2018年08月01日
世界史上の諸君主の出題頻度グレーディング:フランス王(ブルボン朝・ボナパルト朝以後)編
次はイギリスの王朝で頼むという声もあったが,一度フランスを終わらせることにする。そういうわけでブルボン朝とボナパルト朝。
基準はこれまでと同様に以下の通り。
A:基礎知識。センター試験世界史B以上の入試を受けるなら知ってないとダメ。
B:国立二次・MARCH以上の私大を受けるなら必要。
B-:教科書に載っていて用語集頻度もそれなりに高いが,便宜上掲載されているという色彩が強く,実際には入試にはほとんど出ない。ネルウァが好例。
C:高校世界史範囲内・外のグレーゾーン。用語集頻度が低いか掲載されていないもの,または旧課程では範囲内だったもの等,早慶上智対策としてなら見るもの。
D:高校世界史範囲外だが,早慶上智でなら見たことがある。満点が欲しいなら覚えてもいい(が当然推奨しない)。
E:完全な高校世界史範囲外で,早慶上智ですら10年に1回未満のレベルでしか見たことがない。
視認性を高めるために,グレーディングのアルファベットに沿って☆を付した。Aなら6個,Eなら1個である。ズレがあったら☆の数の方が間違いなのでアルファベットの方を信じてほしい。意外と思われそうな人は赤で表示した。また,感覚には個人差があるので☆半分くらいは異論があると思われる。特に綿密にデータを収集してデジタルな判断をしたわけではないので,DとEの差については多く異論がありそうだが,そこはご寛恕いただきたい。以下,本編。
《ブルボン朝》
さすがに全員出題される。アンリ4世はルイ14世・フィリップ4世・ナポレオン1世辺りと並ぶ最頻出事項。ナント王令は偉大であった。ルイ13世は本人を出題するくらいならリシュリューを出すことの方が多いが,聞かれないわけでもない。三部会停止・リシュリューの登用・三十年戦争参戦辺り。ルイ14世・ルイ16世は説明不要だろう。ルイ15世は教科書上はよく載っているが,実際にはあまり問われない。たまに盲点を突くつもりで「七年戦争時の君主」等で出題しようにも,ルイ14世とルイ16世の間だから推測がついてしまうという盲点のならなさが彼にとっての不幸(?)になった。
《ボナパルト朝以後》
ここも全員出題される様相。とすると逆に言えば,さして出題されない最後の王はアンリ3世までさかのぼるか。多くは補足不要と思われるが,復古王政の二人だけ。ルイ18世は復古王政の最初として問われる。近年では,現実が見えていて事実上の憲法も発布し,立憲君主制と復古的絶対王政のバランスをとってウィーン体制を軟着陸させようと必死だった人という評価に変わっている。ただし,周囲の貴族層は過剰に反動的であり,それに同調した弟が後継者だったのがよくなかった。そうして即位したシャルル10世は,七月革命前夜のどさくさに紛れてアルジェリアに出兵したという文脈で出題されることが多い。七月王政も出兵は継続した。揺らぐフランスの移民政策という文脈で,今後はより出題されるようになるかもしれない。ナポレオン3世の高校世界史における立ち位置は,以前に『怪帝ナポレオン3世』の書評にひっかけて書いた通り。
以下はおまけで,第三共和政以後の主要な首相・大統領。本企画の主眼は諸君主にあるが,どうせなので主要な首相・大統領も作ってみることにした。首相・大統領の場合,多くがEになってしまうので,D以上の人物のみ掲載した。記載のない人物は基本的にEにグレーディングされていると考えてもらってかまわない。
《第三共和政・ヴィシー政権の主要な首相・大統領》
ティエールは七月王政期に首相となり,長くフランス政界で活動した。初代第三共和政の大統領となり,普仏戦争敗戦後の混乱を収めた。パリ=コミューンをドイツ軍の支援で鎮圧したので,一部の人たちからは蛇蝎のごとく嫌われている。グレーディングとしてはBで,センター止まりなら不要だがそれ以上なら覚えておいてほしいところ。フランス第三共和政は基本的に大統領権限が弱いので,大統領として登場するのはこの人だけ。クレマンソーはパリ講和会議時のフランス首相。対独復讐強硬論を唱えたことで有名。上野の国立西洋美術館に肖像画があるので,見たことがない人は是非。 ポワンカレはルール占領時の首相。用語集頻度は意外と高いが,最近出ない。ブリアンはロカルノ条約とパリ不戦条約の立役者で,覚えてないと死んじゃうやつ。とはいえ実はロカルノ条約もパリ不戦条約も締結時は外相で,首相ではないというひっかけ問題なのがいやらしい。ところで,1920年代のフランスはポワンカレとブリアン,エリオとあと1・2人でぐるぐると政権を回していて,初期から桂園時代くらいまでの明治政府状態である。小党乱立と離合集散の悪い面であり,そりゃ国民も政治不信になるよなと思う。ブルムは評価が難しいところ。一応Bにしたが,人によってはCにすると思う。フランスで成立した人民戦線内閣の首相で,有給休暇制度と週40時間労働制を主要国で初めて法制化した人。ダラディエはミュンヘン会談に出席した首相。ペタンはBにしたが,人によってはAとするかもしれず,それでも納得する。
