろ若手と呼べなくなってきた隆の勝の一騎打ち。希善龍がまた十両から陥落、再度戻って記録を更新してもらいたいものです。来場所は、白鷹山・炎鵬・常幸龍・天空海の帰り十両ばかりらしく、常幸龍はここまで長かった。
Posted by EN at 2018年07月28日 14:05
豪栄道はもうあれが平常営業なので,文句をつける気も起きないですね。優勝した場所は良かったんですけどね……
逸ノ城はおっしゃる通りですが,豪栄道は本人の好不調に見える一方,逸ノ城はあからさまに相手と展開を見て力の抜き具合を決めているので,良くないですね。14日目の豪栄道戦は逸ノ城からすると勝つ予定では無かったところ,展開で勝ててしまったようにも見えました。
遠藤は終盤どこかのケガが再発しましたかね。
朝乃山と豊山は本当に良かったですね。千秋楽の大熱戦は,二人の今後の出世によっては語り継がれる一番になると思います。
常幸龍の帰り十両は長かったですね。幕下からなかなか上がってこれませんでした。3月の結果で5月は関取復帰かと思われたんですが,運が無かった。
逸ノ城はおっしゃる通りですが,豪栄道は本人の好不調に見える一方,逸ノ城はあからさまに相手と展開を見て力の抜き具合を決めているので,良くないですね。14日目の豪栄道戦は逸ノ城からすると勝つ予定では無かったところ,展開で勝ててしまったようにも見えました。
遠藤は終盤どこかのケガが再発しましたかね。
朝乃山と豊山は本当に良かったですね。千秋楽の大熱戦は,二人の今後の出世によっては語り継がれる一番になると思います。
常幸龍の帰り十両は長かったですね。幕下からなかなか上がってこれませんでした。3月の結果で5月は関取復帰かと思われたんですが,運が無かった。
Posted by DG-Law at 2018年07月29日 15:37