こうして並べてみると納得のメンバーであり,しいて言えばポワンカレが不要(D以下でいい)かなと思うくらい。なお,第二帝政以前の首相に言及するなら,ギゾーがC(最近全く見ない),カヴェニャックがD,残りはEか。
《第四・第五共和政の主要な首相・大統領》
ひょっとして第四共和政の首相で登場するの,シューマンだけでは。しかもシューマン=プラン発表時は外相であって首相ではないのはブリアンと同じ現象。ド=ゴールは言うまでもなし。ポンピドゥーはどこかで出てたかもしれないが,ぱっと思い出せない。Eでもよかったかもしれない。ジスカールデスタンはサミットの提唱者として稀に見る。実は2014年の現行課程から用語集から外れて範囲外になった。ミッテランは第五共和政初の社会党政権として用語集頻度はそれなりにあるが,出題頻度はジスカールデスタンと変わらない。シラクも現行課程から範囲外になった。そもそも近年の入試でほとんど見たこと無いが。サルコジ以降は用語集未収録。
近現代までたどりついてわかったことがある。主要国の近現代史になるとおそらく高校世界史と世間の歴史ファンや一般教養とのズレは小さくなり,あまりやる意味がないということだ。
基準はこれまでと同様に以下の通り。
A:基礎知識。センター試験世界史B以上の入試を受けるなら知ってないとダメ。
B:国立二次・MARCH以上の私大を受けるなら必要。
B-:教科書に載っていて用語集頻度もそれなりに高いが,便宜上掲載されているという色彩が強く,実際には入試にはほとんど出ない。ネルウァが好例。
C:高校世界史範囲内・外のグレーゾーン。用語集頻度が低いか掲載されていないもの,または旧課程では範囲内だったもの等,早慶上智対策としてなら見るもの。
D:高校世界史範囲外だが,早慶上智でなら見たことがある。満点が欲しいなら覚えてもいい(が当然推奨しない)。
E:完全な高校世界史範囲外で,早慶上智ですら10年に1回未満のレベルでしか見たことがない。
視認性を高めるために,グレーディングのアルファベットに沿って☆を付した。Aなら6個,Eなら1個である。ズレがあったら☆の数の方が間違いなのでアルファベットの方を信じてほしい。意外と思われそうな人は赤で表示した。また,感覚には個人差があるので☆半分くらいは異論があると思われる。特に綿密にデータを収集してデジタルな判断をしたわけではないので,DとEの差については多く異論がありそうだが,そこはご寛恕いただきたい。以下,本編。
《ブルボン朝》
君主名 | グレーディング | |
---|---|---|
アンリ4世 | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ルイ13世 | B | ☆☆☆☆☆ |
ルイ14世 | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ルイ15世 | B- | ☆☆☆☆ |
ルイ16世 | A | ☆☆☆☆☆☆ |
さすがに全員出題される。アンリ4世はルイ14世・フィリップ4世・ナポレオン1世辺りと並ぶ最頻出事項。ナント王令は偉大であった。ルイ13世は本人を出題するくらいならリシュリューを出すことの方が多いが,聞かれないわけでもない。三部会停止・リシュリューの登用・三十年戦争参戦辺り。ルイ14世・ルイ16世は説明不要だろう。ルイ15世は教科書上はよく載っているが,実際にはあまり問われない。たまに盲点を突くつもりで「七年戦争時の君主」等で出題しようにも,ルイ14世とルイ16世の間だから推測がついてしまうという盲点のならなさが彼にとっての不幸(?)になった。
《ボナパルト朝以後》
君主名 | グレーディング | |
---|---|---|
ナポレオン1世 | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ルイ18世 | B | ☆☆☆☆☆ |
シャルル10世 | B | ☆☆☆☆☆ |
ルイ=フィリップ | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ナポレオン3世 | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ここも全員出題される様相。とすると逆に言えば,さして出題されない最後の王はアンリ3世までさかのぼるか。多くは補足不要と思われるが,復古王政の二人だけ。ルイ18世は復古王政の最初として問われる。近年では,現実が見えていて事実上の憲法も発布し,立憲君主制と復古的絶対王政のバランスをとってウィーン体制を軟着陸させようと必死だった人という評価に変わっている。ただし,周囲の貴族層は過剰に反動的であり,それに同調した弟が後継者だったのがよくなかった。そうして即位したシャルル10世は,七月革命前夜のどさくさに紛れてアルジェリアに出兵したという文脈で出題されることが多い。七月王政も出兵は継続した。揺らぐフランスの移民政策という文脈で,今後はより出題されるようになるかもしれない。ナポレオン3世の高校世界史における立ち位置は,以前に『怪帝ナポレオン3世』の書評にひっかけて書いた通り。
以下はおまけで,第三共和政以後の主要な首相・大統領。本企画の主眼は諸君主にあるが,どうせなので主要な首相・大統領も作ってみることにした。首相・大統領の場合,多くがEになってしまうので,D以上の人物のみ掲載した。記載のない人物は基本的にEにグレーディングされていると考えてもらってかまわない。
《第三共和政・ヴィシー政権の主要な首相・大統領》
政治家名 | グレーディング | |
---|---|---|
ティエール(大統領) | B | ☆☆☆☆☆ |
クレマンソー | B | ☆☆☆☆☆ |
ポワンカレ | C | ☆☆☆ |
ブリアン | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ブルム | B | ☆☆☆☆☆ |
ダラディエ | B | ☆☆☆☆☆ |
ペタン(国家元首) | B | ☆☆☆☆☆ |
ティエールは七月王政期に首相となり,長くフランス政界で活動した。初代第三共和政の大統領となり,普仏戦争敗戦後の混乱を収めた。パリ=コミューンをドイツ軍の支援で鎮圧したので,一部の人たちからは蛇蝎のごとく嫌われている。グレーディングとしてはBで,センター止まりなら不要だがそれ以上なら覚えておいてほしいところ。フランス第三共和政は基本的に大統領権限が弱いので,大統領として登場するのはこの人だけ。クレマンソーはパリ講和会議時のフランス首相。対独復讐強硬論を唱えたことで有名。上野の国立西洋美術館に肖像画があるので,見たことがない人は是非。 ポワンカレはルール占領時の首相。用語集頻度は意外と高いが,最近出ない。ブリアンはロカルノ条約とパリ不戦条約の立役者で,覚えてないと死んじゃうやつ。とはいえ実はロカルノ条約もパリ不戦条約も締結時は外相で,首相ではないというひっかけ問題なのがいやらしい。ところで,1920年代のフランスはポワンカレとブリアン,エリオとあと1・2人でぐるぐると政権を回していて,初期から桂園時代くらいまでの明治政府状態である。小党乱立と離合集散の悪い面であり,そりゃ国民も政治不信になるよなと思う。ブルムは評価が難しいところ。一応Bにしたが,人によってはCにすると思う。フランスで成立した人民戦線内閣の首相で,有給休暇制度と週40時間労働制を主要国で初めて法制化した人。ダラディエはミュンヘン会談に出席した首相。ペタンはBにしたが,人によってはAとするかもしれず,それでも納得する。
こうして並べてみると納得のメンバーであり,しいて言えばポワンカレが不要(D以下でいい)かなと思うくらい。なお,第二帝政以前の首相に言及するなら,ギゾーがC(最近全く見ない),カヴェニャックがD,残りはEか。
《第四・第五共和政の主要な首相・大統領》
政治家名 | グレーディング | |
---|---|---|
シューマン(首相) | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ド=ゴール | A | ☆☆☆☆☆☆ |
ポンピドゥー | D | ☆☆ |
ジスカールデスタン | C | ☆☆☆ |
ミッテラン | C | ☆☆☆ |
シラク | D | ☆☆ |
ひょっとして第四共和政の首相で登場するの,シューマンだけでは。しかもシューマン=プラン発表時は外相であって首相ではないのはブリアンと同じ現象。ド=ゴールは言うまでもなし。ポンピドゥーはどこかで出てたかもしれないが,ぱっと思い出せない。Eでもよかったかもしれない。ジスカールデスタンはサミットの提唱者として稀に見る。実は2014年の現行課程から用語集から外れて範囲外になった。ミッテランは第五共和政初の社会党政権として用語集頻度はそれなりにあるが,出題頻度はジスカールデスタンと変わらない。シラクも現行課程から範囲外になった。そもそも近年の入試でほとんど見たこと無いが。サルコジ以降は用語集未収録。
近現代までたどりついてわかったことがある。主要国の近現代史になるとおそらく高校世界史と世間の歴史ファンや一般教養とのズレは小さくなり,あまりやる意味がないということだ。
Posted by dg_law at 12:00│Comments(0)